広安小学校長 田中 元
熊本県 益城町立広安小学校におけるAMDAの活動について
4月14日の前震以降、広安小学校では、AMDAの皆さんによる活躍のおかげで、益城町随一の充実した避難所運営ができた。そして、多くの被災者の皆さんがその活動に対して心から感謝されていた。以下、その功績について、より具体的に述べてみたい。
1 迅速な活動開始と医療体制の整備
難波さんをはじめAMDAの皆さんが広安小学校に到着し、具体的な活動を始められたのは4月14日の前震後すぐであり、この熊本で本震を体験された方もいると聞いている。到着後すぐに応急医療体制が構築され、それがみるみるうちに本格的な医療支援へと移行していった。
本校の保健室を医務室に改造し、そこを拠点としながら様々な医療活動が行われていった。医師や看護師なども次々に増員され、泊まり込み体制の中で24時間の対応が可能になった。このことは、特に被災者の皆さんにとっては、「何かあれば、いつでも看てくれる」という安心感とともに、健康面や生活の不安など何でも相談できたことにより、被災された方々にとって大きな励みになっていた。現に、被災者の方と親しげに時間を忘れて語っておられるスタッフの方の姿を何度も見かけた。そうした中で、被災者の皆さんとの間に、盤石の信頼関係が築かれていった。そのことは本校職員も同じで、先の見通しが何も分からないまま昼夜を問わず、がむしゃらに頑張っていた職員の健康面まで気遣っていただいた。心身共に助けられた本校職員も多かった。健康面以外での会話も頻繁に行われるようになった。
2 医療派遣団体との窓口
避難所運営が本格化してから、様々な公的あるいは私的な医療関係者が避難所を訪れるようになった。役場職員にしても、私たち教職員にしても、それらの方々とどう接していいのか、どこまで支援をお願いしていいのか、さっぱり分からなかった。そんな中で、そのパイプ役として難波さんをはじめ、AMDAのスタッフの皆さんが対応していただき本当に助かった。
何か依頼があると「それについては、まずAMDAさんを通してください」という応答を何度も行ったように思う。その都度、単に何でも受け入れるのではなく、それぞれの支援の組織や内容を的確に見極め、是々非々で判断していただいた。日に何組ものボランティアや支援物資搬入の対応に忙殺されていた私たちにとっては、何よりもありがたかった。
3 避難所の衛生環境整備等へのリーダーシップ
役場職員も学校の教職員も避難所の運営など経験は皆無であった。そんな私たちに加え、難波さんをはじめとするAMDAのスタッフ、震災・学校支援チーム(Earth)の浅堀さんや被災者内の区長さんたち、ボランティアスタッフのリーダーの方々、後には運営の主体となるピースボートの皆さんとのリーダー組織が設立され、毎日朝夕にミーティングが行われるようになった。
AMDAの皆さんにはその会の中で、積極的に避難所の衛生環境等の状況を報告し、施設面での改善やもし感染症が発生した場合の隔離場所の設定、仮設トイレ等の具体的な清掃計画、エコノミー症候群の防止に向けた講話や指導など、幅広い提案そして行動をしてもらった。さらに、必要な物資があれば即座に購入・設置していただいた。特に、5月8日までは水道が復旧しなかったため、衛生面での配慮は特に念入りに行っていただいた。水を必要としない簡易トイレ「ラップポン」の設置など、私たちはその存在すら知らなかった。避難当初は
校舎内が全館土足の状態になってしまったが、徐々に土足禁止の場所を広げていった。これも衛生環境の改善に大きくつながっていった。校内で1件も感染症が発生しなかったのも、
これらの活動のおかげである。
4 おわりに
AMDAの撤退が発表されると、多くの被災者の皆さんは残念がっていた。しかし、これまでの功績に対し心から感謝されていた。撤退にあたっては、医務室を保健室に戻すことや、体育館内に新たな医療拠点を移し、地元の鍼灸師による治療体制を確立するなど、後に残る
被災者のことを第一に考え、最後の最後まで活動されていた。頭が下がる思いでいっぱいだった。また、岡山県総社市と連携しながら、学校に対しても多くの貴重な支援物資等を届けていただいた。学校再開の際も、またこれからの学校運営にとっても、本当に助かっている。大切に使わせていただきたい。
最後に、「これからは地元の医療・福祉スタッフに受け継いでもらわなくてはならない」とのAMDAの皆さんの思いは、まだ150人以上の被災者が体育館や特別活動室に避難している現状においても、着実に広がっている。その根底には、「益城町が好きだからこそ、益城町の人たち自らの力で、いつの日か復興を成し遂げてもらいたい」との(多分難波さんの・・・・)強い思いを感じる。この2ヶ月の生活の中で、AMDAの皆さんからいただいた力そしてその思いは、広安小学校の教育の中で、これから未来を担う子どもたちに伝えていきたいと思っている。
AMDAの皆様にはくれぐれもご自愛いただくとともに、これからも世界各地での様々な支援活動にご尽力いただき、一人でも多くの人たちが笑顔を取り戻す原動力になっていただきたい。