JICA研修員受入(2006/12発行ジャーナル12月号掲載) – AMDA(アムダ)
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特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

JICA研修員受入(2006/12発行ジャーナル12月号掲載)

ザンビア・カウンターパート研修報告

  AMDA海外事業本部 田中 一弘
はじめに
「国際協力」という言葉を聞くと、日本から医師などの専門家が開発途上国へ派遣され、現地で技術を移転する、あるいは現地の人材を育てるといったイメー ジを持たれる方も少なくないと思います。もちろん、そのイメージは正しいのですが、それが全てではありません。開発途上国より人材を招へいし、日本国内で 研修を行うという形があります。これは研修員受入事業と呼ばれ、将来その国の様々な分野の発展に寄与するであろう人材を招き、同分野の日本の経験・技術を 習得し、それを自国で活用してもらうことを目的としています。

  さて、「日本から学ぶ」ことの意味は何でしょうか。日本もかつては、現在の途上国とほとんど変わらない状況でした。例えば、保健分野の発展状況を示す指標 として乳幼児死亡率というものがありますが、日本のちょうど60年ほど前の数値が、現在のアフリカ・ザンビア国の数値(92 / 1,000出生件数:つまり100人中9人が亡くなる計算)とほぼ同じなのです。日本は、この60年間で、その数字を3 / 1,000まで急速に下げることに成功しました。こうした日本の経験そして現在の技術・システムを習得することは、開発途上国が発展を目指す上での一つの 成功事例を学ぶことであり、それを各国でどう活かすかを考えられる機会となるわけです。
背景
この研修は、独立行政法人国際協力機構(JICA)のザンビア国ルサカ市プライマリーヘルスケアフェーズ2プロジェクトのカウンターパート研修として位 置付けられています。同プロジェクトは、ザンビア国首都ルサカ市の貧困層をターゲットとして、特に乳幼児の健康改善を中心としたプライマリーヘルスケアの 向上を目指すもので、AMDAもプロジェクトの実施に深く関わっています。
  このプロジェクトのカウンターパート(相手国協力機関)は、ザンビアの保健行政機関であり、同機関の能力形成(キャパシティービルディング)が、プライマ リーヘルスケアの向上に不可欠となります。そして、既にお話しましたように、これには現地での活動だけでなく、日本での研修も重要となるわけです。
AMDAはこれまで継続してザンビア保健行政に携わる人材の受入をJICAより受託してきましたが、本年度も9月20日から10月2日まで岡山において研修を行うこととなりました。
研修員
本年度研修に参加したのは、ルサカ市のヘルスセンター職員であるドナルド・ムクンブタ(Donald Mukumbuta)氏とジョンボ・ピーター・コンドゥエ(Jombo Peter Khondowe)氏の2名です。彼らは、それぞれ同市のカニャマ地区、ジョージ地区を管轄する各ヘルスセンターに勤めるクリニカル・オフィサーです。
クリニカル・オフィサーとは、高校卒業後、3年間の専門教育を受けたのち、国家試験に合格した医療従事者であり、各ヘルスセンターに配属され、主に外来 患者を担当し、必要に応じて、ザンビア大学付属教育病院への患者紹介なども行います。3名から5名のクリニカル・オフィサーが1つのヘルスセンターに配属 され、それぞれの専門性で産科・婦人科、小児科、内科等の担当外来を受け持っています。他方、地域保健における役割としては、コミ
ュニティーでのアウトリーチ・サービス(予防接種や体重・身長チェック)のモニタリングと監督・指導なども行います。つまり、直接的に患者や地域の人々と関わっている政府の医療従事者というわけです。

栄養教室
研修目的
本研修のタイトルは「地域保健サービス(ヘルスセンター)」であり、研修員2名が岡山の地域保健の現場から知識と技術を習得し、それを彼らのヘルスセン ターの業務の中で活用し、地域保健サービスを向上させることが、研修の目的です。そして、特に今回の研修では、子どもの健康に焦点を当てた内容を組みまし た。
月 日 訪問先 研修テーマ・内容
9月20日 AMDA本部 研修オリエンテーション
    日本の保健医療の経験
  21日 東保健センター 栄養教室
  西大寺保健センター 健康市民おかやま21実行委員会
  22日 山南公民館 山南子育てネットワーク
  御休コミュニティハウス 愛育委員会
  23日 岡山市立馬屋下小学校 運動会(学校保健)
  24日 神辺文化会館 かんなべ福祉まつり
  25日 岡山ドーム 中央ブロックおやこクラブネットワーク交流会
  RSK ラジオ収録(広報活動)
  27日 西大寺保健センター 三歳児健康診査
  28日 岡南公民館 赤ちゃんすこやか相談
  西大寺保健センター 1歳6か月児健康診査
  29日 岡山市立馬屋下小学校 学校保健・学校給食
  30日 広島平和記念公園 平和教育
10月1日 イオン倉敷 おかやま国際貢献月間オープニングイベント
   2日 AMDA本部 研修報告会
   3日 JICA東京 研修評価会
研修の成果

