ソロモン諸島津波災害復興支援事業 – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

ソロモン諸島津波災害復興支援事業

復旧状況・ニーズ調査 開始

図1 AMDAがプロジェクトを実施した保健医療施設(ホニアラは除く)

AMDAは、2007年4月に発生した地震・津波によって大きな被害を受けたソロモン諸島で、復興支援プロジェクトを開始することを決定した。
最大の被災地とされるウエスタン州の保健局担当者などと復興計画について協議し、計画を策定する目的で、調整員を下記の通り派遣する。


出発直前の館野和之調整員(右)と
谷口敬一郎本部緊急救援担当(左)
7月4日JR岡山駅

1.派遣者
館野 和之(たての かずゆき)
AMDA調整員 岡山市在住(静岡県出身)
AMDAでの主な緊急救援活動:
2006年5〜6月ジャワ島中部地震緊急救援活動
7月ジャワ島津波緊急医療支援活動
12月フィリピン台風21号緊急医療支援活動

2.派遣日
7月4日
12:42岡山駅発 のぞみ20号・特急はるか31号 新大阪経由
14:32関西空港着
17:10関西空港発 KE726・KE813 ソウル・ブリスベン経由
7月5日
23:59(日本時間 6日 01:59)ホニアラ到着予定
*派遣期間:2週間を予定

3.派遣先
ソロモン諸島首都ホニアラウエスタン州
(州都のあるギゾ島を中心に広がるニュー・ジョージア諸島と北西に位置するショートランド諸島の2つのグループで構成される)

4.AMDAソロモン諸島沖地震・津波緊急支援活動
2007年4月2日、首都ホニアラ北西345kmで、マグニチュード8.1の地震が発生し、その後、大規模な津波が押し寄せた。国家災害委員会は、5月17日現在死者52人と発表しているが、戸籍制度がないため、正確な把握は困難とされている。避難者数は、9,000〜10,000人(内約5,000人が18歳以下)で、その多くは丘の上や密林地帯に設営された132ヵ所の避難所などで生活している。
AMDAは、ササムンガ病院で、AMDAインドネシア支部派遣のヌール・スーリア・ヴィーラワン医師(麻酔科)が看護師6人と協働し、24時間体制で診療を行った。また、本部からニティアン・ヴィーラヴァグ調整員が派遣され、コーディネーションと本部との連絡を担当した。

【緊急医療支援活動】
活動場所:ササムンガ病院(ソロモン諸島 チョイスル島 ササムンガ村)
活動期間:4月21日〜5月5日(15日間)

【主な疾患・診療者数】
劣悪な生活環境と疲労蓄積から、当初、マラリアの流行が心配されていた。同病院にはマラリア検査官がいて検査を担当し、ヴィーラワン医師が、マラリア患者へクロロキンなど抗マラリア薬を処方した。
マラリア件数の増加は、4月22日を最後に収まったが、発熱や頭痛などの症状を訴える患者は、診療活動期間中絶えることはなかった。また、雨水や小川の水を生活水としていたこともあって皮膚疾患も多く、診療した総患者数は388人であった。

<<皆様からの募金を受け付けております>>
郵便振替:口座番号01250-2-40709
口座名「AMDA」
*通信欄に「ソロモン復興」とご記入下さい

コールドチェーン資機材を納入、設置

復旧状況・ニーズ調査

2007年7月、館野和之調整員が現地調査をすると、ギゾ島沿岸部の村は津波で全壊したままだった。その他の離島でも診療所の再建さえ見通しがついていなかった。住民は津波への恐怖をぬぐい去れず、村に立ち戻れない状態が続いていた(写真?)。
山腹にある避難キャンプを調査したところ、被災者はビニールシートを地面と屋根に拭いた急造のテントで暮らしていた(写真?)。こうしたキャンプでは、往々にしてトイレなどの衛生施設は未整備になる。過密状態の集団生活を強いられる劣悪な環境の中で、住民の健康状態の悪化が懸念された。
住民、特に子どもの健康を維持するには予防接種が不可欠。しかし、調査を実施した時、多くの保健医療施設では予防接種ワクチンを保管する冷蔵庫が津波で破損、あるいは故障していた(写真?)。ウェスタン州の基幹病院であるギゾ病院でさえ、ワクチン保管用冷蔵庫は1台しか稼働していなかった。
いくつかの感染症、特にこどもの麻疹予防にはワクチン接種が最適の予防法である。しかし、麻疹ワクチンは摂氏5度以下で保管しなければならない。実は、麻疹ワクチンだけでなくほとんどのワクチンは熱に弱く、できるだけ低温で冷蔵保管しなければ効果を失ってしまう。
ワクチンの品質を保持する低温管理の設備や仕組みを総称してコールドチェーンと言うが、この設備が整わないと予防接種そのものが実施できない。津波によるワクチン保管用冷蔵庫の破損は、実は被災者のみならずウェスタン州住民全員の健康維持に対して脅威となっている。

表1 プロジェクトを実施した保健医療施設の概況
No 診療所 医療機関種別 島名 診療人口 冷蔵庫の状況
1 ケル 地方保健診療所 ニュージョージア島 2,570 破損
2 ラブラブ 救護所 ヴェララヴェラ島 630 破損
3 ドヴェル 地方保健診療所 ヴェララヴェラ島 1,861 不具合
4 ニラ 地域保健診療所 ショートランド島 2,408 破損
5 ファラマエ 地方保健診療所 ショートランド島 866 故障
6 コリオブク 地域保健診療所 ラノンガ島 2,000 故障
7 パラダイス 地方保健診療所 ニュージョージア島 2,167 破損
8 ウゲル 地方保健診療所 レンドヴァ島 2,892 故障・破損

