ザンビア・カウンターパート研修報告
AMDA海外事業本部 田中 一弘 |
はじめに 「国際協力」という言葉を聞くと、日本から医師などの専門家が開発途上国へ派遣され、現地で技術を移転する、あるいは現地の人材を育てるといったイメー ジを持たれる方も少なくないと思います。もちろん、そのイメージは正しいのですが、それが全てではありません。開発途上国より人材を招へいし、日本国内で 研修を行うという形があります。これは研修員受入事業と呼ばれ、将来その国の様々な分野の発展に寄与するであろう人材を招き、同分野の日本の経験・技術を 習得し、それを自国で活用してもらうことを目的としています。 |
さて、「日本から学ぶ」ことの意味は何でしょうか。日本もかつては、現在の途上国とほとんど変わらない状況でした。例えば、保健分野の発展状況を示す指標 として乳幼児死亡率というものがありますが、日本のちょうど60年ほど前の数値が、現在のアフリカ・ザンビア国の数値(92 / 1,000出生件数:つまり100人中9人が亡くなる計算)とほぼ同じなのです。日本は、この60年間で、その数字を3 / 1,000まで急速に下げることに成功しました。こうした日本の経験そして現在の技術・システムを習得することは、開発途上国が発展を目指す上での一つの 成功事例を学ぶことであり、それを各国でどう活かすかを考えられる機会となるわけです。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
背景 この研修は、独立行政法人国際協力機構(JICA)のザンビア国ルサカ市プライマリーヘルスケアフェーズ2プロジェクトのカウンターパート研修として位 置付けられています。同プロジェクトは、ザンビア国首都ルサカ市の貧困層をターゲットとして、特に乳幼児の健康改善を中心としたプライマリーヘルスケアの 向上を目指すもので、AMDAもプロジェクトの実施に深く関わっています。 |
このプロジェクトのカウンターパート(相手国協力機関)は、ザンビアの保健行政機関であり、同機関の能力形成(キャパシティービルディング)が、プライマ リーヘルスケアの向上に不可欠となります。そして、既にお話しましたように、これには現地での活動だけでなく、日本での研修も重要となるわけです。 AMDAはこれまで継続してザンビア保健行政に携わる人材の受入をJICAより受託してきましたが、本年度も9月20日から10月2日まで岡山において研修を行うこととなりました。 |
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研修員 本年度研修に参加したのは、ルサカ市のヘルスセンター職員であるドナルド・ムクンブタ(Donald Mukumbuta)氏とジョンボ・ピーター・コンドゥエ(Jombo Peter Khondowe)氏の2名です。彼らは、それぞれ同市のカニャマ地区、ジョージ地区を管轄する各ヘルスセンターに勤めるクリニカル・オフィサーです。 クリニカル・オフィサーとは、高校卒業後、3年間の専門教育を受けたのち、国家試験に合格した医療従事者であり、各ヘルスセンターに配属され、主に外来 患者を担当し、必要に応じて、ザンビア大学付属教育病院への患者紹介なども行います。3名から5名のクリニカル・オフィサーが1つのヘルスセンターに配属 され、それぞれの専門性で産科・婦人科、小児科、内科等の担当外来を受け持っています。他方、地域保健における役割としては、コミ ュニティーでのアウトリーチ・サービス(予防接種や体重・身長チェック)のモニタリングと監督・指導なども行います。つまり、直接的に患者や地域の人々と関わっている政府の医療従事者というわけです。 |
栄養教室 |
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研修目的 本研修のタイトルは「地域保健サービス(ヘルスセンター)」であり、研修員2名が岡山の地域保健の現場から知識と技術を習得し、それを彼らのヘルスセン ターの業務の中で活用し、地域保健サービスを向上させることが、研修の目的です。そして、特に今回の研修では、子どもの健康に焦点を当てた内容を組みまし た。 |
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研修の成果
地域保健サービス |
赤ちゃんすこやか相談 |
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1歳6ヶ月児童健康診査 |
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学校給食 |
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学校保健 研修員は、岡山市立馬屋下小学校で、日本の学校保健の現場を見学することができました。運動会では、心身の健全な発達を促すイベントをいかに実施し、さ らにどうやって両親・家族・地域の人々の参加を促進しているかが特に印象的だったようです。また、学校の養護教諭、栄養士の方々から学校保健や給食につい て講義いただき、実際に給食にも参加させていただきました。 |
さ らに、給食の配膳などを児童が行い、後片付けや掃除も児童が一斉に手際よく行っていることも見ることができました。一方、研修員からは、ザンビアの国や学 校の状況について紹介し、児童の皆さんは、ザンビアで多くの子どもたちが学校に行けない現状や給食の制度が無いことなどを興味深く聞いている様子でした。 少し英語での会話を楽しむこともできました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
平和教育 本研修では、広島平和記念公園への研修旅行を実施しました。これは、これまでの研修員受入でも実施しており、評価の高い研修内容の一つでもあります。日 本にも、過去に悲惨な出来事があり、そして、そこから目覚しい復興を遂げたこと、研修員にとって非常に印象深いものになったようです。それは、研修員が報 告会の時に、原爆投下の時間までも正確に記憶していたことや、研修のフィードバックで是非今後の研修でも続けて欲しいと述べていたことからも感じられまし た。 |
広島平和公園(左:コンドゥエ氏 右:ムクンブタ氏) |
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広報活動 本研修は、日本の政府開発援助(ODA)の一環として行われています。日本での研修がどのように実施され、日本が開発途上国の発展にどのように活かせるのか、より多くの方々に知っていただき、理解を深めていただくことは、とても重要です。 本研修では、10月1日のおかやま国際貢献月間オープニングイベントにおいて、研修報告会を行いました。研修の映像を利用しながら、岡山の研修で何を学 びそれをどうザンビアで活かすかについて、研修員から報告がありました。これは、岡山における「岡山発の国際貢献」を見ていただける機会にもなったと思い ます。一方、研修員にとっては、同時に岡山が国際貢献を推進していることを学ぶ機会にもなりました。報告会の際には、研修員からザンビアの音楽とダンスを 紹介する一幕もあり、多くの皆さんに楽しんでいただけたと思います。 |
また、RSKのラジオ放送を通じて、ザンビアの国や保健の状況、本研修の目的や成果などを紹介することができました。彼らにとって、日本のラジオ出演は貴重な機会であったと同時に、ザンビアでラジオを保健意識普及のツールとすることのヒントにもなったようです。
最後に |