ネパール ダーディン郡における災害後のヘルスプロモーション・プロジェクト(2019/7発行ジャーナル夏号) – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

ネパール ダーディン郡における災害後のヘルスプロモーション・プロジェクト(2019/7発行ジャーナル夏号)

東京大学大学院国際地域保健学教室 神馬征峰

 


プロジェクト開始時の情報シェアリング会議の様子
(右 神馬征峰教授)

2015 年4 月25 日に発生した大地震とその余震によってネパールの人々の生活は打撃を受けました。全人口の20%が重度、17%が中程度の被害を被り、全75郡中31郡、その内14郡に深刻な被害が及びました。死者は約9,000人、負傷者は約18,000人に上りました。

本事業の対象となったダーディン郡は最も被害を受けた14郡の一つです。推定733人の死者と、多くの負傷者が出ました。医療施設や保健サービスも被害を受け、53医療施設の内、被害を免れたのは7施設だけでした。学校や教育セクターの被害は7万人の生徒に及びました。こうして公立セクターが被害を受けたため、被災者は公的支援以外の方法で健康を守る必要がありました。

そこで、ネパールの現地NGOであるグリーン・タラ・ネパール (以下GTN) は、同郡の被害を把握するために初動迅速アセスメントを行いました。その結果、まずは、緊急の基本的サービス (食料、避難所、水や衛生) の他に、心理社会的支援や基本的教育を優先事項として取り上げることにしました。特に思春期の女性や妊産婦は支援を必要としていました。

 


GTNのヘルスプロモーターによる
母乳推進教育活動の様子

限られた災害支援を続ける中、GTN は、特定非営利活動法人アムダ (以下AMDA) 、日本医師会の資金援助を受け、東京大学チームと連携して、同年、災害後ヘルスプロモーション・プロジェクト (以下PDHP プロジェクト) の実施を決定し、ダーディン郡で活動を開始しました。

◆目標と介入策

本プロジェクトは女性と思春期の女子のリプロダクティブ・ヘルス(新生児を含む)や家族計画サービスの改善を目標としました。

◆対象地域と対象者

対象地域は地震の影響を大きく受けた7村(VDC) の中でも社会的地位が低い、もしくは周縁化されたコミュニティ、対象者は再生産年齢の女性と学生です。

◆プロジェクト期間

2015年7月から2019年1月で、準備期間を経て2016年1月よりコミュニティレベルでの介入を開始しました。

【まとめと提言】

震災後、ネパールを支援する海外の開発機関のほとんどはインフラ整備やリハビリ支援を優先し、女性や子どもへの基本的なケアや支援は顧みられなくなっていました。とりわけ、母子保健分野のヘルスプロモーションは見過ごされていました。その点、ダーディン郡でのプロジェクトはユニークであり、人々のニーズを満たす役割を果たしました。

プロジェクト後に活動評価を行った結果、精神保健指標は介入前後で変化は見られず、十代の結婚や妊娠は目標とは反対に増えていました。しかしながら、介入後、その他の目標についてはそのほとんどを達成することができました。とりわけ、妊娠、出産、産後の適切なケアを受けるための項目は、顕著に改善していました。住民参加によって得られたこれらの活動成果は今後も維持できる可能性が高いです。