フィリピン台風22号緊急災害支援 活動報告 – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

フィリピン台風22号緊急災害支援 活動報告

イザベラ州ディナピゲ市保健担当官 医師 レイジーン・カラティケット

カガヤン州被災地の様子

はじめに


2020年11月11日から12日にかけて、台風22号(現地名:ユリシス)がフィリピンのルソン島を直撃しました。暴風と豪雨で多くの人命が失われ、何千もの家屋が倒壊し、またその後発生した洪水で人々の生活が根こそぎ奪われました。現時点において、台風22号は2020年に発生した中でも最悪といえます。

台風がルソン島を通過した後、多くの地域で水害が発生し、大半の商業施設や農業用地が被害を受けました。コロナウイルスの影響により、人の移動が制限されていることから、災害対応における体制基盤は必ずしも強固なものではありませんでした。しかし、そんな状況であっても、今回の災害支援活動は速やかに行われました。

迅速かつ効果的な支援の必要性が叫ばれる中、助けを待つ被災者のために、フィリピン特有の相互扶助の精神“バヤニハン”のもと、多くの志高き人々が団結し支援活動を行いました。
 

水に浸かりながら助けを待つ人々


台風22号が猛威を振るう中、SNSなどのメディア上は、助けを求めるルソン島の市民の様子で溢れ返っていました。特に同島北部のイザベラ州やカガヤン州の住民からは、救済を切望する声が多く聞かれました。これらの地域では、家屋の2階部分まで浸水し、住民は屋根の上などに避難していました。






被災地の負担と喪失をいち早く補うため、カガヤン、イサベラ、キリノ州の保健担当官、市町村の議員、ボランティアなどがグループを結成し、AMDAやWiNDS(フィリピン開発安全女性委員会)の協力を得て、緊急支援活動を行うことになりました。

当初活動を予定した地域は、カガヤン州エンリレ町にあるバトゥ地区(11月28日)(総世帯数320(1,063人))、ならびにイサベラ州トゥマウイニ町にあるバランガイ・フグ・アバホ地区(11月30日)(総世帯数350(1,352人))です。受益対象は合計で700世帯弱を数えます。
 

力を合わせて戦う


コロナウイルスの脅威が迫る中、人々はSNS上や自身のコミュニティーにおいて台風22号の被災者に対して寄付を募りました。

AMHOP(フィリピン市町村保健官協会)イザベラ支部は、AMDAの協力はもとより、複数の団体からサポートを受け、医療支援活動を実施しました。その際、イロカノ語で「相互扶助」を意味する”ビナダンガン”と、カガヤン州とイサベラ州の地名を掛け合わせ団結を意味する“CA-ISAbela”という二つのスローガンを掲げることになりました。

円滑な支援活動を目的に運営委員会が組織され、綿密なスケジュールの立案により、物資配布の調整業務も滞りなく運びました。

 

活動のタイムライン


・2020年11月15日~24日:各方面からの募金募集を開始

・2020年11月19日~22日:活動地の決定に際し、被災した自治体と調整を行う(事前調整のない活動は認められないため)

・2020年11月25日~26日:医療支援活動に向けた救援物資、衛生用品、医薬品などを購入

・2020年11月27日:支援物資の梱包ならびに会計、移動に際して必要な書類の確保、スムーズなチェックポイントの通過に不可欠となるスタッフの健康状態の確認

・2020年11月28日:カガヤン州エンリレ町の住民に対し医療支援活動を実施

・2020年11月30日:イサベラ州トゥマウイニ町の住民に対し医療支援活動を実施


■2020年11月27日

支援物資を梱包する合同チーム


イサベラ州サンマニュエル市ヌエヴァ・エラ地区にある『ヴィラ・メルセデス・リゾート』に集合した一行は、物資の梱包を開始。参加したボランティアの親戚がこのリゾートのオーナーだったため、施設を無料で貸していただきました。

午前11時に始まった作業は夕方6時半に終わり、合計860セットの支援物資を用意しました。支援物資の内容は、米、缶詰(コンビーフ、イワシ)、ビーフン、インスタント麺、バケツ、タオル、毛布、ミネラルウォーター、衛生キット(入浴用の石鹸、洗濯用の固形石鹸、シャンプー、歯磨き粉)、コーヒー、砂糖、トレーナーでした。

作業に従事したのは、医師3名、団体役員1名、市会議員2名、教師4名、そして8名のボランティアでした。このうちボランティアの1人が全員に対し軽食と昼食を用意しました。作業の際には、マスクの着用が義務付けられました。

 

■2020年11月28日


支援物資の準備が終わった翌日、一行は朝5時半に前出のリゾートに集合。6時より物資の輸送に向けた積み込みを開始しました。先日のスタッフに加えて、医師1名、看護師3名、団体役員1名、運転手5名、ボランティア2名が参加しました。

