(AMDAマリノ農場2025年度活動報告)

2025年度、インドネシア・南スラウェシ州にあるAMDAマリノ農場では、インドネシアと日本の大学生が参加して分野横断的な体験型の学習プログラムが行われました。2014年の開設以来、同農場では有機農法による稲作と野菜作りを行っています。
今回のプログラムは、2026年2月19日から3月9日にかけて、香川大学、高知大学、愛媛大学から12名の学生と、現地ハサヌディン大学から17名の学生が参加して行われました。学生の専攻分野は、農学のみならず、農業科学、森林科学、水産・海洋科学、動物科学と多岐に渡ります。
学生たちは、農場のあるマリノ村でホームステイをしながら、各農家の取り組みを実地で学ぶ貴重な機会を得ました。日本側からは愛媛大学の島上宗子教授、インドネシア側からはハサヌディン大学のアグネス・ランピセラ教授が引率役を務めました。

今回の企画は、日本の3つの大学とインドネシアの3つの大学からなるSUIJI(The Six University Initiative Japan-Indonesia)と呼ばれる日尼共同の大学間連携イニシアチブによるものです。すでに15年の歴史があり、これまで両国のリーダーを育成する目的で、多くの学生にこのような学びの機会を与えてきました。とりわけ、学生自らが農村を訪れ、現地農家とコミュニケーションを図り、地域の持つ潜在性や文化的な背景に対する理解を深めることで、現地における本来のニーズを把握するという意義深い内容となっています。
今回、学生たちが訪れた時期は丁度雨季に当たり、農家は田植えの準備で多忙を極めていました。有機農業を推進するマリノ農場ですが、学生たちは、有機農法の理論的な部分に関してのみならず、地域に根付いた知恵に触れ、座学ではなく、実践を通じてそのノウハウを学びました。

例えば有機肥料の作り方についてです。家庭から出る生ごみを利用して有機肥料を作る場合、屑野菜、肥やし、米の籾殻の順番でこれらを重ねて層にします。このプロセスを4回繰り返した後でタープをきつく被せ、内容物の分解温度を管理。その後、洗米に用いた水を層に散布しながら、層を丸ごとひっくり返す作業を毎週行うことで、6週間かけて、内容物を熟成させます。
今回のプログラムでは、主に日本人とインドネシア人の学生がペアになって生産者宅に滞在し、作物の作り方を学びました。トマトの苗を苗床から畑に移植する作業を体験したペアは、根の部分に細心の注意を払って畑に植え替えることで、苗が新しい環境に適応しやすくなることを知りました。このシンプルな方法を採用すると、化学肥料を使わずとも、高い生産高を維持することが可能になります。また鶏糞を主な肥料に用いることで、土壌がより肥沃になり、トマトの苗の初期段階における成長を促します。
この地域の地層は、特色として石を多く含んでいます。高低差のある土地なので、水の管理や土地の浸食リスク等の課題もありますが、この地層が豊かな土壌作りに適しており、有機農法を正しく利用することで、農作物の収穫量を最大化することが可能です。

地域の長老の家に滞在した学生は、農作業が家族の代の垣根を超えて行われている様子を目の当たりにしました。家長のみならず、結婚して家を出ている娘二人も農業を手伝っており、作業が家族内でバランスよく分担されていたということです。
またこの家では、家屋の構造そのものが農業に適しており、収穫した米を屋根裏に貯蔵できるようになっています。この伝統的な構造により、収穫した米を乾燥させ、害獣や害虫から守ることができます。
農家がまず考えるのは、収穫した食物を家族で消費すること、そして地域コミュニティーの食料需要を満たすことです。これにより自給自足型の循環経済を実現することが可能になります。
一方、農地のゾーニングを徹底して行っている農家に滞在したペアは、有機農法における危機管理について学びました。農地に対する配慮は、1月から2月にかけて土地を耕す段階からすでに始まっているといいます。例えば、水田は、下流に設置すると、灌漑がもとで化学肥料や合成殺虫剤を含む農業用水の残基が流入する恐れがあるため、意図的に源流に近い場所を選んで設置しています。

このほか、学生たちは、農家がトマトやキャベツ、サツマイモ、唐辛子など、米以外にも様々な農作物を生産していること、また農閑期には建設現場等で働いていることなどを知り、その勤勉さに感銘を受けた様子でした。
またマリノ農場全体のコーディネーター役を務める生産者の家に滞在したペアは、商品開発の面でも新たな知見を得ました。同農場では、アセロンポと呼ばれる原生種の赤米を有機農法で栽培しています。この赤米は、100グラムあたりに含まれる食物繊維が4グラムと非常に高く、通常の白米と比べて8倍の栄養価を誇っており、いわゆるプレミアム商品として位置付けられています。
このため、先述の農地の隔離に加えて、土に恩恵をもたらす良い微生物が増えるよう環境を整備。コンポストや籾殻燻炭を使用して病原性のバクテリアを除去するなど、良質の土壌作りに励んでいます。また精米の際、専用の精米機を用いることで、オーガニックではない米や他の品種の米が混ざらないよう配慮しています。

今回のプログラムを通じて、学生たちは、有機農業が、単なる化学肥料や農薬に頼らない農業ではなく、それ自体が非常に高度な環境マネジメントの上に成り立っていることを学びました。
透明な生産プロセスと、健全なエコシステムの中で育まれたマリノ産の農作物。このような小規模の有機農業がより広大な市場ネットワークへと繋がり、その高い品質が世界でいかに競合できるのか–ホームステイを終えた学生たちの胸には、様々な思いが去来したのではないでしょうか。
最後に、アセロンポ特有のソフトな食感と独特な香りは、初めて試食した学生たちの食欲を大いに刺激したようです。