「マーシーマレーシア」にインタビューしました! – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

「マーシーマレーシア」にインタビューしました!

AMDAインターンとして、野本遥香さんがAMDAと協力協定を結んでいるマーシーマレーシア(Mercy Malaysia)事務所を訪問した際にインタビューを行いました。今回は、そのインタビュー内容と野本さんの感想をご紹介いたします。


野本さんによるマーシーマレーシアへのインタビュー

文責:野本 遥香

インタビューを行うにあたって:

マレーシアを本拠地とするMERCY Malaysiaは、公式のウェブサイトにも書いてある通り、Southern-based NGO(南側諸国、つまり途上国を基盤としたNGOのこと)である。MERCY Malaysiaは今やマレーシアや東南アジアにとどまらず、世界的に様々な分野で人道的援助をしている。東日本大震災の際も多額の寄付をAMDAに送り、援助をした。しかし、私を含め、日本人にとって途上国を基盤とした団体というのは正直あまり馴染みがない。北側諸国、つまり欧米を始めとする先進国を基盤とした国際機関やNGOばかり有名であり、イメージがある。今回のインタビューでは、MERCY MalaysiaのProgramme Development & OperationsのHeadであるMohammad Said Alhudzari bin Ibrahimさん(サイードさん)に、途上国を基盤とした団体であることの特徴をお聞きして、日本の皆さんに先進国のNGOに負けないその良さ・特徴を伝えていきたい。

1. MERCY Malaysiaが北側諸国のNGOと違う点

大概私たちの知っているNGOは先進国から来た組織であるが、サイードさんによれば、彼らは資金面で安定しているという。資金提供者と良好な関係を持っているからだ。それに対し、MERCY Malaysiaを含め、途上国のNGOにはあまり資金がない。「私たちは先進国にいるドナーとの繋がりがないのです。もしそのようなところに資金提供を申請したいと思ったとしても、1999年に設立されたばかりのMERCY Malaysiaにとっては簡単なことではないでしょう。」とのことだ。先進国のNGOはドナーとすでに長年にわたって活動をしてきているが、途上国のNGOは新規の応募者として申請しなければならない。規模の大きいNGOを通して応募するなどの工夫が必要らしい。それでいながら、MERCY Malaysiaは普段からマレーシア外のASEAN地域や世界中のあらゆる地域で活動している。資金力のある伝統的なNGOでなければ大きいNGOでもないことを考えると、MERCY Malaysiaは特殊な例であるのだろう。

2. メリットかデメリットではどちらが大きい?

どっちとも言える、というのが答えだった。まずメリットとして、文化の受容性が挙げられる。ASEAN地域内で活動するなら、実際のところ文化的により受け入れられやすい。アジアはもちろん、イスラム的な要素が濃い中東でも広く受け入れられる。特別な地域に入ることも難しくない。しかし、「もしあなたが西側諸国、例えばヨーロッパから来ていたとしたら、恐らく意思疎通に不具合やある程度の亀裂が生まれたことでしょう。」

ではデメリットは?サイードさんはミャンマーの例を出して説明してくれた。MERCY Malaysiaがミャンマーで団体登録しようとしたとき、国際組織として登録することを求められたという。だがそれは国際組織として国内の団体より多くのお金を費やすことが求められていることを意味する。前述したように、MERCY Malaysiaは資金面で先進国のNGOに負けている。国際組織であって現地組織ではないが、かといって先進国のNGOとはまた違うのだ。資金の少なさは多くの問題を引き起こす。「国際的に活躍したくとも、資金面そしてドナー、特に西側諸国からのドナーの少なさにより制限されてしまうのです。」他の事務面などでは特に問題がないMERCY Malaysiaだが、資金は大きな問題なのである。

3. MERCY Malaysiaは南側諸国の団体ということを意識して行っていること

MERCY Malaysiaは国際社会で、途上国のNGOにも資金がしっかり行くように確約することを目指しているという。「この交渉の示すところは、国際組織でありながらアジアで起こるあらゆる災害に応える、という地方化(localization)であるとも言えます。」つまり国内組織主導でもプロジェクトが進められるような状態が実現しうる、ということである。先進国のNGOや国際的なNGOはいつまでも支援地にいられるわけではない。その際にはその国の政府や市民社会がどうにかしなくてはいけないのである。地方化はこのような事態に備えてプロジェクトを現地になじんだものにし、さらに現地のキャパシティを増やすことができる。今後の開発、そして現地の自立を考える上で必要不可欠だろう。

