アルボウイルス感染症とウイルス性出血熱
ARBOVIRUS INFECTIONS & VIRAL HEMORRHAGIC FEVER


 アルボウイルス感染症は、arthropod-borne virusの総称。つまり、節足動物によりヒトや脊椎動物に伝播するウイルス性疾患である。形態学的に異なるフラビウイルス、トガウイルス、ブンヤウイルス、レオウイルス、ラブドウイルスなどおよそ10のウイルス科を含む。20世紀末までに 500を越える病原体が見つかり、ヒトに臨床症状をもたらすものは 100を上回る。そのうちの幾つかの媒介昆虫は、都市の劣悪な衛生環境下で棲息するため、熱帯地方の大きな公衆衛生上の問題となっている。エル・ニーニョに代表される地球規模の気象変動によって媒介蚊が激増し、デング熱などは大流行を起すことが分かってきた。
本章ではアルボウイルスでない、即ち節足動物が媒介しない出血性ウイルス感染症(アレナウイルス、フィロウイルス感染症)についても述べる。

I.アルボウイルス感染症

アルボウイルスの共通点
 

アルボウイルス感染症の共通点



II.アルボウイルス以外の出血熱
 節足動物以外で媒介される出血熱は、げっ歯類による人畜共通感染症か、保有動物が未知の疾病が殆ど。
本章ではブンヤウイルス、アレナウイルス、フィロウイルスによる出血熱について述べる。


1.ブンヤウイルス感染症 BUNYAVIRUS INFECTION
腎症候群性出血熱 HEMORRAGIC FEVER WITH RENAL SYNDROME
ICD-9 078.6: ICD-10 A98.5

  この疾患はロシアと日本の学者に良く知られていたが、1951年から1954年にかけて、韓国駐留国連軍により記述されて有名となった。 ハンタウイルス(Hantervirus) はブンヤウイルス科で数少ない非アルボウイルス。世界中に広範囲に分布しており、韓国出血熱、流行性腎症など様々な病名が付けられている。
 


2.アレナウイルス感染症 ARENAVIRUS INFECTIONS

  アレナウイルスの大半はヒトに病原性があり、節足動物によって媒介されない。このウイルスはエンベロープをもつDNAウイルスで、直径が5-300nm、直径20-25nmの遊離リボゾームを包含するため、この名称が付いた(arena とはラテン語で、砂の意味)。
  疫学的にはげっ歯類との人畜共通感染症である。これらのげっ歯類がウイルス血症を呈す慢性保有動物となり、しばしばこのウイルス血症が遷延するため、自然界へ効率良くウイルスを拡散させる。ヒトへの感染は偶発的なことが多く、感染したげっ歯類から直接伝染することもある。


ウイルス ICD-9/10 分布、媒介動物、臨床症状など
リンパ球性脈絡髄膜炎
ICD-9 049.0
ICD-10 A82.7
  • 世界中に見られ、自然界でウイルスを保有しているイエネズミから偶然に感染
  • 通常の病態では、清明な髄液に時おり糖低下を認める髄膜炎か髄膜脳炎を呈す
  • 重症型ではリンパ節腫大、斑状丘疹性発疹、心外膜炎、心筋炎、関節炎、睾丸炎を起こすことがあり
  • 血算では白血球減少、血小板減少を認める
Argentine-Bolivia出血熱
ICD-9
ICD-10
疫学症候と診断治療予防
Lassa熱
ICD-9 078.8
ICD-10 A96.2
疫学症候と診断治療予防

 

3.フィロウイルス感染症 FILOVIRUS INFECTIONS

  フィロウイルスはエンベロープをもつRNAウイルス。他のウイルスと形態上の大きな差異は見られないが、フィラメント状で、直径は80nmある。長さは様々だが、長いものではミクロン単位ある。分岐や途中や末端が膨大してしているものもある。フィロウイルス科にはマールブルグウイルスとエボラウイルスの類似した2種があるが、抗原に共通性はない。


ウイルス ICD-9/10 分布、媒介動物、臨床症状など
Marburg病
ICD-9 078.89
ICD-10 A98.3
疫学症候と診断治療
Ebola出血熱
ICD-9 078.89
ICD-10 A98.4
疫学症候と診断治療



III.ウイルス性出血熱のまとめ
 下表のバイオセーフティーレベル4に分類される疾患は、いわゆる'宇宙服'を着用して患者検体を取り扱う強毒ウイルスである。特にヒト-ヒト感染が起こる5疾患は、原則として現場スタッフは治療に携らないこと。本部事務局の承認なくBSL3以上の疾患を診断・治療するスタッフは、自己及び周囲への健康責任を負うものとする。

ウイルス性出血熱
媒介
ダニ
媒介
動物の
組織体液
げっ歯類
排泄物
ヒト
体液
実験室内での操作*
バイオセーフティーレベル
デング出血熱 BSL2
黄熱 BSL3
地溝帯熱 BSL3
キャサヌール森林熱 BSL4
クリミア・コンゴ出血熱 BSL4
オムスク出血熱 BSL4
アルゼンチン・ボリビア出血熱 BSL4
腎症候性出血熱 BSL3
ラッサ熱 BSL4
エボラ出血熱 BSL4
マールブルグ病 BSL4

*米国保健省(HHS) "Biosafety in Microbiological and Biomedical Laboratories, 3rd Ed. May 1993"による


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