2022年度年次報告 健康増進(医療技術移転事業)(2023/7発行) – AMDA(アムダ)
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国連経済社会理事会総合協議資格NGO

2022年度年次報告 健康増進(医療技術移転事業)(2023/7発行)

 

日本モンゴル教育病院内視鏡技術研修

◇実施場所: ウランバートル・日本モンゴル教育病院
◇実施期間: 2022 年9 月19 日〜 24 日
◇派遣者: 佐藤 拓史 / 医師 / AMDA 理事、白井 保之 / 医師 / 小倉記
念病院消化器内科主任部長、難波 妙 / 調整員 / AMDA 理事
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:
日本モンゴル教育病院消化器内科内視鏡室医師、AMDA インターナショナル参与 ニンジン ギリヤセド、AMDA 本部

◇受益者数: 20 人(医師)
◇受益者の声:
「コロナ禍で内視鏡研修が中断していた間に、日本モンゴル教育病院が本格的に稼働しはじめた。今回は、これまでの佐藤医師に加え、新しく白井医師をむかえて更に専門的な研修ができ、多くの内視鏡患者への診断と治療技術が向上した。」

 
◇事業内容:
AMDA は、2010 年に締結したモンゴル国立医科大学との協力協定に基づき、2017 年から2019 年まで毎年、佐藤拓史医師(AMDA 理事)が同大学病院で内視鏡技術研修を行ってきた。また、この間には、岡山県国際貢献ローカル・トゥ・ローカル技術移転事業の海外技術研修員として、同病院から2 人の内視鏡医が岡山済生会総合病院で医療研修を受けている。

AMDA の内視鏡研修はコロナ禍で中断を余儀なくされていたが、2022 年9 月、3 年ぶりに再開された。佐藤医師に加え、小倉記念病院消化器内科主任部長、白井保之医師も参加した。尚、今回は、2019 年に日本政府が総額約80 億円の無償資金協力にて建設、完成した日本モンゴル教育病院にて、食道胃静脈瘤や早期大腸がんの治療等を中心とした実践指導を行った。

まず最初に、佐藤医師と白井医師は、モンゴルの内視鏡チームと上部下部消化管内視鏡(胃カメラ/ 大腸カメラ)についての実践とお互いの診断治療方針のディスカッションを行った。その後、白井医師は、大腸腫瘍の超音波内視鏡の診断や日本で行っている内視鏡的粘膜切除術のテクニックのポイントを伝え、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の講義を英語で行った。佐藤医師は、初期研修医に対して、日本から持参した大腸カメラのシミュレータを使い基本的なトレーニングを実施した。今回、モンゴルで研修を行った処置は以下の通り。

・内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL:Endoscopic variceal ligation)
・内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)
・超音波内視鏡(EUS:Endoscopic ultrasound)
・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic submucosal disection)
・下部消化管内視鏡(Colonoscopy)

今後は、
・食道胃静脈瘤の治療として内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS:Endoscopic injection sclerotherapy) 、EISL(EIS with Ligation) の導入を目指していきたい。

また、この研修期間中に、AMDA は日本モンゴル教育病院とも協力協定を結んだ。同病院長であるMendjargal Adilsaikhan 医師と佐藤医師、白井医師は、今回の研修が医療技術交流における今後の協力関係の発展に繋がると期待を寄せた。

今回の活動を終えるにあたって、佐藤拓史医師、白井保之医師、AMDA インターナショナル参与 ニンジン ギリヤセド、AMDA 理事難波妙は、在モンゴル日本国大使館小林弘之特命全権大使を表敬訪問した。伊東貴雄参事官兼医務官にもご同席いただき、モンゴルの医師の多くが熱意をもって真剣に研修に参加され、患者さんの治療に共に向き合って研修した内容を詳しく説明し、日本から導入されている医療資材の現状についても報告した。そして、モンゴルの医療の更なる発展を期待して来年も継続して研修を行うことをお伝えした。

 

モンゴル救命救急研修

◇実施場所: ウランバートル・ウランバートルエマージェンシーサービス(通称103)
◇実施時期: 2022 年9 月26 日〜 27 日
◇派遣者: 佐藤 拓史 / 医師 / AMDA 理事・日本外傷治療研究機構インストラクター、難波 妙 / 調整員 / AMDA 理事
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:
ウランバートルエマージェンシーサービス103 救急医、AMDA インターナショナル参与 ニンジン ギリヤセド、AMDA 本部

◇受益者数: 26 人
◇受益者の声:
「長年に渡って、モンゴルの救命救急に必須の研修を行っていただいていることが、ウランバートルエマージェンシーサービスの医師たちにとっては、各人の技術レベルの確認と技術向上にむけた大切な機会になっています。」

◇事業内容:
AMDA は、2012 年9 月より、ウランバートル市内で緊急医療をおこなっているモンゴル保健省直属のウランバートルエマージェンシーサービス(通称103)において救命救急研修を実施している。これまで同署の署長やスタッフを岡山に招いて緊急搬送に関する視察と研修を実施したり、日本から救命救急の専門家を派遣して、研修を行うなど活発な交流を行ってきた。

