AMDA Journal インタビュー 小倉記念病院消化器内科主任部長  白井 保之 医師(2025/4発行ジャーナル春号) – AMDA(アムダ)
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AMDA Journal インタビュー 小倉記念病院消化器内科主任部長  白井 保之 医師(2025/4発行ジャーナル春号)

人生めぐりあわせ~モンゴルで出会った仲間たち~ 

 今回の AMDA インタビューは、2022 年から毎年モンゴルの内視鏡技術協力事業に参加し、現地の医師たちとともに内視鏡による食道静脈瘤の治療にあたられている白井保之先生です。  (聞き手: AMDA 副理事長 難波 妙)

緊張の医療現場、試される瞬間

AMDA
 モンゴルの現場では、毎回冷や汗をかく緊張の瞬間がありました。どんな修羅場でも冷静に治療を続けられる白井先生のお姿から、現地の医師たちは技術を超えた学びを得ているのではないかと感じます。

白井
 これまでに聞いたことがないような、日本では起こり得ないことがモンゴルでは起こりますね。治療中に内視鏡モニターの電源が落ちた時は驚きました。特に前回の治療では、胃の静脈瘤に瞬間接着剤を注入する危険な処置の最中、使用していた日本とは異なるデバイスの穿刺針から針だけが外れて、静脈瘤内に残ってしまいました。患者はその前から出血が続いており、今思い出しても背筋が凍るような瞬間でしたが、ぎりぎりのところでトラブルを回避し、なんとか治療を完遂しました。想定外のトラブルシューティングの必要性と責任の重さを痛感した瞬間でした。

それでもモンゴルに向かう理由

AMDA
 それでもまたモンゴルに行こうと思うのはなぜでしょうか?

白井
 やはりそこで頑張る医師たちがいるからです。日本とは異なった環境の中で、真剣に学び、技術を習得しようとする彼らの期待に応えることは、私にとっても刺激的で楽しい時間です。静脈瘤治療はリスクも高く、日本でも敬遠されがちな治療です。そんな治療にモンゴル人医師たちとともにあたると、彼らに自分が必要とされていることを実感します。ただ教えるだけではなく、彼らのひたむきさから、「自分も負けてはいられない」というやる気を逆にもらいます。現地の医師たちは、今では、仲間であり、友達のような存在です。だからこそ、「また会いたい。一緒に治療にあたりたい」と思うのです。

めぐりあわせに導かれて

AMDA
 白井先生は、内視鏡が大好きだと公言されていますね。

白井
 私は、“ 何をするか ” より、“ 誰とするか ” を大切にして、消化器内科を選びました。AMDA の名誉顧問である吉田智治先生は、日本における静脈瘤治療の第一人者です。その技術とお人柄に惹かれて、私は内視鏡と静脈瘤治療にはまっていきました。AMDA の佐藤理事長を通じて、モンゴルで求められている静脈瘤治療に繋がっていったのは、” めぐりあわせ ” だったとしか思えません。

AMDA
 これまでの経験を踏まえ、今、どのようなことをお考えですか?

白井
  ” どのように自分の病院のチームの働き甲斐を創造し、新しい技術を導入して次世代の医師育成を図るか”、これを常に考える日々です。一方で、モンゴルに行ったことで、医療という枠を超え、世界を知る視野を得ました。何かを教えに行くことには責任が伴います。でも、帰りの飛行機の中では、いつも「行ってよかった」と思うのです。AMDA の災害支援の際、すぐに被災地に駆け付ける医師たちのように、何かに貢献したいと考える医療者は日本中に大勢いると思います。私の場合は、内視鏡を通じてめぐりあわせの歯車が合い、この機会に恵まれました。

AMDA
 今年もモンゴルが白井先生を待っています。

白井
 これまで中々満天の星を見る機会に恵まれなかったのですが、仕事は勿論のこと、今年はモンゴルの自然を現地の仲間と一緒に満喫できたらどんなに素晴らしいだろうと想像しています。私の身体に残る蒙古斑は、もしかしたらこのめぐりあわせをずっと前から知っていたのかもしれません。