岡山大学大学院環境生命科学研究科 頼藤 貴志
2018年9 月14 日~24 日の日程で、ルワンダを訪問した。私にとっては今年で3回目の訪問となり、前回、前々回とは違う感想を抱いた。今回は、主に小児の健診事業と研究が目的の訪問となった。大まかな行程としては、到着後9月16日~17日、南西部にあるミビリジ病院を訪問し、そこで蓄積している周産期データベースの入力作業を視察し、データ入力の方法を一緒に検討した。その後、キガリへ戻り、9月18日はキガリより北部にあるミヨベECDセンターで健診。5名の医師で121名診察した。翌9月19日は、キガリ市内にあるウムチョムイーザ学園にて235名、9月20日~21日は、同市内にあるキバガバガ小学校にて計594名の診察を行った。その間、日本大使館公邸や保健省(Minister of State / Dr. Ndimubanzi)の訪問も行った。詳細は、報告書を参照いただきたいが、下記簡単に感想を述べたい。
訪問した一行
今年も、例年と変わらず、日本の農村風景にも似たやわらかな、綺麗な景色に心が落ち着くような感じがした。ただ、一方、車は増えているような印象があり、大気汚染の問題なども出てくるのではないかと思った。また、今回の訪問では、大虐殺によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の問題に触れ、Genocide museum(キガリ虐殺博物館)を訪問する機会も得たためか、これまでより大虐殺について強く意識するようになった。なかなか公には話しにくい話題であることは理解できるが、やはりこの国を知る際には、大虐殺が起きたという事実は知っておくべきであろうとしみじみ感じた。さて、今回は、小児の健診事業と研究が訪問の目的であったので、下記にそれぞれについて感想を述べる。
今年もミヨベ、キバガバガ、ウムチョムイーザで健診を行ったが、昨年と同じく、地域により大きな格差を感じた。また、キバガバガとウムチョムイーザは同じキガリ市内であっても、大きく異なっていた。ウムチョムイーザは、健康・成長面共に良好な印象を受けたが、キバガバガ、ミヨベと中心部から離れるに従って、不衛生、低栄養、感染症の問題が観察されるようになった。
例えば、ミヨベで気になった子どもとしては、身長92cm、体重14.5kgの6歳の女児がおり、腹部膨満、頻脈(140回/分)を呈し慢性の栄養不足を疑わせていた。また、私が診た子どもではないが、咳嗽後、回虫を吐いた子どももいたようである。
キバガバガでも、明らかな低栄養で(9歳で身長125cm、体重21.7kg)、停留精巣もある今後の経過観察が必要になると思われる男の子がいた。お母さんもついてこられていて話を聞くと、その子は一日一食しか食べることができないということで、また家族の経済的な問題で保険も入っておらず、医療機関を受診しにくいということであった。その他、左手の合指症があり、とても使いにくそうにしている女の子がいた。骨はしっかりとあるので、形成外科で手術をしてもらえば少し使えるようになりそうだが、母親に聞いても経済的理由で手術は望んでいないということであった。その後、現地医師のカリオペ先生がひきついでくれ、母親と話をされる。話の最中、母親は泣いていたが、手術を受けることにはなりそうになかった。
詳細は報告書を参照いただきたいと思うが、健診で気になった疾病・状態としては、虫歯、耳垢、ケガの放置、眼の結膜のアレルギーのような不衛生に起因するような疾病や状態、低身長・低体重、皮膚の剥離、目の痛みなど低栄養に起因するような疾病、そしてその不衛生や低栄養が絡み合い生じている呼吸器・消化管感染症、中耳炎、頭部の真菌感染症、マラリアや回虫などの寄生虫感染症といった感染症などがあった。停留精巣や四肢の合指症といった奇形や児の神経学的発達などに関してはまだまだ光が当たらないところという印象を受けた。これらの疾患の存在、そしてその地域的偏りに関しては、今までの健診で感じたものと大差はなかった。
