ネパール担当 アルチャナ ジョシ
AMDAは次世代の育成に力を入れるために「TAPPプログラム」を開始しました。TAPPプログラムはTriple Aパートナーシップ プログラムの略で、AMDA, AMSA(アジア医学生連絡協議会), AMSA Alumni (卒業生部会)の三者が協力して活動を行います。その一環として、今回は2018年5月14日から6月9日まで、シンガポール大学医学生9人がネパール・トリブバン大学教育病院(TUTH)での研修プログラムに参加しました。
シンガポールは世界の中で最も発展している国で、世界一清潔な国だと知られています。医学生たちからネパールに来る前に「ネパールで生活するためにN-95のマスクを持ってこないといけませんか?」と問いあわせがありました。ネパールの首都カトマンズは排気ガスやほこりが多く、空気が汚染されています。そのために、マスクをしている人も多くいますが、さすがにN-95のマスクをして歩いている人が見かけたことはありません。シンガポールの医学生にその事実を説明し、「必要だと思うなら持ってこられた良いと思います」と返しました。その後、私は心の中では「彼らはとても清潔なところで生活されていて、ネパールで一か月間過ごせるかなぁと」心配でなりませんでした。ネパールでの研修が始まる前にこのようなやり取りもありましたが、医学生たちから「ネパールの研修を楽しみにしている」とメールも何度かもらっていたので、「きっと大丈夫だろう」と思っていました。
待ちに待った、学生との面会の日がやってきました。ホテルでネパールの朝ごはんを楽しく食べている若者たちを見てほっとしました。そして、いよいよ街に出ようとなったときに医学生の誰一人も普通のマスクもせず、ネパールの環境を楽しんでいた様子を見て、「この状況だったら大丈夫だ」と安心しました。ネパールはモンゴル系やア―リア系の人種が混ざって生活しています。医学生たちはモンゴル系の顔をしていて、現地の人々に間違えられるほど馴染んでいました。
今回の医学生の宿泊先はトリブバン大学教育病院救急部長であるシャキャ先生のご家族が経営するゲストハウスです。このゲストハウスはトリブバン大学教育病院から車で15分ぐらいのところにあり、同大学教育病院で研修を受ける多くの医学生の滞在先となっています。家庭的なゲストハウスの経営者であるシャキャ先生はじめスタッフの皆さんが、医学生たちが快適に過ごせるためにいろいろと気を配ってくださいました。スタッフたちは医学生たちに道案内、レストランや観光地域についての情報を提供していました。また、医学生の休み時間に合わせて、ネパールの文化に触れるためにネパール料理体験や季節のお祭りに参加できるよういろいろと準備をしてくださいました。ゲストハウスの皆さまのおかげで医学生たちが安心して安全に暮らすことができたと思っています。
医学生たちは母国では、最新の医療機器が整っている環境の中で医療に関わってきているので、ネパールでの保健医療システムや医療機器の違いを見て少し驚いた様子でしたが、これぐらいの差は当然のように思ったようです。しかし、医療従事者として患者に対する思いやりや関わり方、そして自分の患者さんが早く元気になってほしいと願う気持ちはシンガポールの医師でもネパールの医師でも変わらないと共感したようです。
研修を受けている医学生から「病院の医師や現地の医学生はシンガポールの医学生たちの前では必ず英語で会話し、彼らが話の内容を理解できるように気を配ってくださったり、現地の医学生はテストがあるのにもかかわらずシンガポールの医学生たちと一緒に時間を過ごしてくれたり、いつも自分たちのことを歓迎されているように感じられてとても嬉しかった」と伺いました。さらに「言葉が通じない患者さんたちも、僕に優しく接してくれて、初めて言語を超えたコミュニケーションを取ることができて感動した」と報告されました。
今回の受け入れ側となったTUTHの医師からは「ここは毎年たくさんの医学生が研修に来られますが、今回は初めてシンガポール大学の医学生たちを受け入れことになって光栄に思っている」と語ってくださいました。また、外科部長は「トリブバン大学教育病院はネパールの中でもある程度の医療機器が揃っている総合病院で、私立病院に比べて治療費用が比較的に安いため全国から患者が殺到します。患者や家族にあふれている状況の中で診療することはシンガポールでは考えられないと思いますが、研修に来た医学生たちがこの大学病院での経験を活かして、どこでも医師として患者の治療ができるようになれば大きいな効果になると思います」と話をされました。現地の医学生たちは「いろいろな国の医学生と交流ができることはとても良いことだと思います、お互い学べることがたくさんあり、視野が広くなる」と目を光らせながら話をしていました。
TAPPはAMSAのメンバーである医学生を対象として、将来自国のみならず海外においても医療を通じて世界平和に貢献できる人材の育成を目指しています。世界でもシンガポール大学は優秀な人材を育成する大学として知られています。恵まれた環境の中で生活してきた彼らにとってカルチャーショックを受けることもたくさんあったと思いますが、設備や医療システムが整ってないところで医療サービスの在り方について学ぶこともたくさんあったのではないかと思います。ネパール、トリブバン大学教育病院で学んだことや経験したことを活かして将来、世界の平和に貢献できる医師として活躍されることを期待しています。