「日本国民に心から『ありがとう』と伝えてほしい。」
これは、2010年、モンゴルで白内障手術が終わったあとの患者さんの言葉です。
彼は、1939年の日本とソビエト連邦の国境紛争最大の戦闘であるノモンハン事件に従軍していました。
ノモンハン事件はモンゴルではハルハ河戦争と言われ、日本、モンゴル、ソ連に多くの犠牲を強いました。
白内障手術後の病室で、眼帯をした患者さんたちの人生がどれほど苛酷だったかを想像していたとき、一人の患者さんが私の手をとって、この言葉を言いました。
「日本国民に心から『ありがとう』とつたえてほしい」と。
敵国だったのに?と、私は一瞬驚き、そして涙を禁じ得ませんでした。
手術をしたモンゴルの眼科医も一緒に泣きました。
そして、それから1年後、この患者さんたちと第1回おかやま国際塾生8人とモンゴルの医学生で、平和について語る時間を持ちました。
この92才の患者さんと学生たちの年の差は約70才。
世代の違いの中、流れてきたお互いの時間が軋む中、学生たちは、聞きました。
「敵をどうして恨むようになったのか」と。
学生たちに向けて彼は、「最初は、自分たちは何が何かわからないままに戦争に駆り出された。
目の前で大切な人が殺されていく。
そうすると次第に今までにはなかった『敵意』という感情が心を支配してくる。」と。
そして最後に、「何が正しいのかを見極められるように賢くあれ。」と強く諭しました。
ゆっくりゆっくり絞り出すような言葉から、戦争犠牲者の魂に花を手向けるのと同時に、暗い歴史に心を手向けることを教えてくれました。
学生たちは抱き合って感謝を伝えました。
そのあと、学生たちは、チベット仏教総本山、ガンダン寺で行われた第4回AMDA魂と医療のプログラム、平和祈願祭に参加しました。
例年の戦没者への慰霊に加え、この年は、東日本大震災の犠牲者の慰霊もガンダン寺の意向によって行われました。
ちなみにガンダン寺の御本尊は、右手に清水、左手に目玉を持っている観音様です。
これが、かつてモンゴルの君主の活眼を国民が願って建立されたものだと私が知ったのは、この時でした。
戦後70年の今年11月、GPSP医療と魂のプログラムがモンゴル、インドネシア、フィリピン、インドなどで行われる予定です。
歴史と平和の大切さを啓示してくれる先達に心からの感謝を伝え、平和を次世代に伝える責任と覚悟をこのプログラムは教えてくれます。
国を超え、世代を超え、言葉を超え、何かを伝えていく事、ここにGPSPへの期待が込められています。
AMDA 理事GPSP支援局長
難波 妙