本日、初めてRohingya難民のためのKutupalongキャンプに入った。1992年にキャンプができて、以降、今年の8月までは20万人が暮らすキャンプとなっていたが、8月以降、流入してくる人口が急増して、現在は100万人を超えるといわれている。どのような状況になっているのか、想像がつかないままキャンプに入った
キャンプは、入り口に近いところは昔から難民が住んでいたエリアで奥に向かって拡がっている。昔からのエリアは、一見すると普通の町や村にしか見えない。通り沿いにはあらゆる商店・・肉や卵、魚などの食料品、雑貨、衣類、仕立て屋、散髪屋、喫茶店、総菜屋、薬局など。携帯を売る店や充電スタンドもある。屋台も所狭しと並んでいて、多くの人々が肩をぶつけながら通りを歩いている。学校や図書館、昔からある診療所もあった。難民は土壁にトタン屋根という、現地の人と同じような建物に暮らしていた。しかし、新たに拡張されているエリアでは、建築資材の問題で、竹を組み合わせた建物で、壁と屋根はビニールシートでできている。はがれやすく、雨漏りは必須だろう。家と家は非常に狭い間隔で立ち並び、しかも一つの家(10~12畳程度)に平均で8~10人ほど暮らしているそうだ。ゴミや生活排水の中で暮らしているような印象である。
難民キャンプと聞くと、きれいな水の確保と、トイレなどの管理が重要とみんなが考える。すでに多くの団体が、井戸を掘ったりトイレを設置していたが、設置するだけで後の管理ができていないらしく、使えない井戸やトイレがあちこちに放置されていた。難民たちは、薪を使って炊事をするため、時間帯によっては炊煙がすごい。煙で一帯が霞む。鼻やのど、気管支の粘膜を痛めてしまうことで呼吸器感染症にかかりやすくなっていると思われる。
食料は十分配給されているようだが、実際に適正に分配されているかは不明である。このような時には、強いものと弱い者の格差が目立ちやすい。AMDAクリニックでの記録では急性の栄養障害の患者は少ないが、慢性的な栄養障害の患者はしばしばみかけている。バングラディシュに入る前から食料が十分に摂れていなかった難民が多いものと想像される。
ちなみに、現在新たに難民を受け入れるために家を建てているエリアは、もともとは象が住むような森林や山だったそうである。そのような場所は、マラリアを媒介する蚊が生息している可能性がある。雨期になったら、胃腸炎など水を介した感染症の流行を危惧していたが、マラリアも考えておかねばなるまい。また、木を切って土地を切り開いているため、地盤が脆くなっている。雨期になった時には土砂災害のリスクも高まっているだろう。
クリニックには、朝から大勢の患者が詰めかけていた。見たところ、女性と子供、そしてお年寄りが多い。男性は、家を建てたり、外に仕事に出かけたりしているのだろう。女性がクリニックに来ることができるのは良いことである。患者内容は、多くは呼吸器感染(カゼや気管支炎、肺炎など)であった。下痢を訴える患者は数名であり、脱水になっていたのは2人だけであった。我々には点滴を施すだけの余裕がないが、幸い両名とも口から経口補水液を飲むことで治療ができそうであった。ちなみに、1か月以上下痢が続いている人が一定数おり、不潔な水を飲まざるを得ない人や、寄生虫疾患が含まれているものと思われる。現在は乾季であり、下痢疾患の爆発的な流行は起きていないため、脱水患者に対する対応はこのままでもよいと思われるが、今後重度の脱水患者が増えてきた場合は、クリニックの機能拡充をするか、あるいは全て地元の病院に紹介するしかないだろう。
なお、WHOの発表では、12月に入って、難民の間でジフテリアのアウトブレイクが起きたそうである。クリニックに来る患者に対し注意していく必要があるとともに、難民の自治組織の班長(200家族で一つの班)にも、ジフテリアを疑うような吸気時の呼吸困難や喘鳴を示す患者がいないか、周知していきたい。
AMDAバングラディシュの独自の活動として、障碍者や発達遅滞、発達障害の患者を見つけて、適切なマネジメントがされているか調べている。これは先述の自治組織の班長にお願いして、各家族にそのような方がいないか、調べてもらっている。障碍を持つ方は、適切な支援が受けられなかったり、生活はできても自立できないような状況に陥りやすい。日本でも問題となっている問題に対し、AMDAバングラディシュが率先して活動することは非常に素晴らしいと思われる。