地域保健サービス
この約2週間の研修で、研修員は岡山の地域保健サービスのシステムを学びました。そこで特に重要だったのは、保健行政と地域住民との協働の現場を見るこ とができたことです。地域保健サービスには地域住民の協力あるいは自発的な健康づくりの意識が不可欠です。保健行政(保健所・保健センター)は、その地域 住民の活動を促進する役割を担っています。その協働がとても効果的に機能している現場を多くの訪問先で見ることができました。特に、岡山の地域保健活動に 対する意識の高さには、研修員にとって学ぶところも大変多くありました。
東保健センターの栄養教室では、同センターの栄養士が中心となり、将来の栄養委員を育成していました。また、西大寺保健センターにおける健康市民おかや ま21実行委員会、山南公民館の山南子育てネットワーク、御休地区の愛育委員会において、同保健センターと愛育委員、おやこクラブといった地域の方々、さ らには医師会、歯科医師会などが協力して様々な地域保健活動を実施していることを学ぶことができました。中央ブロックおやこクラブネットワーク交流会で は、母親がイニシアチブを取っておやこクラブを運営し、それを中央保健センターが協力・サポートしていました。岡南公民館の赤ちゃんすこやか相談では、愛 育委員が赤ちゃんの身体測定などを行い、南保健センターの保健師が個別の健診・子育て相談を行っているという現場も見られました。
西大寺保健センターにおける1歳6か月児、3歳児健診では、各年齢層の子どもの発達・発育、健康状態を細かくチェックし、さらに子育て・栄養・心理相談 が個別に行われるなど、とても系統的に健診が行われていました。さらに、後述の学校保健も含め、一貫した子どもの健康管理が行われていることに、研修員は 非常に感銘を受けていました。
また、かんなべ福祉まつりでは、社会福祉協議会、福祉の各関係団体による福祉活動、地域住民からの理解、また、地域と協働で実施する福祉イベントについて学ぶことができました。


赤ちゃんすこやか相談

1歳6ヶ月児童健康診査

学校給食
学校保健
研修員は、岡山市立馬屋下小学校で、日本の学校保健の現場を見学することができました。運動会では、心身の健全な発達を促すイベントをいかに実施し、さ らにどうやって両親・家族・地域の人々の参加を促進しているかが特に印象的だったようです。また、学校の養護教諭、栄養士の方々から学校保健や給食につい て講義いただき、実際に給食にも参加させていただきました。
さ らに、給食の配膳などを児童が行い、後片付けや掃除も児童が一斉に手際よく行っていることも見ることができました。一方、研修員からは、ザンビアの国や学 校の状況について紹介し、児童の皆さんは、ザンビアで多くの子どもたちが学校に行けない現状や給食の制度が無いことなどを興味深く聞いている様子でした。 少し英語での会話を楽しむこともできました。
平和教育
本研修では、広島平和記念公園への研修旅行を実施しました。これは、これまでの研修員受入でも実施しており、評価の高い研修内容の一つでもあります。日 本にも、過去に悲惨な出来事があり、そして、そこから目覚しい復興を遂げたこと、研修員にとって非常に印象深いものになったようです。それは、研修員が報 告会の時に、原爆投下の時間までも正確に記憶していたことや、研修のフィードバックで是非今後の研修でも続けて欲しいと述べていたことからも感じられまし た。

広島平和公園(左:コンドゥエ氏 右:ムクンブタ氏
広報活動
本研修は、日本の政府開発援助(ODA)の一環として行われています。日本での研修がどのように実施され、日本が開発途上国の発展にどのように活かせるのか、より多くの方々に知っていただき、理解を深めていただくことは、とても重要です。
本研修では、10月1日のおかやま国際貢献月間オープニングイベントにおいて、研修報告会を行いました。研修の映像を利用しながら、岡山の研修で何を学 びそれをどうザンビアで活かすかについて、研修員から報告がありました。これは、岡山における「岡山発の国際貢献」を見ていただける機会にもなったと思い ます。一方、研修員にとっては、同時に岡山が国際貢献を推進していることを学ぶ機会にもなりました。報告会の際には、研修員からザンビアの音楽とダンスを 紹介する一幕もあり、多くの皆さんに楽しんでいただけたと思います。
 また、RSKのラジオ放送を通じて、ザンビアの国や保健の状況、本研修の目的や成果などを紹介することができました。彼らにとって、日本のラジオ出演は貴重な機会であったと同時に、ザンビアでラジオを保健意識普及のツールとすることのヒントにもなったようです。

最後に
こうして研修員は、岡山から多くのもの学んだわけですが、本当の研修の効果が分かるのはこれからです。JICA東京で行われた研修評価会では、研修員か ら、積極的に地域保健活動を推進する役割を担っていきたいという言葉を聞くことができました。ザンビアの地域保健サービスの向上に向けた彼らの活躍に期待 したいと思います。
最後になりましたが、本研修は、訪問先の関係者皆様の多大なご協力により実施することができました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。