ハイチ地震被災者に対する緊急医療支援活動 朴 範子医師(2010/3発行ジャーナル3月春号掲載) – AMDA(アムダ)
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ハイチ地震被災者に対する緊急医療支援活動 朴 範子医師(2010/3発行ジャーナル3月春号掲載)

ハイチ地震被災者に対する緊急医療支援活動−ドミニカ側国境地域ヒマニにて

岡山大学病院救急科医師朴 範子
 (派遣期間:2010年1月20日〜27日)

 

 AMDAと岡山大学との連携協定に基づき、岡山大学病院救急科に、ハイチ緊急医療支援活動への医師派遣要請がAMDA本部からありました。これに応える形で急遽赴くことになりました。今回の地震は復興途上にあるハイチの首都に壊滅的な打撃を与えたもので、当初は被害の大きさもわからないという状況でした。派遣要請のあった1月18日には、AMDA多国語医師団の第1陣はすでにハイチ国内のサンマルクで医療活動を展開していました。また一方、隣国ドミニカ共和国との国境地帯に避難してきたハイチ人被災者が多数おられるという情報があり、菅波代表とともに、ドミニカ側の国境地帯における地震被災者への医療ニーズ調査を目的として、AMDA多国語医師団の第2陣として現地に赴きました。

 1月20日に関西空港を出発して現地時間の21日早朝ドミニカの首都サントドミンゴに到着し、鈴木調整員と合流しました。21日と22日は菅波代表、鈴木調整員とともに現地の日本人移民の方や日本大使館、JICAの方々から情報収集しました。ハイチ首都ポルトープランスは医療ニーズも大きかったのですが、治安の悪化が強く懸念されましたため、ドミニカ共和国側の国境の町ヒマニで医療活動をすることに決まりました。

 1月23日ヒマニに入り、サンマルクから戻ってきた第1陣と国境で合流し、ヒマニ公立病院に赴きました。ヒマニとサントドミンゴの間、ヒマニと国境の間には、多くの検問所がありました。事前に多数の国際機関やNGOがヒマニを拠点として支援活動を展開していると情報を得ていたとおり、物資を積んだ超大型トラックが通りに列をなして往来し、上空にはヘリコプターが頻繁に行き来するという状況でした。

 ヒマニ公立病院の救急外来入口には、患者さんを乗せたトラックや乗用車が頻繁に到着していました。搬送されてくる方の多くが四肢の骨折を伴う外傷でした。院内にはアメリカ人医師やドミニカ人医師が多数いて診療にあたっていました。

 1月24日には救急外来でギプスの巻き替えなどの処置を手伝いました。患者さんの中には、ヒマニの他の病院で処置を受けた後に紹介されてきた方もおられました。救急外来での処置の合間に病棟内を見てまわる機会がありました。入院患者さんの多くは外傷の患者さんで、小児の病室には下肢の切断後で療養中の患児も数名いました。なかなか現実を受け入れられない患児もいるとのことでした。同行していた松井医師が院内のドミニカ人医師から間いた話によると、ヒマニ公立病院には手術室が3室あり、23日までは1日15件の手術を行っていたようですが、24日の午前中の段階では3例の手術が行われたとのことでした。また、24日の時点では病棟は半分くらい空いているようでした。他の病院に創処置の手伝いに行った第1陣のカナダ支部ドッジ看護師によると、その病院でも診療体制はよく整っており、患者さんの出入りも落ち着いてきているようだったと開きました。

 24日は、23日に比べると、通りを行きかう外国人の集団や大型トラックの数、救急外来に搬入される患者さんの数も滅っているように思われました。この日は前日に院内に多数いたアメリカ人医師の姿はほとんどありませんでした。後から被災者の外傷に対しての緊急・準緊急手術のニーズは全体に減ってきていると聞きました。今後は術後のケアやリハビリテーション、精神的ケアなどのサポートが必要になってくると思われましたが、サンマルクで医療活動をしていた第1陣のメンバーから、整形外科手術が必要な患者さんの数が病院の診療能力に対して多すぎるため、処置が遅れて状態が悪くなった患者さんが多数おられると間きました。緊急・準緊急手術の必要な患者さんの救は減ってきているとはいえ、今後も長期にわたる創の処置やリハビリテーション、精神的なサポートが必要な方が多くおられ、被災後の時間の経過とともに必要な医療も変化していくと思われました。また、国際機関の発表によると、幸い24日の段階では懸念される伝染性疾患の流行はまだ見られないものの、各地でモニタリングを開始するとのことでした。ハイチに対しては、長きにわたって医療や生活のサポートが必要であると感じました。身体的にも社会的にも、治療は施されてもなお多くの困難があります。被災した方々の一日も早い回復を願ってやみません。

 最後に、勤務を肩代わりして下さり、今回の緊急医療支援活動に快く送り出してくださった岡山大学病院救急科の皆さんに心から感謝いたします。

AMDA多国籍医師団参加人数:医師12人・看護師6人・調整員4人 計22人 2月9日時点

各国AMDA 医師 看護師 調整員
日本(岡山本部)

4人
●渡久地 宏文
 (沖縄セントラル病院所属)
 派遣期間:1月14日〜29日
●菅波 茂
 (AMDA本部)
 派遣期間:1月20日〜27日
●朴 範子
 (岡山大学病院所属)
 派遣期間:1月20日〜27日
●松井 治暁
 (AMDA本部)
 派遣期間:1月22日〜31日

 

3人
●鈴木 梓
 (AMDA社会開発機構所属)
 派遣期間:1月14日〜29日
●ニティアン・ヴィーラバグ
 (AMDA本部)
 派遣期間:1月14日〜2月9日
●川村 剛太
 (AMDA本部)
 派遣期間:1月26日〜

カナダ   4人  
コロンビア 3人
 (外科・麻酔科・整形外科)
2人  
ペルー     1人
ネパール  2人(外科・整形外科)    
ボリビア  3人
 (外科・麻酔科・整形外科)