AMDAボランティアセンター事務局長
AMDA中学高校生会担当 竹谷和子
今回は渡代隆介さんから寄せられた記事をご紹介します。
〜国際関係の「現実」から「理論」へ〜
早稲田大学大学院政治学研究科修士課程1年 渡代隆介
◆はじめに◆
こんにちは、元AMDA中学高校生会リーダーの渡代隆介と申します。岡山市立吉備中学校ならびに岡山県立岡山操山高校に在校していた5年間を通して、AMDA中学高校生会では国内外の様々な活動に参加させて頂きました。
私は現在、早稲田大学で国際政治学、特に欧州統合について学んでいます。その契機はAMDAにおける活動でした…。「AMDAと欧州統合?どういうこと!?」と思われる方もおられるでしょう。私の報告では、AMDAなどを通して見聞きした「国際関係の現実」が、いかに私を「国際関係の理論」へと導いたのかをお話しさせて頂きたいと思います。
◆AMDA中学高校生会の5年間◆
私が、AMDA中学高校生会 (*当時は高校生会) に入会したのは、今から9年前、岡山市立吉備中学校在学時です。既にAMDA中学高校生会に入会していた姉の薦めで活動を覗きに行き、すぐに「私も参加したい!」と両親に懇願したことを覚えています。入会後、岡山大学で催された医療セミナーなど様々な活動に参加させて頂きました。
岡山県立岡山操山高校入学後も「フィリピン台風30号復興支援募金活動」「復興グルメF-1大会ボランティア」「地域防災ボランティアリーダー養成研修会講演」などの活動に、より積極的に参加させて頂きました。数ある活動の中で特に、私の大学での学びに影響を与えた活動が「スリランカ紛争後復興支援平和構築プログラム」でした。
◆スリランカ紛争後復興支援平和構築プログラム◆
スリランカは美しい自然や伝統文化に恵まれた島国です。国民はシンハラ人やタミル人とも大別出来ますが、彼らが信じる宗教も仏教、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教と様々です。まさに人種、宗教、文化が入り混じる多民族国家と言えます。
しかし、スリランカには悲しい歴史があります。26年間にも及ぶ激しい内戦です。LTTE(タミル=イーラム解放の虎)と呼ばれるゲリラ組織が独立を訴え、シンハラ系政府軍と激しく交戦したのです。内戦は多数の死傷者を出して2009年に終結しましたが、かつて敵対していた民族間には現在も「軋轢 (あつれき)」があります。言語、宗教が異なる2つの民族が交流することは非常に難しいことです。AMDA中学高校生会は、スリランカにおける民族間の「軋轢」の中に入り、民族間の「輪」を形成する活動を展開しました。詳細は、AMDA(2015年09月01日)「スリランカ紛争後復興支援平和構築プログラム」(https://amda.or.jp/articlelist/?tags=8#work_id4589) をご覧下さい。
スリランカで内戦が勃発した遠因には、イギリスによる支配があります。少数派のタミル人に特権を与えたことから多数派のシンハラ人との関係が不安定化したのです。第二次世界大戦終結後に、シンハラ人中心のスリランカ政府が、「シンハラ人優遇政策」を掲げタミル人の反発を招いたことが、26年間に至る内戦の火種となってしまいました。
「国際政治を読み解くためには、国際関係の理論や歴史をしっかり学ぶ必要がある!」この思いが私を早稲田大学政治経済学部へと導きました。
スリランカ紛争後平和構築プログラム活動
(中央 渡代隆介さん)
◆ベトナム教育支援ボランティア◆
早稲田大学に進学後も、国際協力に対する関心が抑えられるはずもなく、「DOORS〜日越交流プロジェクト〜」というベトナム教育支援ボランティアに参加させて頂きました。奨学金支援事業に携わることができたのは、かけがえのない思い出です。