2017 年から2019 年まで、毎年、佐藤拓史医師(日本外傷治療研究機構インストラクター)による研修を行った。2019 年は、ウランバートルのみならず、エルデネット県(ウランバートルから車で7 時間)の救急救命医にも、外傷治療に必要な超音波診断、骨髄内輸液、心嚢穿刺、外科的気道確保等、救命救急に不可欠なアプローチについての研修を重ねてきた。この時点までの研修受講者は200 人以上。

コロナ禍により、2020 年から2 年間は研修を中断したが、2022 年は、佐藤医師による外傷治療における診断と必要な治療技術のセミナーが2 日間に渡って開催された。モンゴルの救急車は、日本でのドクターカーに相当する。各救急車に救急医が同乗し、現場での診断と治療が可能になるため、救急医にはより高い知識と治療技術が求められている。今回の研修はポータブルエコー(超音波診断装置)を用い、内科的診断や外傷の診断など、救急医に求められる様々な場面での正確な超音波診断の習得を目指した。また通常の方法で輸液ルートが確保できない場合に必要となる骨髄内輸液の手技や、様々な状況を想定した客観的臨床能力を向上させるためのプログラムを実践した。

今回は、ウランバートル周辺の救急医も含め26 人の医師が参加した。近い将来に救急車にポータブルエコーの装備が考えられている中での研修は、優先順位の高いものであった。モンゴルの救急医療を担っていく若き医師たちは情熱と責任感に満ちており、今よりもっとできるようになりたいと願う気持ちがとても大きく、将来が期待される。

研修後、ウランバートルエマージェンシーサービス103 の署長と佐藤医師とでポータブルエコーの導入についての具体的な検討が行われた。半年後、5 台の導入を決定したとの署長からの連絡をうけた。これはモンゴルの救急体制が更に改善するきっかけともなった。

 

ネパール内視鏡技術研修事業

◇実施場所: ダマック市・AMDA ダマック病院
◇実施期間: 2023 年3 月7 日〜 13 日
◇派遣者:
佐藤 拓史 / 医師 / AMDA 理事、アルチャナ ジョシ / 調整員 / AMDA 職員
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:
AMDA ダマック病院、AMDA 本部

◇受益者(研修参加医師)数:
同病院ディワス ラズ ボホラ医師他、地元医師5 人
◇受益者の声(内視鏡検査を受けた患者の声より):
「大腸カメラの検査はとても苦しいと聞いており、今まで何度も受けるのをやめていました。今回、日本からの医師の指導の下で検査を受けました。検査を受けてよかった。」

◇事業内容
AMDA ネパール支部が運営する3 つの病院のうち、ネパール東部にあるジャパ郡ダマック市にAMDA ダマック病院がある。地域の中核病院であり、多くの患者が訪れるが、内視鏡技術は普及していなかった。

2015 年4 月に発生したネパール中部地震の支援活動時、同病院から派遣されたディワス ラズ ボホラ医師が、当時AMDA から派遣された佐藤拓史医師と出会ったことがきっかけとなり、2016 年に約3 か月、岡山県国際貢献ローカル・トゥ・ローカル技術移転事業の一環として、岡山済生会総合病院で内視鏡の研修を受けた。

その後2018 年と2019 年、AMDA ダマック病院での内視鏡技術向上を目的に、佐藤医師が同病院にて上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)の技術的指導、病変診断等について研修を行った。翌年以降は新型コロナウイルス感染拡大にともない、研修の実施が困難だったため、2021 年はオンラインでの研修となった。

そして2023 年3 月、4 年ぶりにAMDA ダマック病院にて佐藤医師による内視鏡研修を再開した。今回はディワス医師とともに地元の医師も参加し、麻酔を使用しない下部消化管内視鏡(大腸カメラ)の研修を実施した。まずは日本から持参したシミュレーターを用いてのトレーニングを行い、その後は佐藤医師の指導の下で、全大腸内視鏡19 人、上部内視鏡13 人の患者の検査・治療を行った。今回はダマック以外の地域からも患者さんが診察を希望され、大腸カメラ検査を受けた。20 代から80 代の患者さん32 人(男性:15 人、女性:17 人)から、直腸癌、上行結腸癌、S 状結腸捻転、クローン病、ポリープなどの病気が見つかった。

地方の病院にて、地元の医師自らが内視鏡検査・治療を出来るようになることで、たくさんの命が救われることになることから、今回の研修はとても重要な意義深い研修であると、研修参加者は実感した。

3 月15 日には、佐藤医師、AMDA ダマック病院の元病院長ナビン医師とAMDA 調整員アルチャナ ジョシは、在ネパール日本大使館にて菊田豊特命全権大使を表敬訪問し、これまでの内視鏡研修について報告し、ナビン医師からは、在ネパール日本大使館の支援で建設された同病院ICU で、コロナ禍の中500 人以上の患者が治療を受け、今も多くの患者が使用していることを報告し、菊田大使からも「日本国民からの支援が、現地の方によって大いに生かされていることがとてもうれしいです。」と話された。

尚、今回の技術指導で使用した大腸内視鏡のスコープは、台湾保健省から寄贈されたものである。