4. マレーシア、南側諸国に本部をおいて活動することについて

マレーシアに本部を置くことにはメリットがある。なんといっても災害時の対応である。サイードさんは「ASEANには深刻な災害の『輪』が位置しています」と言っていたが、実際ASEAN地域は世界的にも多くの自然災害が頻発している。アチェやフィリピンのニュースは日本でもよく聞くだろう。しかし、驚くことにマレーシアはこの輪の外にいて、その輪による影響をあまり受けない。台風の影響はなく、地震の影響もあまりない。つまりMERCY Malaysiaはあらゆる災害が起こる地域の中心にいながら、影響されずに済む。これはASEAN内での災害に対応するのに最高のポジションであり、「西洋やその他の地域から来ている北側諸国のNGOより簡単にそこへ行ける」ということは、大きなメリットである。

5. マレーシアに本拠地があることによる困難

ここでもまた資金面の話となった。ASEAN内で活動するとして、現地で資金調達をすることができないため、結局マレーシア内で獲得した資金を使うしかないのである。サイードさんはアチェ地震の時のことを教えてくれた。「アチェ地震後にシステムを発展させて病院を建てるといったプロジェクトを立てた時、十分な資源がありませんでした。」この時は多額の資金を日本やシンガポール、中国の政府から得たという。そして大きな資金を得る時はやはり先進国のNGOと競争することになる。資金は組織の雇用や計画などすべてに関わってくる。途上国のNGOにおける資金問題は深刻だ。

南側諸国のNGOとしての困難にどのように対処していますか。

一つ目は、前述したように国際社会で資金の分配方法について変化を促すよう強調することだ。でもなぜ国際社会なのか?「それは、私たちは国際社会にいる人々に、すでに認められている組織を通してしか資金を提供しないという伝統的な方法を彼らが続ける限り、状況はたとえ二十年後であっても変わらないということを知ってほしいからです。」国際社会が変わらない限り途上国のNGOの苦しい状況は変わらず、活動の継続や発展は難しいままだ。2つ目は、団体内部の問題を認識し、MERCY Malaysia自身を改善することである。資金獲得のためのスキル、例えば申込書のライティングスキルなどを磨き、細心の注意を払えば、資金獲得の可能性は広がる。

6. 外部機関との協力において、

MERCY Malaysiaは他組織とパートナーになる時、いくつかの基準を元に審査・確認した上で、協定を結んでいる。スフィア・プロジェクトやALNAP(Active Learning Network for Accountability and Performance)といった組織に加盟し、そこの基準も取り入れながら、他組織の責任・能力や決定プロセスを見て取れるような基準を作成しているとのことだ。ただし、審査時点でその組織が方針を持っておらず、既存や特定の国際基準に従っていなかったとしても、そこでパートナーにはなれないと戸を閉ざすわけではない。MERCY Malaysiaは協同しながら、その組織の改善点を解決するのを手伝う。もしその後その組織がMERCY Malaysiaの方針に従うと決めたり、独自の方針を作ることができたりしたならパートナーになることもできる。「競争したり、私たちのパートナーになるにあたり最高で完璧な組織を探したりするというよりは、相手組織に敬意を表すこと」がMERCY Malaysiaのやり方だとサイードさんは言う。

AMDAとの提携

2011年の東日本大震災の時にAMDAと提携した時も上記の審査を行った。審査の前にAMDAについてはすでに知っていたと言う。「その時AMDAと直接のパートナーとして一緒に働いていたわけではなく、彼らには彼らのプログラムがあり、私たちには私たちのプログラムがありました。しかし、彼らと重なる点があり、また同じ場所で活動していたため、彼らのことを知ったのです。」







ただ、時としてパートナーの方がより多くの方針を持ち、MERCY Malaysiaが何か求められることもある。「AMDAと協定関係を結んだ際、私たちはその時まだ発達し切っておらず、Humanitarian Accountability Partnership(人道支援における説明責任においての協定関係)と呼ばれる協定関係を持つことにしていたので、私たちはパートナーにそのような協定に署名するよう求め、何回か会合も行いました。」この協定が最低限の枠組みになり、それを基に方針を発展させていったという。

