御津医師会の保健文化大賞受賞を祝して – AMDA(アムダ)
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国連経済社会理事会総合協議資格NGO

御津医師会の保健文化大賞受賞を祝して


御津医師会が第69回保健文化大賞を受賞。厚生労働大臣賞、第一生命賞、朝日新聞とNHK厚生事業団からの4賞の組み合わせである。加えて、皇居にて天皇皇后両陛下御拝謁の栄誉。受賞理由は「夜間診療輪番制、病診連携、限界集落の医療対応、在宅医療連携推進、有事の場合の医師派遣等から成る地域医療を守る相互扶助プログラムを作成、実施した。また、行政、歯科医師会、薬剤師会等の団体、学校及び病院等との連携強化を図り、地域医療の推進に貢献している」である。元御津医師会長として10年間の医師会の歩みを心から祝したい。

日本の平均寿命は世界一であるが、それを支える医療には日本的特徴がある。日本は法治国家であり、ガバナンスは法に基づく。平均寿命に寄与した主たる法律は健康保険法にもとづく国民皆保険法、保健所法そして母子保健法などである。これらの法の精神は「相互扶助」である。これらの法律にもとづいて政府と民間が協力して国民の健康増進に関与している。具体的には施設整備、人材育成と配置、医療技術と医療関連製品開発、財政対応などである。

国民皆保険法が成功した理由を下記に列記してみたい。
1)国保診療所の僻地を含めた全国展開により国民保険加入者がいつでも、どこでも。だれでも、適切な医療を受けることができる機会の保証。(社会主義国は同様)
2)汚職のない官僚行政に対する信頼。(アジアでは日本とシンガポールが著明)
3)義務教育の普及による高い識字率が健康・衛生教育に寄与。(世界でも特異な厚生労働省と文部科学省の両者が関与する学校保健制度)
4)日本医師会から地区医師会における公共医療政策への関与。(世界でも日本だけ)
5)地域各種住民団体による健康・衛生教育の啓蒙普及活動。(世界でも日本だけ)

特に日本医師会と地区医師会が担っている公共医療政策への関与は日本の文化の理解なしには説明できない。ちなみに、公私の公には公益と公共がある。前者は「有ればみんなの役に立つ」、後者は「無ければみんなが困る」。の意味である。英語では公益も公共もPublic Interestで表現する。これは公益のみの意味だと思う。世界中の医師会の地域社会における役割を見ても、日本の医師会のように、縦割り行政の最終受け皿としての地区医師会の存在は日本しかない。具体的には文部科学省の学校保健、厚生労働省の地域保健と産業保健、総務省の警察支援、休日当番制、等々である。現在では介護保険法の地域社会における具現化と推進の司令塔の役割も果たしている。地区医師会が公共医療政策を担っている精神は「地域社会における相互扶助」である。地区医師会がその役割を放棄した時に、誰が代わりうるのか。その時の経費はどのくらいなのか。行政にとっては考えたくもない悪夢である。

現時点における地区医師会の構成メンバーの主力は開業医である。開業医は24時間、365日、死ぬまで地域社会の一員である。場合によっては2代、3代と続く。60年、90年の地域社会との家族ぐるみの接点がある。地域社会から注目されている。地域社会における倫理道徳の範も求められる。それに加えて倒産の可能性が常にある。これらのことが開業医と勤務医の決定的な違いである。開業医主導か勤務医主導のいずれでも、地区医師会による「地域社会における相互扶助」による公共医療政策への関与を後退させないことが肝要である。

地域医療に不可欠な地区医師会として御津医師会を世界へ発信することを考えたい。