こどもの家プロジェクト×AMDAハイチ合同事業 – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

こどもの家プロジェクト×AMDAハイチ合同事業

長崎大学熱帯医学研究所国際保健分野研究員
AMDA ERネットワーク登録調整員
森田佳奈子











AMDAをご支援くださっている皆様、はじめまして。森田佳奈子です。こどもの家プロジェクト代表理事として、また長崎大学熱帯医学研究所国際保健分野の研究員としてハイチのフィールド疫学調査をしています。今日は、いつもAMDAの事業を支えてくださっている皆様への活動報告とともに、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

私は、2010年に起きたハイチ大地震の際、菅波茂先生との機縁でAMDA緊急医療支援活動に従事した経験から今に至っています。その後の震災復興支援では、手足を欠損した被災者に対する義足支援事業や、ハイチ、ドミニカ、日本から参加した少年少女たちがスポーツ通じて交流したスポーツ親善交流事業に関わりました。2016年にハイチを襲った大型ハリケーン「マシュー」の後、風土病であるコレラが再燃した際には、AMDAの一員として緊急医療支援に従事しました。

この10年間、私はハイチでのフィールド実務と研究の一本化を目指した「災害公衆衛生」をテーマに、寄稿や学会などを通じて、ハイチの現状を国内外で広く発信する努力を続けています。
 

こどもの家プロジェクトについて

昨年、AMDAの菅波茂代表に、「現地の政情悪化により、最も脆弱な立場にある孤児たちが飢餓状態にある」とハイチの現状をお伝えしました。菅波代表から、「助けてあげなさい。でも、“助けてやる”のではなく、“受け取っていただけませんか”の姿勢で」とのお言葉をいただき、AMDAと共同でハイチの孤児院を支援する事業を行うことになりました。

従来からの政情不安に加え、社会インフラサービスが脆弱なハイチでは、2010 年の地震により約 31 万 6 千人が亡くなりました。また近年アジア型コレラ 01型とよばれるコレラの蔓延が、人々の生活に多大な影響を及ぼしています。市民の間では、2018 年から現政権に対する大規模なデモが続いており、国際空港のみならず、首都における市民サービス(行政・銀行・スーパーマーケット)が閉鎖されています。こうした状況の中、市民のフラストレーションが高まり、銃撃戦が発生するなど、緊迫した状態が続いています。

事前調査

今回のプロジェクトを始めるにあたり、2019年8月の初旬から中旬にかけて、首都ポルトープランスにある3か所の孤児院、ならびに南県のSaint Jean du Sudの5か所の小学校における児童の健康の実態を調査しました。施設の代表者から聞き取りを行ったり、小学校の教員を対象にワークショップを開いたりするなどして実態の把握に努めました。尚、対象となった孤児院は、Francois孤児院(Centre d’ Accueil Desilia Francois)、COVNAH 孤児院(COVNAH)、Maison孤児院(La Maison des Enfants Pauvres)です。

ポルトープランスにあるFrancois孤児院では、近年の治安情勢の悪化から海外の団体から受けていた支援が打ち切られたことにより、食糧の流通が止まり、食糧難にありました。また支給されたベッドなどの老朽化に加え、こどもたちはマットレスや布団などの寝具がない中で就寝しているため、風邪に罹りやすく重篤化する傾向にあります。この背景には、慢性的な栄養失調があり、風邪や呼吸器疾患、劣悪な衛生環境に起因するシラミや皮膚病などが確認されました。一方、前出南県の小学校で行われた調査では、慢性的な栄養失調は見られませんでした。

ポルトープランスにおける支援活動

2019 年 12 月 26 日から2020 年1月 31日にかけて、これら3 か所の孤児院のこどもたちへ食糧・生活物資の緊急支援を行いました。 物資提供の傍ら、こどもたちの健康促進活動として、手洗いやこまめな入浴などの生活指導を行い、塩素系漂白剤を用いた洗浄・消毒方法を教えました。このほか感染症の予防対策として、コレラ対策に関する指導を行いました

孤児院で暮らすヨレーヌさん(7歳)からは、「皆さんが来てくれて本当に嬉しいです。次は綺麗な服が着たいです」との言葉が聞かれました。

1月3日、AMDAハイチのケビン・マック・フレデリック支部長が各孤児院を巡回し、こどもたちの経過観察を行いました。こどもたちは、僅かに配給された食材で用意された伝統食(豆ごはん)にモリンガパウダーをかけ、牛乳と一緒に食べて、元気に過ごしていました。

このほか、昨年8月に事前調査で現地を訪れた際、学習支援として、調査に協力してくれたこどもたちにボールペンを寄贈しています。この発端となったのは、京都府立医科大学の中西雅樹先生が始められたボールペンボランティア(寄付)です。この活動に対し、大阪市総合医療センターの白野倫徳先生や、大阪公衆衛生協会などからも1,000本のボールペンが集められました。


各孤児院におけるフィールド疫学調査

今年2月の初旬に行った各孤児院における現地調査では、代表者やスタッフに現状を訊きながら、こどもたちの生活全般の様子(健康面や学習面含む)や施設の設備などについて聞き取りを行いました。建物の老朽化が進む中、COVNAH 孤児院のデリーヌ代表は、「機会があれば、孤児院の施設の建て替えをしてもらいたい」と窮状を訴えました。