午前6時半、一行はカガヤン州エンリレ町に向けて出発。先述の通り、チェックポイントを通過する上で重要となる必要書類の用意やスタッフの健康状態の確認など、事前準備は万端でした。また移動の際のトラブルを防ぐため、プロジェクト名とスポンサー名を掲げたバナーを車の前方に掲げました。移動そのものは1時間半程度でした。

現地に到着後、一行はまず自治体の庁舎を訪れ、ミゲル・ジュン・デセナJr.町長と医療行政官であるエドガルド・リカルド医師を表敬訪問しました。ここでカガヤン州副知事と地元の高官1名も同席し、被災状況を伺いました。町長の話によれば、22ある地区のうち、16箇所で、7,652世帯(32,659人)が洪水の被害を受けたということです。これは同地域全体の約6割の世帯に相当します。洪水が起きた翌日は、水位は深いところで6メートルにおよび、浅くても3メートルにもなりました。






今回の災害支援活動は、被害が最も大きかったバトゥ地区で行う予定でした。バトゥ地区は洪水発生以来、周辺地域から取り残され、発災後4日してからようやくヘリコプターでのアクセスが可能となりました。陸路が復旧したのは洪水が発生してから6日後のことでした。しかし、当初計画していた活動日の前日、一帯は終日激しい雨に見舞われ、バトゥ地区は再度孤立することになります。その結果、地元保健局の指示により、活動場所が、197世帯(977人)が暮らすマラクル地区に変更になりました。

支援物資の配布は、地区の保健センターの隣にある教会の前で行われました。各世帯の家長が一家を代表して物資を受け取りました。また4名の医師と3名の看護師がマラクル小学校で合計97人に対し、診察を行いました。主に糖尿病、高血圧、気道感染症、軽度の外傷等がみられました。診察の際、医療スタッフも患者も同様に始終マスクを着用しました。

当初の予定では350世帯が対象でしたが、活動地域が変更になったため、実際の受益者は197世帯にとどまりました。そのため、保健局と話し合った結果、余った物資を、カガヤン州エンリレ町の中でも隣接するイザベラ州に最も近いディビソリア地区のシティオ・カナガンで配布することになりました。混乱を避けるため、配布の際には地元警察が同行し、合計100世帯に物資を配布することができました。

同日午後、一行はエンリレ町から30分程度の距離にあるツゲガラオ市に移動。アンナフナン地区の主要な避難所に救援物資を届けることになりました。しかし、豪雨に伴い再び水位が上昇したため、同避難所に身を寄せていた人々は一時的にアンナフナン小学校への移動を余儀なくされました。最終的に210セットの物資を配布するに至りましたが、これを書いている現時点(12月8日)においても、小学校には依然として避難者が残っている状況です。

マラクル地区とディビソリア地区、そして先述のアンナフナン地区の被災者からは、支援者やスポンサーに対し、感謝の声が寄せられました。
 

■2020年11月30日


朝8時に集合した一行は、支援物資の積み込みを終えて、8時半にヌエヴァ・エラ地区を出発。イサベラ州トゥマウイニ町に9時45分に到着した後、10時に庁舎を訪れ、町長婦人を表敬訪問しました。夫人は地元の女性団体の役員を務めているとのことでした。

活動地となったのは、市街地からおよそ15分から20分のところにあるファーメルディ地区です。道路は狭く、洪水の痕跡が残っていました。既に避難者がおり、携帯電話の電波や電気は復旧していました。ファーメルディ地区には約600世帯(約3,000人)が暮らしており、トゥマウイニ町にある46の地区の中でも最も多くの人口を有しています。

トゥマウイニ町で被害が大きかった地区は、フグ・アバホ地区、トゥンギ地区、モルデロ地区、そしてファーメルディ地区でした。ファーメルディ地区と比べると他の3地区は人口が少ない分、かえって支援ボランティアが頻繁に訪れたようです。














ファーメルディ地区の住民は大変規律正しく、統制が取れている印象を受けました。合計360セットの支援物資を自治体担当者に託しましたが、数が足りなかった為、翌日、地区や他のボランティア達から不足分が提供されることになりました。尚、地区の庁舎では医療支援活動を行い、268人を診察しました。主に呼吸器疾患と皮膚感染症が最も多く見られました。私たちが活動を終えて帰路につく際、地元住民による現地語でのお礼の合唱が聞こえてきました。

以上、今回の活動は、AMHOPイサベラ支部のリーダーシップはもとより、AMDAとWiNDS、その他の協力者の支援なくしては在り得ませんでした。

二つの台風が立て続けに被害をもたらした今回の災害でしたが、市民や組織、民間と行政が一丸となって支援活動が実施されました。困難な状況にあっても、このような活動を行うことは、フィリピン国民の粘り強さと相互扶助(バヤニハン)の精神を象徴するものであり、尊敬に値するものであると確信しています。