独立行政法人国立病院機構岡山医療センター小児科 浦山 建治
国際貢献、交流ということばに憧れを持ちながら、自分が自信を持ってできることでなければ行く必要はない。そう思って来た一小児科医の自分にとって、ルワンダでの健診は願ってもない機会だった。2016年、17年と同じ病院の医師が参加したAMDAの健診事業に、今年は自分が行こう、と意を決して申し出ることにした。職場の勤務をやりくりし、ルワンダの子供たちと接し、その様子を垣間見ることができて良かったと思う。彼らの印象は、体調のすぐれない一部の児を除いて、とにかく明るかった、ということだ。
ルワンダ北部の村であるミヨベ。キガリから車で3時間、舗装の無い山道で縦横に揺られて最貧と言われる村の学校に到着した私たちを迎えてくれたのは、子供たちの元気な歌声だった。標高1,800メートルほどの爽やかな風に乗り、その歌声に疲れを忘れた。村の子供たちは、教師の掛け声に大声で一斉に呼応する。純粋な姿に感銘を受けるとともに、ジェノサイドというこの国の負の歴史を誘発する民族性が表れているのかもしれないと感じた。みんな、素直すぎるのかもしれない。
そんな元気な子供たちも、診察してみると齲歯や腹部膨隆のある子が多い。歯については、痛みを感じなくなるほどにえぐられている子も目立つ。腹部膨隆は、決して肥満ではなく、低栄養もしくは寄生虫疾患などによる腹水貯留だと思われる。これらの児は、患者として治療していくことも大事だけれども、この地で明るく元気にやっている児にどこまで介入するのが適切か、ということを考えざるを得なかった。
翌日はキガリ市内のウムチョムィーザ学園(UM)へ行った。ここはこの事業の核となる、NPO法人「ルワンダの教育を考える会(TER)」のマリーさんが設立した学校。比較的裕福な子が集まる。したがって齲歯、低栄養が目立つ児は少ない。逆に肥満の児がいる。ここの子供達も活発で明るいが、ミヨベに比べると少し恥じらいがあるような気がした。都会的なのかもしれない。校庭で太鼓を叩き、ダンスをする集団がいたが、実にアフリカ的で良かった。この中に髪をきれいに整え、リズミカルに踊る少女がいたが、ミヨベでは見かけない姿だった。国内の格差を実感する出会いだ。
健診ではアイスブレイクと言語発達の診察を兼ね、診察前に英語で名前と年齢を質問した。UMではどの年齢層でもきちんと英語で答える児が多かった。ミヨベでは名前半分、年齢は数名。次のキバガバガでは、名前9割、年齢3割、という印象であり、2009年に英語を公用語にしたこの国における教育の現実を目の当たりにした。英語公用語化が時々話題になる日本では、果たしてどうなのだろう?と考えさせられた。(帰国後、英語の授業が始まっている小学3年生の息子は、名前のみ答えられることを確認した。)
その後の二日間は、同じキガリ市内のキバガバガの小学校へ。校舎は煉瓦作りの他校と異なりプレハブ様のトタン屋根。天井の板が無く、雨の音が激しかった。ちなみにミヨベの校舎には、中華人民共和国の国旗が描かれていた。かなりローカルなところにも中国が進出しているのだ、と思ったが、キガバガバには入っていないようだった。ここの子たちはミヨベとUMの中間的なイメージ。日本だと多くの場合就学年齢までに解決済みの問題(停留精巣や合指症など)や、比較的簡単に発見される問題(甲状腺腫大、低身長など)を持つ子が目立った。また、同じ学校内での差(服装など)も他の2校より大きい印象だった。子供の明るさはミヨベに近いが、少し摺れた印象を持った。一方で教室の壁に科学的な自家製ポスターが貼ってあり、教育への熱意は十二分に感じられた。ちなみにUMには、広島原爆のことを日本語で書いた壁新聞(日本の小学生が作ったもの)が貼ってあり、その教育の特殊さを感じることになった
キバガバガで印象的だったのは、写真の水汲み場だ。斜面に建つ校舎の下段に水がちょろちょろと流れ出ているところがあり、周囲の人もその水を使っている。斜面の上方には学校の汲み取り式トイレがあり、距離は数メートル。トイレの手洗い用水タンクはほぼ空で、衛生面には不安が多い。ミヨベの学校には井戸があったが、村人は基本的に低地へ湧水を汲みに行くそうだ。我々の泊まっていたゲストハウスも含め都市部でも多くの建物はタンクを備え、これに水道公社から供給される水や雨水を貯める。清潔な水を容易に入手できる日本と比較するのは酷であるが、これをなんとかすれば、大きく健康状態の改善につながる可能性があるだろう。
健診は、学校健診や就学前、あるいは1歳半などの定期健診も含め、健康管理という点でとても有用であることは言うまでもない。しかしこれを新たに導入するためには、強い指導のみならず、受ける側の利益、動機も重要であろう。今回の事業にも950人の児が参加し、日本という外国の医師が診察するだけでも有用と考えていただけているうちは良いが、いつまでもそれだけで大勢が参加するとは考えにくい。その点も含め、継続的かつ広範囲に行えるような仕組みを提案できれば理想的だな、との思いを抱いている。
今回の貴重な機会を与えてくださったAMDA、TERの皆様、大使館を始めとする関係者の皆様、各学校や施設の皆様、健診に協力してくださった長崎大学の皆様に感謝します。有り難うございました。