施設で暮らすフリディオくん(15歳)によれば、「食べ物の供給が来ないので、孤児院の中に家庭菜園を作りたい」とのことでした。このような状況を受け、プロジェクト対象の3か所の孤児院の中でも校庭が広いFrancois孤児院の敷地で家庭菜園を作る計画が話し合われました。会議は4回に渡って行われ、Francois孤児院の校庭に家庭菜園が作られる運びとなりました。現在このプロジェクトは2ヵ年計画で動き始めています。

【食糧自給率を高める必要性】

今回Francois孤児院に家庭菜園が作られた一方で、不安定な食糧供給に頼らざるを得ない各孤児院の現実が浮き彫りとなりました。昨年8月の事前調査でも明らかになったように、Francois孤児院のジョゼフ代表は、「慢性的な栄養失調がこどもたちの疾病や体調不良を引き起こしており、これらを解決するためには持続的な栄養改善支援が必要である」と述べました。またMaison孤児院のジューン代表も、こどもたちが如何に食べる物を必要としているかを説いた上で、このプロジェクトの継続を切望しています。

新型コロナウイルスのヘルスプロモーション

3月30日、こどもの家プロジェクトでは、カリブ地域における新型コロナウイルスの感染拡大に備えて、AMDAハイチのフレデリック支部長を中心に対策会議を開きました。緊急時には、ハイチGESKIO研究センター、首都の基幹病院、また隣国キューバから支援にきている医師団とも協力体制がとれるよう対応を講じました。また、現地スタッフたちと、基本的な感染予防(所謂3密(密閉、密集、密接)を避けること、マスクの着用、帰宅時の手洗い・うがいの習慣化)についての知識を共有しました。

ハイチ、そしてこどもの家プロジェクトのこれから

4月29日、新型コロナウイルスに対する予防啓蒙活動とこどもたちの健康状態を観察するため、再びFrancois孤児院を訪れました。家庭菜園で植えたにんじんや大根、豆類はまだ芽が出ていませんでしたが、「バナナの木とほうれん草の芽が出はじめた」とこどもたちは大喜びの様子でした。

現状として、ハイチにおける乳児死亡率は、出生件数1,000人当たり52.66人と依然として高い状態にあります。“最も脆弱な立場にあるこどもたちの「命」が危険に晒されている”等、ハイチは負の側面ばかりがクローズアップされる傾向にあります。しかし、私の研究テーマである「ハイチ災害公衆衛生とソーシャルキャピタルの活用」の観点から見れば、ハイチの人々との信頼関係、すなわちソーシャルキャピタルの力は非常に強いといえます。この確固たる信頼関係無くしては、こうして日本にいながら現地の孤児やこどもたちの支援を遠隔で進める取り組みも実現していないでしょう。

現在の事業があるのも、この10年間、AMDAがハイチで行ってきた事業の積み重ねにより、現地の人々との良い人間関係が構築されているからです。また、AMDAの活動を応援してくださっている皆様の継続的なご支援があるからこそ、活動を続けることができています。本当にありがとうございます。

こどもの家プロジェクトでは、現在、在ハイチ日本大使館と調整を行いながら、外務省の草の根無償資金協力事業として「ハイチ母と子のクリニック事業」を計画しています。このほかにも今後の展望については枚挙に暇がありません。

今後も、包括的な支援を通じて、こどもたちの「命」を守っていけるよう関心を持っていただければ幸いです。これからもAMDAへの温かなご支援、ご理解をどうぞ宜しくお願いいたします。

一緒に活動した人々の声

AMDAハイチ ケヴィン・マック・フレデリック支部長

「2010年の大地震を皮切りに、森田さんとは多くの活動をともにしてきました。菅波代表のご支援もあり、昨年末、ハイチ国内の3つの孤児院で暮らすおよそ100名のこどもたちに物資支援と食糧支援を共同で行った結果、これが今年2月の家庭菜園プロジェクトの実施へと至っています。この10年間、彼女はハイチの人々に寄り添い、優秀なプロジェクトマネージャーとして手腕を発揮してくれました。私自身、彼女から学んだことはとても多く、これからも是非一緒に仕事をしていきたいと願っています。」


豪・クイーンズランド大学大学院修士課程、元AMDA高校生会メンバー

新家むつみさん

「私は、2010年にAMDA主催の「ハイチ復興支援スポーツ親善交流事業」に参加させていただきました。ハイチの隣国ドミニカ共和国を訪れ、3か国の少年たちとのサッカー・文化交流、そしてNY国連・ユニセフ本部への訪問を通じて私の心は大きく動かされました。特に、少年たちが「ハイチに帰りたくない」と本気で涙していたこと、その後ハイチの「何もない」悲惨な現状を知らされたときの衝撃はとても大きかったです。それから、AMDA高校生会への参加、大学時代の学びを通じて、途上国への理解を深めるとともにそのかかわり方の難しさを感じるようになりました。しかし、ハイチの少年たちが私に教えてくれたことを私は忘れたくありません。現在、私は国際協力業界でのキャリアを目指して、オーストラリア、クイーンズランド大学の開発実践学部修士課程に所属しています。毎日の学びの中で、理想や理論を実践することがいかに困難か、自分に本当に何ができるのか考え続けています。しかし、その一つの答えとして、10年前にお世話になり、現在はフィールド研究者として、また「こどもの家プロジェクト」代表をする森田佳奈子さんを通じて、「こどもの家&AMDA合同事業~ハイチの子ども支援事業~」に関われることをとてもうれしく、ありがたく思います。」