ウクライナ避難者緊急支援活動(2022/07発行ジャーナル夏号) – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

ウクライナ避難者緊急支援活動(2022/07発行ジャーナル夏号)

 

現在の活動状況について

6月22日現在、AMDAが看護師兼調整員を派遣しているハンガリー・ベレグスラーニーのヘルプセンターには毎日平均200〜600人程度の方々がウクライナから逃れてきています。この数は4月の上旬からほとんど変わっておらず、継続的に国外に避難する方々がいます。避難してくる方の大半は女性とその子どもです。現在は、避難者の方を次の都市に輸送するバスの連携がかなり改善しており、ヘルプセンターに留まる人の数が減ってきています。これに伴ってヘルプセンターでの医療ニーズも減少傾向にあります。避難者の方々に一番多く見られる症状は、極度の緊張状態を強いられたことによるストレスに起因した高血圧とこれによる頭痛です。AMDAは現地協力団体MedSpotの医師と協力して診察を行い、必要な薬を処方しています。また、ストレスの軽減を目的として避難者の方々の思いを傾聴したり、マッサージ、足湯などのリラクゼーションを提供したりしています。

 
医療支援以外にも、キシュバールダ市にあるカルパッチヤハウス(ヴァルダ伝統文化協会)と協力し、ウクライナに食糧や医療物資を支援しています。ウクライナ国内に残っている人々には、避難先での仕事がなかったり、子どもや年老いた両親を世話したりするために避難したくてもできない人などが多いと報告を受けています。爆撃など危険地域にいながらも避難できていない方々は金銭的に困難を抱える方が多く、より手厚い支援が必要な人々と考えられます。また、ウクライナ国内で避難することができた方も避難先で仕事を見つけられることができるとは限らず、食糧や住居等、避難してから生活を立て直すまでに多くの支援が必要となります。
 

『避難者の方々との出会い』 榎田倫道看護師からの報告

「4ヶ月間の活動を通じて多くの避難者の方々と出会いました。控えめで遠慮がちな方が多く、支援物資を差し出してもすぐには受け取られなかったり、医療支援が必要でもなかなか言い出せずにいたりする場面が度々あり、日本人に近いような感覚を持った方々が多い印象を持っています。

ベレグスラーニーのヘルプセンターには、日常を突然奪われ、傷ついた人たちがやってきます。多くの悲しみや困難を抱えた人たちと接する中で私が学んだことの中に子どもたちの力があります。ある日、40代のお母さんと10歳くらいの女の子がウクライナ北東部から数日かけてヘルプセンターにやってきました。女の子のお父さんはウクライナ国外に退去できない年齢であるため、地元に残っているとのことでした。そのお母さんは、お父さんのこと、爆撃が続く地元のことを思い出し、泣いてしまうことがありました。そのような時は幼い娘さんが小さな手でお母さんを抱きしめたり、じっと見つめて『大丈夫だよ』と声をかけたりして励ましていました。そんな子どもたちの人をいたわる姿や無邪気な笑顔を見ると、支援をしている側の私も元気づけられ疲れが吹き飛びました。支援を一方的にしているのではなく、私自身もこの方々に支援されているのだと感じた瞬間でした。私がウクライナの方々と直接関われるのもあと二週間程度となりました。私はこの笑顔の力を信じ、ここに来る避難者の方々の痛みが少しでも軽くなるように笑顔で活動を続けていきたいと思います。

最後になりましたが、ウクライナ支援にご支援をいただき、関心を寄せてくださっている皆様に心からお礼申し上げます。私たちAMDAの活動がご寄付で成り立っていること、AMDAが日本から支援に来たことを避難者の方々に伝えると多くの感謝の言葉をいただき、中には涙を浮かべる方もいらっしゃいました。ウクライナで人道危機が起こってから時間が経過するごとに関心は薄れていくものです。ですが、ウクライナの方々が皆様に心から感謝されていることを現地からお伝えしておきたいと思います。ある高齢のウクライナ人の男性は、こう言いました。『日本の人たち、私たちウクライナのことに関心を持ってくれてありがとう』」
 

ウクライナ避難者支援活動に参加した医師達より

AMDA理事 佐藤 拓史

「ウクライナとハンガリーの国境の村で、現地の医療団体や医師らと協力しながら、仮設診療所での医療支援活動でした。避難の途中でけがをしたり、薬を飲むことができず持病が悪化したりと、様々な症状を訴える方が大勢いました。仮設診療所内での治療困難なケースでは、救急隊と連携して地元の病院への搬送なども行いました。緊張やストレスによる症状を訴える方も多く、長い距離を歩いて避難してきた人には脱水症状も見られました。ストレスが病気をつくります。長引けば長引くほど、健康状態の悪化が懸念されます。この先も復興を視野に入れた支援が必要です。ウクライナの人々から話を伺う中で、何度も心が潰れるような思いになりました。ウクライナの人々が日常を取り戻すまで、私たちにできること考え続け継続的な活動をしてまいります」
 

AMDA緊急救援ネットワーク登録医師 鈴記 好博

「AMDAが3月7日に開始したハンガリーにおけるウクライナ避難者支援活動の第4次派遣隊員として4月2日〜17日の二週間、参加させていただきました。今後の先も見通せず、避難者も流動的で固定しないなど、これまでの災害支援とは異なる支援環境でしたが、少しでも避難者の方々の体と心の平安に繋がるようにと考え、医療のみにとらわれずに活動してまいりました。
戦争の終焉ができるだけ早く来ることを祈念し、全てのウクライナの方々が、数ヶ月前まで過ごしていたような平穏な生活を自国で取り戻せるまで、事相に応じた支援を我々もしていけたらと思います。そしてこれからのウクライナ復興を担うあの子供たちが強く賢く成長してくれることを願います」
 

現地協力団体の担当者より

カルパッチヤハウス代表医師 タチアナ エルデリイ

2月24日にウクライナで人道危機が起こった後、3月9日にAMDAの日本人医療スタッフが私たちの拠点であるハンガリーのキシュバールダに到着しました。早速連携して常時対応が可能なオンコールの医療チームを結成。スタッフ構成は、ウクライナ、ハンガリー、日本国籍の医師や看護師の10名です。現在もウクライナ領内を含む4つの拠点で支援活動を続けています。尚、この度、皆様からのご支援により、9人乗りのバスを購入しました。避難者や救援物資の輸送に活用しています。ウクライナの製薬工場が閉鎖されたことを受け、AMDAと協力して、ウクライナ領内の小児病院や児童養護施設に物資を提供しています。取り残された母子のために家が建てられれば嬉しいのですが、それにはさらなる資金が必要です。AMDAのこれまでの多大なご支援に感謝するとともに、今後ともご協力いただけますよう宜しくお願いします」
 

MedSpot財団理事 ベルナス ラズロ

「避難者の中には、精神的な問題やトラウマ、疲労から体調を崩す人が少なくありません。こういった人々を支える際、AMDAのスタッフによる献身的なサポートなくしては、我々の取り組みはほとんど意味をなさないといえるでしょう。医師から、看護師、学生ボランティアにいたるまで、時に大きな個人的犠牲を払いながら、彼らがウクライナからハンガリーに到着した人々のために一生懸命働いている様子を、私は何度も目の当たりにしてきました。避難者に話しかけ、絶望的な状況にある人々を親身になってケアする様子は、卓越したプロの姿勢そのものです。私たちはAMDAの素晴らしいスタッフと一緒に活動できることを誇りに思います」