5月にマレーシアでAMDA学生インターンをしていた青山学院大学法学部法学科 4年野本 遥香さんと金沢大学 国際学類 4年新家 夢紬さんがAMDAマレーシア支部長、アンソニー医師にインタビューをしました。そのインタビュー内容が届きましたのでご紹介いたします。
野本さん、新家さんによるAMDAマレーシア支部長、アンソニー医師へのインタビュー
文責:新家 夢紬 、野本 遥香
インタビューを行うにあたって:
AMDAは世界中に支部を持っており、マレーシアにももちろんある。特にマレーシアは災害の多い東南アジア諸国の支援に便利なロケーションを誇る。また、今や先進国入りを狙えるマレーシアだが、未だに様々な問題が存在する。今回はAMDAのマレーシア支部の支部長を務めるアンソニー医師にインタビューし、マレーシア支部(AMDA Malaysia)の役割、そしてマレーシアにおける問題と考えられる対処策などについて聞いてきた。
アンソニー医師について
アンソニー医師はAMDA Malaysiaの支部長を務めているマレーシアの医師である。AMDA Canadaのメンバーの医師から話を聞き、日本のNGOならば自己規律が良くできた組織に違いないと思い入会を決意。元々自然災害に関する支援や人々の救助に興味があり、民間の防衛隊(civilian defense)にいて軍のような救助に携わっていたこともある。
1.AMDA Malaysiaに関して(地元の機関等との連携)
AMDAは医療に特化したNGOであるため、単独であらゆる問題に対処できるわけではない。そのため、AMDA Malaysiaも地元の政府機関やNGOと連携をとって活動を行う。「私たちは医療のスキルを持っているがその他の物的・人的資源の点では他の団体に助けてもらう必要がある。宗教や人種に関わらず、必要に応じてどんな団体とも助け合うことが大切だ」と語るアンソニー医師は、まさしくAMDAのモットーである「相互扶助」の精神を尊重していることが窺えた。ここで、より良い関係を構築するためには、どの地域で、誰のために、どの団体と組むかを考えたうえで、自分が与えられるもの、相手から得られるものをきちんと話し合うことが重要である。また、相手のもつネットワークや活動範囲を考慮し、長期のプロジェクトが実行可能かどうかも判断しなければならない。人的資源や経費の削減もNGOにとっては重要な課題の一つであるからだ。さらに、国内に留まらずASEAN諸国の物流センターとしての役割を果たすことができるのもAMDA Malaysiaならではの強みであり、国際的な連携の強化にも力を入れている。
2.マレーシアでの活動に関して
・最も力を入れている活動
マレーシアはもともと自然災害の少ない国であり、現在では毎日のように報道される、テロなど人為的災害への対処に重きが置かれている。中でも、バイオテロに関して、AMDAは医療チームとして十分に備える必要がある。「これまでのように自然災害に備えることももちろん大事だが、時代に合わせて我々も変わっていかなければならない」とアンソニー医師は語った。マレーシアはまだ十分にこうした災害への備えができているとはいえず、スタッフの養成がキーポイントとなる。この際にも、国際的な連携が意味をもつのである。知識を交換して足りない部分を補い合うことができるからだ。
・自然災害に対しての備え
しかし、だからと言ってマレーシアにおいて自然災害が全く起きないわけではない。このような災害についてマレーシアの人々は備えられているのか。アンソニー医師は、十分に備えられてはいない、と答えた。アンソニー医師はインドネシアで支援をした際に自然災害を実感し、技術を得ることができた。しかしマレーシアの人々は準備をしようとはするものの、実際に自然災害が来た時はうまく対応できない。学校でも自然災害に関する授業や日本の学校が定期的に行うような訓練は行われていないようだ。政治家はあまり本腰を入れず、資金も充てられないため、備えることができないのだという。
・マレーシアの医療事情における問題
アンソニー医師は、利益ばかりを追求する現在のマレーシアの私立病院の在り方を指摘した。そこでAMDAマレーシアは政府にある提案をしているという。それは、マレーシア国民はもちろん、これまで高額でしか医療を受けることができなかった海外の人、特に近隣諸国の貧しい人々でも医療を受けられる制度を作るという内容である。これは日本とマレーシアの政府間プロジェクトとして行われるものであるが、マレーシア政府にも公式に認められているNGOとして、AMDAはその橋渡し役となることができるのである。
3.今後のマレーシアにおけるAMDAの展開
これからもASEANのセンターとして活動を展開することをアンソニー医師は見据えている。というのも、上述のようにマレーシア派に人やものの動きに関して東南アジアの中で最も良い位置にあるからだ。まず、支援の際に東南アジアの国にすぐに出向くことができる。これは日本や欧州のように遠方に位置する国には難しいだろう。そして政治的に安定していることも挙げられる。テロが未だにあまり発生しておらず、夜に安全に出歩くこともできる。便利な位置と安定した政治環境のもと、AMDA Malaysiaは東南アジアの中心地として今後もうまく機能していけるだろう。
ただし、アンソニー医師は、それが決して「AMDA Malaysia」として独立的に動くことを示すわけではないと強調した。AMDA MalaysiaはAMDAから始まったのであり、いわば親子のようなものだ、と例える。「AMDAが始まったところ、起源を忘れてはいけない」と彼は言う。
今回のアンソニー医師へのインタビューを通して、彼をはじめAMDA Malaysiaの方々は金銭的な利益や報酬を追い求めて活動しているのではない、ということを私たちは感じることができた。自分が何を与えることができるのかを常に考え、支援活動を通して学び続ける姿勢こそ重要なのだ。一方的に与える支援ではなく、お互い学べるような協力によって国際・国内の援助は行われるべきなのだろう。