2019年度年次報告 健康増進 医療技術移転事業(2020/7発行) – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

2019年度年次報告 健康増進 医療技術移転事業(2020/7発行)

モンゴル国立医科大学・AMDA内視鏡技術移転プロジェクト


◇実施場所: ウランバートル(Ulaanbaatar)
◇実施時期: 2019年4月29日〜5月2日
◇派遣者: 佐藤 拓史/医師/AMDA理事、難波 妙/調整員/AMDA理事、GPSP支援局長
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: モンゴル国立医科大学、AMDA本部、AMDAInternational参与 ニンジン・ギリヤセド
◇受益者数: 100人(内視鏡医30人、患者70人)

◇受益者の声:
・モンゴル消化器学会会長 ダーヴァドルジュ医師
「佐藤先生にはこれまで2度、モンゴルでの内視鏡技術指導を行っていただきました。今回で3回目になります。緊急内視鏡医療、ESD、大腸カメラなどモンゴルの若い次世代の医師にとって大切な技術を学ぶ機会となりました。長年にわたってご指導いただいている佐藤先生に心よりお礼を申し上げます。また、AMDAにもこれまでのご尽力に感謝いたします。」
・患者さん(Ms.Unenbat 女性50代)
「喉の違和感がずっと続いており、診断もわからず、不安なまま放置していました。内視鏡で細かいところまで検査してくださったので、安心しました。」

◇事業内容:
今年で3回目となるモンゴル国立医科大学での内視鏡技術移転プロジェクトは、モンゴルの医療界全体が大きな転換期を迎えていることを実感させられるものであった。

日本のODAによる80億円をかけて建設された「日本モンゴル教育病院」が6月に開院を迎える。これによってより高水準の医療研修とともに医療サービスが求められる。

今回の内視鏡研修は、4月29日〜5月2日に行われ、まさにこれまでモンゴルの医療を牽引してきた現在の大学病院での最後の研修となった。この期間に、70人の患者さんが上部、下部内視鏡検査を受けた。加えて、福岡徳洲会病院のご協力を得て日本から持ち込んだ大腸カメラのシミュレーターを使って、研修医16人が初めて大腸内視鏡検査を実践する機会となった。今回の研修が終了した翌日、5月3日に内視鏡室は新しい大学病院への移転準備に入った。 今回の研修は、初日より、ダーヴァドルジ教授(Prof.Davaadorj.D、モンゴル消化器学会会長)、オユンツェツェグ教授(Prof.Oyuntsetseg、モンゴル国立医科大学内視鏡室長)も一緒に若手医師達の指導に取り組んだ。研修を受けた医師たちに、内視鏡検査を行った以上、その責任は重大であり早期の病変を見落としてはいけないこと、その上で患者さんにできるだけ負担をかけないバランスのとれた内視鏡施行を目指す必要性を伝えた。隅々まで詳細な観察を行い確実な診断を行うことを心掛けるよう、実際に内視鏡検査技術を見せながら、また内視鏡検査を行う医師に寄り添いながら繰り返し伝えた。今回の症例は、上部では逆流性食道炎、萎縮性胃炎、HP感染、表層性胃炎、胃ポリープ、胃びらんなど、下部では潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎、大腸ポリープ、大腸憩室、痔核など。生検を行ったケースはあったものの悪性の診断に至るものはなかった。

また、今回、ダーヴァドルジ教授の下で学ぶ医学生たちに話をする機会をいただいた。目の前の命に責任を持つこと、そして救える命のために日々努力を重ねて技術を身に付けていく、それが医師の責任であると話し、将来、一緒に国境を超えてお互いに協力し合える医師になってほしいとの期待を伝えた。

*大腸シミュレーターによる実習
モンゴルにはまだ大腸シミュレーターはなく、16人の研修生にとっても初めての経験となった。今年より母子保健センターで始まる小児内視鏡検査を担当する医師や、4000症例を超える大腸カメラ施行経験のある若手医師なども含め研修を受けた医師全員が、このシミュレーターを使って大腸カメラの実技習得を試みた。当初、内視鏡初級者5人を盲腸までスコープを挿入することを目標としていたが、これは十分に果たせたと確信する。また、ある程度すでに経験のある医師たちに対しては、S状結腸捻転などの症例をシミュレーターで想定して、治療できることを目的としたテストを行った。毎日、病院の閉まる時間まで研修は続いた。2018年、岡山県の事業で岡山済生会総合病院における内視鏡研修を受けたバトラフ医師は、日本で学んだ詳細な内視鏡診断と手技を実践していた。日本の内視鏡技術が見事に伝わっていることに大きな喜びを感じた。

 