子どもたちに予防接種をソーラー式予防接種ワクチン保管用冷蔵庫の提供に着手

ソロモン諸島の医療保健施設に設置されていたワクチン保管用冷蔵庫はガス式または灯油式冷蔵庫である。使い続けるにはガスや灯油を補充しなければならないが、実は大変手間がかかる。
たとえば、ガスを切らした場合、ガスシリンダーを入手するのに半日から2日程度かかる。被災した保健医療施設の多くは離島で、シリンダーを船で運ばなければならないからである。その間にワクチンの品質を保持することは大変困難だ。また、灯油式冷蔵庫は温度調整や日常の保守管理が複雑である。なによりボートで医療施設へ灯油を運搬するときや、冷蔵庫に補充するときに危険を伴ってしまう(写真?)。
一方、太陽電池を使ってワクチンを保冷するソーラー式冷蔵庫はエネルギー充填の必要がない。保守点検や温度維持が簡単で故障が少なく、保冷能力が高いなどの利点がある。熱帯でしかも離島の多いソロモン諸島には理想的なワクチン保管用冷蔵庫といえる。
AMDAはこうした被災地住民と保健医療機関のニーズを踏まえ、津波で破損・故障した8つの保健医療施設のコールドチェーンをソーラー式へ更新する事業に着手した。この事業により、約20,000人(約4,000世帯)の住民と約2,400人の5歳未満の子どもたちは安定して予防接種を受けられるようになる。


?津波で破壊されたニューマンダ村(ギゾ島)の教会

?ティティアナ村の被災民キャンプ

?津波で破損したワクチン保管用冷蔵庫(ギゾ病院)

?灯油式冷蔵庫に保管されているワクチン(ギゾ病院)

ソーラー式予防接種ワクチン保管用冷蔵庫を納入 8カ所の保健医療施設に設置

資機材の最終的な提供先は、カウンターパートであるソロモン保健省(MHMS: Ministry of Health and Medical Services)との密接な協議を重ねて決定した。(表1および図1参照)
こうして8カ所の保健医療施設にソーラー式ワクチン保管用冷蔵庫を1機ずつ提供することになったが、このソーラー式冷蔵庫を点検したり庫内をクリーンアップする時に、ワクチンをいったん庫外に出すことがある。そのまま放置すると熱帯のソロモン諸島の気温では、ワクチンはたちまち劣化してしまう。庫外に出す際にはワクチンを保冷する機材がなくてはならない。また、故障の少ないソーラー式冷蔵庫だが、万一に備えてバックアップが必要である。そこで、保冷用コールドボックスをそれぞれ1機ずつ付属配備することにした。
さらに、8つの医療機関が予防接種キャンペーンを機動的に実施できるように、ワクチンキャリアを2機ずつ付属配備することにした。こうして、ソーラー式冷蔵庫1機、コールドボックス1機、ワクチンキャリア2機を1ユニットにして、合計8ユニットを調達することにした(写真?)。
2007年10月、事業資金の一部を日本国外務省NGO支援無償資金協力から得ることができた。その後、現地政府と慎重に協議しながら、AMDAはユニセフ(国連児童基金: UNICEF)を通じて2008年の春から資機材の調達を開始した。
2008年5月、ユニセフを通じてコールドボックスとワクチンキャリアがインドから空輸された。AMDAは現地事業担当者を首都ホニアラに派遣してこれらの資機材を受け入れ、現地政府の倉庫にいったん保管した。8月にはデンマークのコペンハーゲンから海上輸送されたソーラー式冷蔵庫が到着した。AMDAは全ての資機材をソロモン政府に移管し(写真?)、その維持管理と運用を委ねることにした。資機材は、ソロモン保健省のスタッフによって8つの保健医療施設に順次輸送、設置された(写真??)。

コールドチェーンの正常な稼働を調査確認

ソロモン諸島での事業を完了
さて、資機材は無事にソロモン政府に移管され、国内に配置された。しかし、それだけでは事業の責任を果たしたとは言い切れない。そこで、同年9月、AMDAは診療所に提供したワクチン保管用冷蔵庫が正常に稼働しているかどうか、保健医療施設を直接調査することにした。
調査の結果、いくつかの問題を発見した。たとえば、ある診療所は築20年を経て老朽化が著しく、ソーラーパネルを取り付けた屋根が腐食していた。この診療所のある島は風雨の激しいことで知られ、このまま放置すれば遅かれ早かれパネルは脱落してしまう。パネルが破損すれば、せっかく導入した冷蔵庫は機能しない。これでは、いざというときにワクチンを保管できなくなってしまう。そこで、AMDAはソロモン保健省と協力してパネル設置部分の補強を行うことにした。
このように現地政府と協力しながら問題をひとつずつ取り除き、各保健医療施設のコールドチェーン運用に支障がないかどうかを最終的に確認した上で、2008年10月初旬、AMDAは復興支援事業をひとまず完了することにした(写真?)。

現在、AMDAから移管されたコールドチェーン資機材は、ソロモン政府によって管理運用されている。事業完了から3ヵ月を経た2009年1月の時点で、提供した全ての資機材は完全に機能しているとの報告を受け取っている。AMDAは、支援対象とした事業地に対し、導入した資機材をいたずらに放置することはしない。支援地との連携連絡は独自に堅持している。今後も事業で得られた成果を可能な限り維持できるよう、でき得る限りの支援を継続していきたい。


?ソロモン政府に納入されたコールドボックスと
ワクチンキャリアの一部

?資機材移管のMOUに署名する館野和之AMDA職員(右)と
ソロモン諸島政府担当者

?住民が協力してソーラーパネルを設置する
(ショートランド諸島)

?プロジェクト供与支援を実施した保健医療機関

?ソロモン諸島に供与した
ソーラー式ワクチン保管用冷蔵庫