現地で活動中、ベトナム戦争証跡博物館を訪問しました。ご存知の通り、ベトナムは、米ソ冷戦の「代理戦争」として繰り広げられた戦争(ベトナム戦争)を経験した国家です。ベトナム戦争証跡博物館では、ベトナム戦争に関連する様々な資料が保管・公開されています。そして、博物館で目撃した枯葉剤被害に関する展示が、私に恐怖と悲しみを与えました。あまりに残酷で、直視することが辛かったことを覚えています。
博物館展示や現地インタビューを通して、2つの重要な事実を知りました。1つ目に、枯葉剤被害の影響が隔世で出現していること。そして2つ目に、枯葉剤被害が就業を困難にし、新たな「貧困」を生んでいることです。まさに見えない恐怖との闘いでした。
◆国際関係の理論へ◆
スリランカで目撃した「軋轢」、ベトナムで目撃した「貧困」。戦争が終結してもなお、恐怖に悩まされる現実を「平和」と語ることは可能でしょうか。確かに、「戦争の不在」は達成されたと言えます。しかし、「戦争の可能性の不在」は達成されていません。
先述した「軋轢」「貧困」のほかにも、「格差」「差別」「テロリズム」…。現代世界には、「戦争の可能性」となり得る火種が山積しています。全ての人々が安心して生活できる「平和」のために、今、「戦争の可能性の不在」について考える必要性を認識しました。
こうして「国際関係の現実」を通して、私の「国際関係の理論」に対する興味関心は、益々強まっていきました。そして出会ったのが、早稲田大学全学共通副専攻です。
◆早稲田大学全学共通副専攻「平和学」「EU欧州統合研究」◆
早稲田大学では、学部学年を問わず、特定の専攻を探求出来る学術システムが用意されています。それが全学共通副専攻(以下、副専攻)と呼ばれるものです。「ジャーナリズム」「ジャンダー研究」「都市・地域研究」を始め、多様なプログラムが用意されています。
(*現在は全学副専攻(https://www.waseda.jp/inst/gec/undergraduate/minor-2/)に改訂。)
数あるプログラムの中で、私が選択したプログラムが「平和学」でした。この副専攻は私にとって「戦争の可能性の不在」を学ぶ絶好の機会でした。単純に見えて、実はとても難しい「平和」概念について探求出来たことは、かけがえのない経験となりました。
「平和学」副専攻を履修する最中、私は、欧州における「戦争の不在」、そして「戦争の可能性の不在」を成し遂げようとする歴史的実験が行われている事実を知りました。それが欧州統合です。
「欧州統合? 聞いたことはあるけれども、よく知らない…。よし、調べてみよう!」そんな疑問が「EU欧州統合研究」副専攻だけでなく、大学院進学に私を掻き立てました。次回の報告では、「国際関係の理論」を学ぶ私の近況をお話ししたいと思います。
ベトナムで小学校校長にインタビューしている様子
ベトナム戦争証跡博物館
渡代隆介 (わただいりゅうすけ)
1997年生まれ。元AMDA中学高校生会リーダー。2011年、岡山市立吉備中学校在学時にAMDA中学高校生会入会。2013年、岡山県立岡山操山高等学校進学後「フィリピン台風30号復興支援募金活動」「復興グルメF-1大会ボランティア」「地域防災ボランティアリーダー養成研修会講演」「スリランカ紛争復興支援スポーツ親善交流和平構築プログラム」などに参加。2014年、AMDA中学高校生会での活動が認められ、岡山県警中央警察署より「善行少年表彰 (個人の部) 」受賞。2016年、早稲田大学政治経済学部に入学。2020年、同卒業。学部在学時には、ベトナムにおける教育支援ボランティアを契機に、早稲田大学全学共通副専攻「平和学」「EU欧州統合研究」、早稲田大学全学副専攻「社会貢献とボランティア」を修了。2020年、早稲田大学大学院政治学研究科に入学し、現在に至る。