モンゴル・救命救急医療技術移転事業


◇実施場所: エルデネット、ウランバートル
◇実施時期: 2019年4月27日〜4月28日、5月3日
◇派遣者: 佐藤 拓史/医師/AMDA理事、難波 妙/調整員/AMDA理事、GPSP支援局長
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: モンゴル保健省、ウランバートルエマージェンシーサービス103(以下103)、エルデネット総合病院、公立病院メディパス病院、AMDA本部、AMDAInternational参与 ニンジン・ギリヤセド
◇受益者数: 109人(エルデネット100人、ウランバートルエマージェンシーサービス103 9人)

◇受益者の声:
・オルホン県保健局病院健康サービス課 バトムンフ・ウルトナサン課長
「オルホン県の保健局と103は2016年からERの共同教育プロジェクト実施してきました。今回のセミナーでは、佐藤先生に事故発生時の救命救急対応について、その手技を実際に見せながら教えていただきました。今までこのような参加型の講義はなかったので、我々には体験を積む一つの機会として大切な勉強になりました。また、モンゴルでは32年ぶりの防災訓練が国家レベルで行われたこともあり、日本の国内災害対応についての講義も非常にタイミングのよい研修でした。心よりお礼を申し上げます。」

・ウランバートルエマージェンシーサービス103 プレブダッシュ署長
「佐藤先生には、今回、オルホン県エルデネットでの研修も行っていただきました。エルデネットは、銅鉱山で栄えたモンゴル第二の都市であり、鉱山事故、交通事故など初期外傷対応が多く求められる地域です。今回実技研まで含めたセミナー開催は初めてであり、参加者の満足度が非常に高いセミナーでした。また、103本部で行われたOSCE研修に関してもこれまでに講習に参加した隊員へのより高度な実地訓練として行われ、今後の103の事業拡張に必須のものとなりました。今後も佐藤先生には引き続きご指導を賜りたいと願っております。」

◇事業内容:
2017年より始まったモンゴル・ウランバートルエマージェンシーサービス103(以下103)での救命救急セミナーは今年で3回目となり、2019年は103本部での講習に加え、モンゴル第二の都市オルホン県エルデネット(ウランバートルより375km、車で7時間)でも開催された。

エルデネットでの講習(4月27日、28日)

エルデネット総合病院、公立病院メディパス病院の医師、地域のホームドクター、看護師など2日間で延べ約100人に対して救命救急に関する研修をおこなった。オユンハンド医師(モンゴル厚生省政策局長)、バットスフ氏(エルデネット地域診断センター、センター長)、メディパス病院長のご挨拶の後に始まった講習会は、過去2年間に103で行った研修のダイジェスト版として、外傷治療に必要な超音波診断(FAST)、骨髄内輸液、心嚢穿刺、外科的気道確保などの手技の習得を目指した。重症外傷のうち救命可能な症例に対して、病院に搬送する間の不可欠な救命救急の基本的なアプローチについての研修であり、講義に加え、出血部位の診断に必要なエコ―、外科的気道確保と心嚢穿刺については説明に加え、経験として実践を行った。また、モンゴルでまだ一般的に行われていない骨髄内輸液についても、輸液のルートが取れない場合のある乳幼児を含む様々な患者に対して救命が取得しておくべき手技として実技講習を実施。中国から入手した骨髄針をモンゴル国立医科大学病院からお借りし、骨付きの鶏肉で実際に骨髄針の入る感触を全ての参加者に経験してもらった。

加えて地元関係者からの要望により、日本の災害医療の取り組みについても講義を実施。災害医療体制の構築課程を説明し、これまでのAMDAの支援経験を踏まえながら、災害現場におけるCSCATTT(指揮と調整、安全確保、防御、情報、命令伝達、評価、トリアージ、治療、搬送)の重要性について述べた。最後に、医療チーム派遣者は誰一人として二次災害の犠牲とならないよう、安全確保の必要性について強調した。

ウランバートルエマージェンシーサービス103での救命救急セミナー(5月3日)

今回は過去2年間の救命救急セミナーのまとめとしてOSCE(客観的臨床能力試験)を行うことにした。103の隊員である医師の主任務は、救急車での患者の搬送であり、モンゴル国内の救急車内でできる救命処置は現在のところ限られている。しかしながら、今回のセミナーではOSCEを通して、隊員医師が搬送した患者の救命救急センターにおける治療を知ることにより、救急搬送中に必須の処置についての理解などを深めることを目的とした。参加者はセミナー後、「実際に実習してみると、理解しているつもりでも抜け落ちることがあるから、常日頃からの救命の診察や処置の習得を徹底することが必要である」と述べた。

セミナー終了後、103のプレブダッシュ署長から、これまで3年間の技術支援に対し、確実に隊員の技術が向上していること、加えて市民からの評判も上がっていることなどの評価とともに感謝状をいただいた。同時に、今後の更なる救命救急講習の継続を依頼された。

 

