ネパール地震復興支援報告8 ~現地製造車いす~ – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

ネパール地震復興支援報告8 ~現地製造車いす~

昨年4月25日のネパール中部地震では多くの方が障がい者となられた状況を受けて、AMDAによる障がい者支援は継続しております。今回は、現地製造の車いす支援のこれまでの経緯と現在の状況についてご紹介いたします。

現地製造の車いすは、震災後より現地の障がい者団体「CILカトマンズ」の提案から始まりました。車いすの国内製造はネパールの障がい当事者の昔からの念願でもあったのです。

震災以前のネパールの車いす事情は、外国による支援によって外国製の車いすを寄付するといったものに限定されておりました。寄付で受け取った車いすをお乗りの方は、いつこの車いすが壊れるか分からない。そして壊れた先どうなるのか分からない、といった不安をいつもお持ちだったのです。また使い勝手が良い車いすがもらえるとは限りませんでした。ネパールの住宅は日本と似た点が多々あり、狭い部屋では外国の大きな車いすが使えないといった方もよくいらっしゃいます。

現在の車いす製造にはAMDAの他にも日本のいくつかのNGOとネパール政府が協力して、技術者の育成のための研修会も行われ、日本で一般的な型である標準型という車いすを製造しております。この取り組みには、資材の現地調達や、現地の人々によって製造する雇用創出など、外国から物資を送り続けるよりも、意義深い事として、AMDAはこれまで14台の製造支援を行いました。

車いすのタイプは標準型のみですが、サイズを大・中・小の3サイズ製造し、車いすをお使いになる方が適切にお使いいただけるように、私が理学療法士としてご利用者のお宅を訪問し、ご本人の身体状況や住環境などを拝見して適したサイズの車いすをお渡ししております。主な使用目的は家の中での移動に役立てていただき、寝たきりを予防や屋内生活の活発化が多いです。また折りたたみができる事やアルミ製で軽量であることから車や補助輪付きスクーター(障がい者の移動を補助するスクーター)に乗せて行動範囲を拡大するために使う方もいらっしゃいます。

またCILカトマンズによれば、製造開始当初より政府と交渉をおこなってきた結果、ネパール政府は毎年50台分の車いす製造に関わる費用負担を約束するに至ったとのCILカトマンズからの報告がありました。このことはネパールの障がい当事者の不安に対して大きな前進となります。

現在車いすは、若干のモデルチェンジをして製造が継続されております。AMDAでも第二期の支援として車いす追加製造を準備しており、車いす製造・引き渡しの他、福祉用具支援と合わせて、訪問リハビリテーションとCILカトマンズのピアカウンセラーによるカウンセリングを実施し、より内容の充実を図っていきます。

現地で製造した車いすは、まだ産声をあげたばかりの幼子のような感じです。まだまだ課題もありますが、いつかはこの段階を経験しなければ将来のネパール国産の車いすは発展しません。将来のネパールのためにも、長い目で温かく見守る必要がございます。その意味でもネパール政府が継続して費用負担を決定したことには大きな意味があります。

一方、実際に車いすをお使いの方々には、故障や不具合も想定してアフターケアを行っております。製造した車いすで故障や不具合が生じた場合、あるいはお体や環境の上でお使いいただく方に適合しない場合には、日本の中古の車いすで対応させていただいております。

またこの取り組みは様々な場面に良い影響も与えているようです。製造現場のあるカトマンズ大学では、学生に対する講義の中においてバリアフリー環境をテーマに講義も行われるようになったとのこと。それによって大学構内がバリアフリーでない現実にも気づきができたことを、先日大学の講師の方から伺いました。

最近の動きとしては、障がい当事者が製造スタッフとして働くため、ご自身の車いすに乗りながら車いす製造作業を行う環境整備が整えられております。また電動車いすに関心のあるネパール人技術者が車いす製造に参加する動きも出てきております。

現地製造車いすの取り組みは、ネパールの障がい当事者を中心に、ネパール政府、大学、そして複数のNGOと、多くの人々によって支えられておりますが、その動きは現地の人々の主体的な動きへと進んできております。

AMDA障がい者支援としては、こうした現地の人々、障がい当事者らによる主体的な働きをサポートする立場で第二期の支援活動を実施してまいります。

理学療法士 西嶋 望