今回3回目となり、どのような疾病が健診で発見可能なのか、またその後の介入がどの程度できるのかというデータは集まってきており、これまでのパイロット的な健診事業が、この国で今後健診事業をいかに展開していくかの基礎資料になるかと思われる。また、なかなか評価はしにくいが、その他の健診の効果として、健康指導や児本人・家族の意識付けというものもあると思われる。実際今回も健診中や健診後に児への指導や歯磨き指導などが行われていたし、(家族の意識、または地域の意識が変わってきたからかと思われるが)今年は例年よりも健診について来る親の姿が多く見られた。疾病の発見・介入の可能性という情報とともに、そのような副次的な健診の利点も踏まえ健診事業展開の可能性を評価する必要があると思われる。大臣と面会した際には、健診事業に関しては、教育省と調整しながら、一部の人だけではなく、多くの人が利益を得られるような形で進めて欲しいという要請があった。このことを踏まえ、今までのパイロット的な健診事業から得られる実績を基に、今後いかに展開していくかという要望を行政含め関係機関に提案していく必要があると思われた。
研究に関しては、積極的に交流を持ちやすい領域かと思われた。ミビリジ病院で行っている周産期データベースの入力も順調に進んでいるようで、今後発展が望まれる。周産期データベースの解析により、どのような要因が同国の低出生体重児や早産を引き起こしているかの知見が得られれば、女性の妊娠前・妊娠中の健康の向上へ、結果的には子どもの健康状況の改善へつながると期待される。積極的に進めていくべき領域であろう。
今回は残念ながら母子手帳の導入に関する情報を入手する機会は少なかったが、こちらも継続的に導入可能性を探っていく必要があると思われる。また、今回は、医療機関の交流ということに関しては、ミビリジ病院の訪問のみで、あまり積極的に行えなかった。しかし、今年小児科の浦山先生が訪問して下さり、岡山医療センターからはこれで、小児科、新生児科、小児外科の先生が訪問して下さったこととなった。今後のルワンダ・日本の医療機関の交流が大いに期待される。
帰国し1か月が過ぎた。ルワンダにもあるような美しい景色を日本でも眺める時、どちらの国にいるのかわからなくなるような錯覚を覚える。但し、子どもが置かれている状況は大きく異なる。今回の訪問で出会った、マラリア脳症の子ども、HIV感染後の肺炎の子ども、一日一食しか食べられない低栄養の子ども、適切な医療介入を保険が無いために受けられない子ども。そういった子どもたちの顔が頭から離れず、何もできないもどかしさを痛感する。しかし、希望もある。毎回私たちの診察の通訳をしてくれる学生さんたちの臨床実習が既に始まっており、今後どのように勉強していこうか、どのような医者になろうか熱く語っていた。ルワンダの将来を担う学生さんたちが、どのような医療人になろうかと熟慮されている姿は、とても心強く希望を感じる。非衛生・低栄養・感染症・経済苦といった根幹にある問題が改善しない限り、なかなか子どもの健康状態が改善しないということは認識しながらも、自分達ができることで、何らかの関わりがもてたらと考えているところである。
今回の視察旅行をサポートしていただきました皆様に感謝いたします。特に、現地でサポートしてくださいましたマリー・ルイズさん始めNPO Think about education in Rwanda (NPO法人ルワンダの教育を考える会)の皆様、Umuco Mwiza school (ウムチョムウィーザ学園)関係者の皆様、Kibagabaga school(ルワンダ、キガリ、キバガバガ小学校) 関係者の皆様、Miyobe ECD(ルワンダ、ミヨベ、教育子どもセンター)の皆様、宮下大使・渡邉先生を始めとした日本大使館の皆様、その他訪問機関の皆様、そして日本においてサポートいただきましたAMDA の皆様、特に難波妙様、橋本千明様、岡山大学入江佐織さんに感謝いたします。
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