2015年4月25日にネパール中部を襲ったマグニチュード7.8の地震で75郡のうち14の郡が深刻な被害を受けました。カトマンズの東、88?の距離にあるシンドゥパルチョク郡は被害が最も深刻だった郡の一つであり、郡全体の40%の人々が被災し、3532人が犠牲となりました。頻繁に続く余震から地すべりや土砂崩れなどが発生し、道が塞がり、支援が届きにくい地域はたくさんありました。また、家が全壊してしまった人々は狭いテントに大勢で住むことになり、トイレなども整備されず、屋外で排泄するなど環境汚染が懸念されました。その結果、下痢、赤痢など感染症を訴える患者が増加していました。しかしながら、唯一の郡病院は、地震の影響で運営できない状態にあり、被災地から病院を訪れる患者数が圧倒的に増え、それに対応する医療従事者が不足していました。また、地震から生き延びた被災者は余震の恐怖、大地震の痛ましい思い出から心理的な問題に直面しており、ストレスによる体調不良を訴える患者も多くいました。にもかかわらず、シンドゥパルチョク郡病院では精神科医や臨床心理士がいないために、精神疾患を持つ患者の治療も不可能でした。
地震発生後、運営できない状態の郡病院の敷地内に、仮設診療所が開設されましたが、医療従事者の不足が大きな課題となっていました。AMDAは、復興支援活動の一環としてトリブバン大学教育病院(TUTH)にある災害医療支援委員会(ODMC)と連携し、緊急救援医療活動が終了した翌日から、医療チーム(医師、看護師、臨床心理士、レントゲン技師など)を一週間交代で郡病院に派遣し、病院内での医療活動のサポートにあたりました。病院を訪れる多くの患者は風邪、呼吸器疾患 性感染症、骨折、怪我、精神疾病、などの病気を抱えていました。このプロジェクトの目的は、病院を訪れる患者の治療にあたるとともに、臨床心理士が地域の住民や学校関係者を対象に健康教育の実施し、必要な患者さんには心理カウンセリングを提供することです。
このような医療環境が整ってない地域の住民に医療サービスを提供するために、継続して医療従事者を派遣することが求められていましたが、9月20日にネパールが発表した新憲法にインドが反対し、インドから輸入される食料品、医薬品、燃料などの物流が止まってしまいました。ネパールの人々は、自然災害の後に人的な災害にも遭遇してしまいました。食料品も、燃料も不足したために、このプロジェクトも一旦中止を余儀なくされました。2015年の12月中旬にインドとの政治的な関係が緩和され、物流が戻ったために、医療者派遣も昨年の12月18日から再開し、現在継続して医療支援活動を行っています
今も余震が頻繁に発生しているために、精神疾患を抱える患者は増えています。そのほかに、風邪、下痢など感染症を訴える患者も多くなっています。病院の医療スタッフだけではすべての治療に対応できないため、TUTHから医療従事者が再び派遣され患者の治療に携わっています。AMDAのプロジェクトの再開は、とても助かっていると歓迎されています。また、派遣された医療従事者らも、医療環境が整備されていない地域に住んでいる患者に医療サービスを提供できたことはとてもうれしく、AMDAの支援に感謝していると語ってくれました。患者さんからも郡病院で治療受けたことによって医療費の節約と共に時間の節約もできたと、喜びの声が聴かれました。また、精神的な病を抱えていた患者さんは、心理カウンセリングによって元気になり、前向きに考えられるようになったと話をしてくれました。このようなプログラムは、生きる力を強化し、健康生活を促進するプロジェクトとして地域住民からも評価され、無料で早期治療ができるために多くの人が喜んで利用しています。 大地震発生から1年になりますが、AMDAは、シンデゥパルチョク郡病院を今後も継続してサポートする必要があると考えています。
2015年6月2日から2016年1月15日までの派遣医療従事者は延べ157人で、3847人の患者に医療サービスを提供しました。詳しいことは、以下一覧表を参照ください。