スリランカ洪水被災者緊急支援活動 参加看護師からの報告 – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

スリランカ洪水被災者緊急支援活動 参加看護師からの報告

緊急救援ネットワーク看護師:山崎秀明
(派遣期間:2018年12月26日~2019年1月9日)
(派遣場所:スリランカ(コロンボ・キリノッチ・ジャフナ)

2018年12月末に起きたスリランカ洪水の被災者に対する緊急支援活動に参加された山崎看護師の報告をご紹介いたします。
 

1)    支援活動参加の経緯

これまで国際災害支援に関して学習・訓練を重ねて、派遣の機会に備え準備してきました。その中で、国内の洪水に対しての災害医療支援の経験と、2018年のインドネシアのパルを中心とした地震・津波の際に国際災害医療支援の経験を経てきました。そして、年末に今回スリランカで発災した洪水に対する緊急支援のミッションの要請がありました。今までの災害医療全般に対する知識や訓練、国内ではありますが洪水被害に対する支援経験、災害の種類は違いますが国際医療支援の経験、これらの経験や知識を活かし少しでも現地の方のチカラになれればと応募しました。

しかし、今回の参加を決断した理由のひとつに“AMDAのミッション”だったからというのも大きな理由のひとつです。災害医療の活動している団体は他にも多くあります。その中で私がAMDAを選んだ理由は「被災地の方のために最善をめざし、全力を尽くせる」というところです。現代社会では、人間関係等目的とは直接関係のないところに労力を費やしてしまう場面が避けられない部分もあります。その中で、人道支援の原則やコンセプトを机上の空論とせず、実際にそれを元に活動し、派遣者はもちろん、本部や現地の方々含めてのチームで、現場で起こった問題解決やよりよい支援について取り組めるというのは、支援者としてとても幸せなことだと感じたからです。実際に今回の活動で一人になることがありましたが、孤独を感じる事はありませんでしたし、チームとしてみんなで被災地の方々のためにできる最善を尽くすことができたと思います。

2)実際の活動

スリランカに到着後、首都コロンボにて現地支部長とブリーフィング・情報収集をしました。そして、セント・ジョン救急サービスという協力団体から主に構成される先遣隊の情報を元に被災地域のニーズに合った支援物資の調達を行いました。その後、コロンボまで戻ってきた先遣隊とともに支援物資を携え、片道12時間をかけ陸路にて被災地キリノッチに向かいました。被災地ではニーズに合わせ、主にFirst-Aid Boxや蚊帳、スクール用品を配布しました。その後AMDAは単独での活動となりました。被災地キリノッチ県のカンダーワレイ村の公衆衛生監督官とスリランカ軍とともに家庭訪問をし、洪水で汚染されてしまった生活用水として用いる井戸水の消毒やバイタルサインのチェック等の健康相談に対応しました。また被災地のキリノッチ総合病院を視察し、救急救命室で処置の介助を行いました。その後、キリノッチの学校、ジャフナの教育病院、セント・ジョン救急サービスジャフナ支部、ジャフナの孤児院の訪問を行い、それぞれ支援物資を配布しました。その後コロンボへ戻り、AMDA支部長に活動報告し、支部長とともにスリランカ日本国大使館を訪問し活動報告を直接行いました。

3)現地の方々の反応

今回支援した地域の洪水は泥による被害はなく、家が崩壊していることもなく、稲が枯れたり荒れたりしていることもないため、洪水の水が引いた後は一見すると普段と変わりない光景に見えます。しかし、その実態は経済的に多大なダメージがありました。被災地域の主な収入源は稲作であり、次いで酪農です。その中で収穫間近であった稲はすべて洪水により汚染されてしまい売り物になりません。また、その土壌も汚染されているため、すぐに次の稲を植えることもできません。さらに洪水の避難は住民のみで精一杯であったため、家畜まで避難はできず、多くの家畜が洪水の犠牲となりました。幸いなことに政府による経済的支援はありますが、それも限定的です。そのため、被災者は収入源を失ってしまい、今後の経済的な不安がとても大きいことを訴えていました。発災直後は多くの支援によりなんとか生活が成り立っていても、被災者の先のことも考えた支援が必要だと感じました。

4)活動に対する感想

今回特に印象的だったのは物資支援のなかでもスクール用品の配布に関することです。配布するスクールシューズに関しては「どこに」「いくつの大きさ」の「男児用か女児用」が「いくつ足りないか」と具体的なニーズの把握をでき、その上で適切な場所にまさにシューズを必要としている児童に配布することができました。さらに、ほとんどが平屋の被災地域で洪水によって、バッグや弁当箱、水筒、ノート含めスクール用品が使えなくなっている状態でした。しかし、学校が年末休み明けの授業開始日の前日に我々がそれらを子供達に配布することができました。そのおかげもあり、被災した子供達も被災していない子達と同じく通学することができました。つまり、適切なタイミングで適切な場所に適切なものを支援することができました。配布したスクールバックを大切そうに抱えて嬉しそうにしている姿を見たときはとても嬉しくやりがいを感じました。

今回主に活動をおこなったキリノッチについて、26年間続いた内戦やAMDAの平和構築プログラム等、AMDA本部より渡航前に情報共有があり、被災者のケアにつなげることができました。また、支援活動中にも見聞きした被災者の生活状況などの情報を踏まえ被災者支援に取り入れることができてよかったです。

5)感銘を受けた点

スリランカ政府によって洪水以前の豪雨の時点から、ダム放水のタイミングや住民の避難等の対応をして、死傷者数を最小にとどめました。これは発災時の対応のみならず、普段からの住民の避難訓練等の備えがあってこそできたことです。さらに、洪水直後から様々な団体による逃げ遅れた方の救出や、病院による避難所の巡回診療も開始されていました。

また支援物資の配布に関しても、支援物資の購入や募金活動等は各団体が行い、被災地への物資の配布に関しては被災状況の報道をするために被災地へ向かうメディアが担っているという部分は、とても効率的であり驚きました。

これらの組織的な活動に対して、非常に効率的な戦略をとり、さらにそれを最短の時間で実施できている点にはとても感銘を受けました。また、先述のスクールシューズの正確かつ詳細なニーズの把握と、即時的に配布できた点も支援者と被災者間の距離の近さにより実現できたものです。近年、災害支援で起こっている支援物資の需要と供給にずれに対する対策として、日本も今後大いに参考にすることができるのではないかと思いました。