「市民参加型人道支援外交」の提唱(2010/6発行ダイジェストNo.34掲載) – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

「市民参加型人道支援外交」の提唱(2010/6発行ダイジェストNo.34掲載)

「市民参加型人道支援外交」の提唱

AMDAグループ 代表 菅波茂


手術後の子ども(ゴナイヴ)

2010年1月12日に発生したハイチ大地震は22万人の死者220万人の被災者をだした。AMDAは日本、カナダ、ペルー、コロンビア、ボリビア、ネパールそしてインドの7ヶ国から合計30名の整形外科医や外科医を主体とした多国籍医師団を2ヶ月間にわたり派遣した。ハイチ全体で4千人の被災者が骨折などの原因で四肢を切断している。ハイチ復興計画で、国連が各国に要請している支援項目に義肢がある。5月よりAMDAはドミニカ共和国内に義肢支援センターを設立するプログラムを開始した。8月には、「スポーツとは求心力」の定義のもとに、ハイチ復興支援スポーツ親善交流を予定している。

今回のハイチ地震被災者救援活動を従来の災害救援に比較して下記の3点に総括できる。
1) 国の統治機構の崩壊による最悪の治安状況。アリステッド元大統領による市民蜂起を期待した多量の武器の配布。その回収を目的とした国連ハイチ安定化ミッションの甚大な被害。刑務所の崩壊による武器を持った4千名の囚人の脱走等。

2) 2012年12月のスマトラ沖地震・津波に匹敵するかそれ以上といわれる犠牲者数。瓦礫から死臭が漂う首都。重機なくして遺体の回収は不可能。

3) 国の統治機構崩壊による自立復興不可能。最貧国に加えて社会インフラの崩壊。金融恐慌により国際社会には支援の余裕なし。市民には夜露をしのぐテントもなし。

AMDAのハイチ地震被災者救援活動構想は下記の3点に要約できる。
1) AMDA多国籍医師団の派遣。中南米に加えてアジアからの医師団の参加。
2) Overseas Japaneseとの連携。沖縄県と日系移民。青年海外協力隊OB等。
3) ハイチ復興支援スポーツ親善交流と義肢支援センター。近隣県の少年野球チームとドミニカ共和国およびハイチの青少年との野球やサッカーの交流親善試合。義肢を必要とするハイチ人被災者2百名とドミニカ共和国人1百名の支援。

AMDAは「市民参加型人道支援外交」を提唱したい。「市民が日常生活で共有している方法論で、見放されたくない状況にいる人たちを支援することにより、相互信頼を醸成して世界平和に貢献する」ことである。市民にも直接的人道支援ができる。市民にも外交ができる。NGOにとっては新しい人道支援パラダイム創出である。

1)歴史的対立の緩和や解消。
ドミニカ共和国とハイチは紛争を繰り返した歴史がある。国境に緩衝地域を設定する目的で日系移民が不毛地域を農業に適していると偽りのもとに送りこまれた悲劇がある。ドミニカ日系移民協会の訴えに、日本政府が2006年に裁判で敗けている。今回、甚大な被害を被ったハイチの人を助けようとドミニカ共和国の人たちが支援の手を差しのげている。歴史的対立緩和の最大の機会である。

2)人道支援パラダイムの大転換。
市民と市民が直接に参加することにより相互理解と相互信頼を醸成する。国やNGOのような専門団体が人道支援を売りにする時代の終末。

3)最良の「安全保障ソフトプログラム」。
BBCの調査によると、世界で最も嫌われてない国は日本である。しかし、最も好かれている国ではない。最も嫌われてなく、最も好かれている国を実現することが最良のソフトとしての安全保障である。

ハイチ復興支援スポーツ親善交流構想は、2年に1度10年間にわたって実施する構想である。10年たてば青少年も社会人となる。社会人となれば家族を持つ。家族ぐるみが歴史的対立を乗り越え、良き隣人となればうれしい。加えて、日本を好きになってくれれば、なおうれしい。ちなみに、広島県には「ひろしま国際施策推進プラン2010」があり、岡山県には「国際貢献推進条例」がある。広島県と岡山県の少年野球チームにはニューヨークの国連本部を案内する試みも計画中。AMDAが国連経済社会理事会総合協議資格認定団体であることも教えたい。この試みが成功すれば、「市民参加型人道支援外交」を推進する「AMDA-スポーツ夢機構」へと発展さすことができれば望外の喜びである。