岡山県・国際貢献ローカル・トゥ・ローカル技術移転事業: モンゴル人研修医・内視鏡研修受入


◇実施場所: 岡山済生会総合病院(岡山市北区)
◇実施時期: 2019年8月28日〜11月27日
◇招聘者: アユシ・エンフー・アマル/医師(内視鏡医)/モンゴル国立医科大学
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: 岡山済生会総合病院、岡山県県民生活部国際課、岡山県国際交流協会、AMDA内視鏡プロジェクトリーダー佐藤拓史医師

◇受益者(アマル医師)の声:
「研修期間中、私の指導医である伊藤先生の紹介で11月21日から23日にわたって神戸で行われた第98回日本消化器内視鏡学会総会に出席する機会に恵まれました。21日の午前は胆汁うっ滞性肝疾患の発病や新しい治療方法に関するセッションに、午後はクローン病に関する現状と将来の見通しについてのセッションに参加しました。22日の午前は機能性ディスペプシアにおける最新の理解や治療方法について考察を深め、さらに午後にはバイオメーカーの適用方法、遺伝子検査に関するセッションに参加し、消化器癌に関する診断や治療法についての討論がありました。同日午後はクローン病に関する最新の診断法、胆膵疾患の画像診断法についてのセッションに参加し、夜はハーバード大学医学部大学院のアンソニー教授の特別講義「UpdateonTreatmentOptionsforChronicConstipation」を拝聴することができました。この3か月間の内視鏡トレーニング研修でお世話になった岡山県庁、岡山県国際交流協会、AMDA、岡山済生会総合病院、モンゴル国立医科大学への感謝とともに、特にお世話になった岡山済生会総合病院病院長の山本先生、同病院内科医長の伊藤先生、AMDA内視鏡プロジェクトリーダーの佐藤教授、岡山県県民生活部国際課の伊原様はじめ国際課の皆様、岡山県国際交流協会の小田様、そしてAMDA菅波理事長、難波様には重ねてお礼申し上げます。」

◇事業内容:
岡山済生会総合病院では最先端の内視鏡検査が導入されており、日々、上部消化管内視鏡検査、下部消化管内視鏡検査をはじめ、様々な症例を多数見学することが可能。基本となる日本の上部消化管スクリーニング検査システムは、モンゴルが基準としているロシアの診断方法とは全く異なっており、特に「胃炎の京都分類」は新しい診断基準。胃がんの発見が遅れることの多いモンゴルではこの「胃炎の京都分類」を診断基準としていく必要性がある。モンゴルの内視鏡学会などでの情報共有を進めていく。また系統的なスクリーニング検査システムの導入も必須。病変を正確に判断できる病理医の知識と技術の向上も課題として認識できた。その他多くの内視鏡技術を実践とともに学ぶ機会を得た。

 

ルワンダ・学校保健/学校健診


◇実施場所: キガリ(Kigali)州
◇実施期間: 2019年9月15日〜9月23日
◇派遣者: 橋本 千明/看護師/AMDA職員
◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: マリールイズ・カンベンガ、NPO法人ルワンダの教育を考える会、長崎大学(大学熱帯医学研究所留学中 アキンティジェ・シンバ・カリオペ医師)、岡山大学(同大学医歯薬総合研究科疫学・衛生学 教授 頼藤 貴志医師)など10人
◇受益者: 健診受診者:1,323人、シンポジウム出席者:40人

◇参加者の声:
「この3年で子どもたちの授業への集中度が目に見えて変わったことを実感している」(小学校校長)
「どうすれば多数の子どもたちの健診を効率よく実施できるのか」「疾病を早期発見したその後をどのようにすればよいか」(シンポジウム参加者からの質問)

◇事業内容:
AMDAのルワンダでの活動は1994年の大虐殺後のルワンダ難民に対する緊急救援が最初で、94年当時通訳としてAMDAチームに参加したルワンダ人のマリールイズ氏と現在まで協力関係が続いている。2015年ルイズ氏が設立した「NPO法人ルワンダの教育を考える会」の要請で、現在は復興、発展していっているが、「健診」という考え方がないルワンダにおいて、学校健診の概念を導入することになった。その第一歩として2015年に岡山県の国際貢献ローカル・トゥ・ローカル技術移転事業によりルワンダ人医師を岡山へ招へいし、学校保健の知識・技術を伝える研修を実施した。また、2016年から2019年までルワンダの学校において学校健診を実施するパイロット事業を実施している。ルワンダの保健大臣や教育大臣、医療関係者とも面会しながら事業成果を報告しており、これまでにのべ3,000人の児童を診察した。

2019年度は9~10月にかけ、ルワンダ人医師と看護師、日本から訪れたチームで段階的に計4校1,323人に健診を行った。また、学校保健に関する第1回シンポジウムを開催。教育省職員、現地医療職、学校関係者を含む約40人の参加があった。今後はこれまで実施してきたパイロット事業より、学校健診制度の持続可能性の検証とその後の小児疾病フォローアップ体制拡充、学校健診の全国への展開、健診情報の電子化等を検討していく。