国連機関との協力関係

まず、MERCY Malaysiaが緊急事態に対応する際は、基本的に国際的に認められたガイドラインに従う。マレーシアの中には、国連機関や政府組織、現地組織など様々な団体があるが、マレーシアにおいてMERCY Malaysiaは国内組織に含まれる。まず、いつマレーシアで災害が起ころうと、国連が被害の深刻な個所に対応し、またどのように展開するか検討できるように、国内組織と常駐コーディネーターが国連に報告する必要がある。彼らは国内レベルの組織から助言をもらい、意思決定をする。

そして国からの要請に基づいて現地に入ったら、それぞれの組織は各自が専門的に特化しているクラスター(分野)で働く。それぞれのクラスターは国連によって先導されており、それが長期にわたるようなプログラムであれば、各団体は国連によって用意される総合調整のための会合にも出席する。これは各団体が一貫した流れの下で活動するのを確かにし、他の組織と活動内容が被るのを避ける意味がある。さらにこれは、MERCY Malaysiaにとって資金を得られる機会でもあるという。「私たちはクラスターシステムの中におり、そこで国連がプロジェクトなどを提示するので、それに対しての案を提出することができます。」また、クラスターシステムを通して、情報の共有も行われる。このように緊急時、MERCY Malaysiaは国連と密に連携して動いている。

7. 今後の活動

やはり途上国のNGOとして、MERCY Malaysiaは多くの困難に直面しており、改善が必要な個所は依然としてある。欧州と違って資金集めのための申請書作成を指導できる人材が少ないマレーシアで、いかにそのようなスキルを身に着けていくか考えることは次の段階に向かうにあたり必要である。また、知識の問題もあるという。すなわち、マレーシアにはフィリピンやインドネシアのように深刻な自然災害があまり発生しないため、災害時の対応や管理はマレーシアではあまり発展しなかった。「自国での経験が少ない以上、このような知識を身につけるのはとても難しいことです。」とサイードさんはその大変さを語る。「どこかからこれらを獲得しなくてはならず、どのように学んでいくかということが問題になっています。」

しかしながら、もちろん、MERCY MalaysiaにはマレーシアのNGO、アジアのNGOとしてのメリットがある。そしてこれらのメリットを、自身が利用するのはもちろん、パートナーである団体にも共有するという。やはり最終的な目標は、緊急的な状態に応えることだからだ。それには許可を取っていかに早く現地に入れるかが重要となるが、この機会を逃してしまうNGOは、MERCY Malaysiaとパートナーになることでその機会を得ようとする。実際、いくつかの先進国のNGOや国際的なNGOがそのメリットを踏まえてMERCY Malaysiaを戦略的なパートナーだと認め、協定を結ぶことを決めた。サイードさんは将来どのようにメリットを使うかという点が重要だと思っている。「基本的に私たちはできる限り自身を活用して、誰であろうと私たちの資源力や利点を必要としているパートナーを、協定関係を持って助けることに挑戦するべきです。」と彼は語る。今後もパートナーに講習を実施したり、時にはMERCY Malaysia自身が受講したりして協力していくことにサイードさんは意欲を示した。

8. 日本の人に伝えたいこと

様々な土地での様々なエリアに対応していく中で、MERCY Malaysiaもまた学ぶことがあるという。2011年の東日本大震災で援助した際もMERCY Malaysiaは日本の人たちから学んだ。一方で、アジアやASEANにまだ先進国は少なく、多くの国は様々な災害に対応できるようなキャパシティがない。「そこで、私たちはもっと関係を築いてお互いに人材を派遣しあい、能力や知識の面で発展することができるはずです」とサイードさんは提案してくれた。「そして、個別に働くのではなく、もっと一つのチームとして作業すべきです」とも。受益者のことを第一に考えたのなら、競争することよりも敬意を表す方がよいと信じているからである。だからMERCY Malaysiaは、その地域に自身の事務所を持つのではなく、その土地や事態の背景をよく知っているパートナー組織との協定関係を最大限活用している。サイードさんはその有意義さを語る。「この方法はより迅速であり、より効率的であり、そしてもちろん個別的にやるよりもっと多くの命を救うことができます。」

インタビューを終えて:

MERCY Malaysiaのサイードさんに対してのインタビューで、私は日本にいて考えたことのない切り口から途上国のNGOについて考えることができた。積極的に途上国のNGOと協力し、その利点を理解してお互い支え合うという姿勢こそ今後日本の支援に必要になってくるのではないだろうか。支援する対象としてだけではなく、頼る相手としてもマレーシアを含む途上国のNGOを見ていくべきだろう。