高杉こどもクリニック合同医療プログラム モンゴル診療
2014年8月に高杉こどもクリニックの高杉医師がモンゴルの日本モンゴル友好病院での無料検診事業にAMDAインターナショナルとして参加してくださいました。高杉医師からの報告を一部抜粋してご紹介します。
高杉医師からの報告
モンゴルの首都ウランバートルで、2014年8月14日から3日間、Japan-Mongolia Friendship Hospital(JMFH)を中心にMedical Check Up Charity Serviceというプロジェクトが行われました。私は、このプロジェクトに、AMDA internationalとして日本から参加しました。
JMFHは、低所得者が多く居住する地区に、2012年、AMDAモンゴルの支部長のオユンナ医師が院長となり、開院した有床の病院です。
私も、地元の岡山県総社市に2012年に高杉こどもクリニックを開院しましたが、その時にこれまでお世話になった方々から温かいエールと多額のお祝いを頂きました。この時に頂いたお祝いの一部を、お祝い返しをすることなく、同時期に開院するJMFHに、心電計を購入して寄贈(ペイフォワード)した縁で、それ以来、私の高杉こどもクリニックとJMFHは姉妹病院となっています。
開業して丸2年が経過し、ようやくクリニック経営も軌道に乗ってきたので、この夏、姉妹病院のJMFHでのプロジェクトに参加することにしたのでした。
8月14日(木) 2つの世界
今日は今回のプロジェクト「Medical Check up Charity Service」の1日目、Mobile Medical Serviceです。近くの公立一次診療所で友人ドクターとナースが合流して、総勢10名くらいでJMFH周辺の貧困者層のお家を訪問していきました。
モンゴルでは、医師の8割は女性だそうで、あらためてモンゴルでは医療は女性が中心であることを再認識しました。貧困層の居住地域では、舗装されていない凸凹道の両脇にトタンの粗末な塀で区画を仕切っていて、その敷地内に、ゲルや小さな掘っ立て小屋といった感じの建物が並んでいました。
要介護になっている患者さんを午前中に数名回りました。Medical Check up Serviceとは言うものの、驚いたことに、患者さんに話しをして、血圧を測って、持参したポータブルの腹部エコーと心電図(誘導が不完全)を行って、これで終わりです。定期的な訪問診療ではなく、健康診断的な要素が強いのだとは思いましたが、聴診器を使った一般的な診察は全く行いませんでした。私は、小児科医で老人医療は全くの門外漢ではありますが、折角なので聴診をして、心電図や腹部エコーにコメントを言ったりしていましたが、果たして的を得ていたのかどうか不安なところです。
家族の方々は介護をしているけれど、普段、薬局で薬を買うことはあっても、めったに医者を受診することはないようでした。そして、今回のMedical Check up Serviceに感謝することしきりでした。
4件くらいのお宅を訪問の後、13時過ぎに病院に戻って、昼食を食べた後は、AMSAモンゴルの学生2人を連れて、私とDr. Oyunaで、国立母子センター病院に向かいました。もちろんモンゴルで随一の規模を誇る小児科専門病院です。
ここに日本の小児科医の特に循環器診療を専門とする医師でつくっているNPO Heart Saving Program が1週間前から来ていて、国立母子センター病院で子どもの心臓病児にカテーテル治療を提供して技術指導をしているので、見学を兼ねての訪問でした。
午前中に参加していた訪問健診とのギャップもあってなんだか複雑でした。そこには医療において明らかに2つの世界がありました。
その後ウランバートル市街の中心部を訪れた際にはマンションに住み、高級車に乗って、メイクやおしゃれをバッチリ決めて、高級品を買い求める人達がおり、あまりのギャップに改めて驚きました。
8月15日(金) えっ!テレビ出演!?
事前に、今日はチャリティ小児心臓検診をする予定と聞いていましたが、JMFHには超音波検査の機器がありませんから、地区病院(二次病院)であるSukhbaatar District Hospitalへ向かいました。
この地区病院は、朝から廊下に患者さんであふれていて、「集まるところに患者さんは、集まるんだ〜」というのが率直な感想でした。3階にあがって、診察室の前に大勢の子どもをつれたお父さん、お母さんが待っています。あとで分かるのですが、この方々が無料心臓検診に集まってくれていた方たちだったのです。
院内のスタッフに手伝って貰って、超音波とベッドと診察机を配置して、気がつくと1人目の患者さん14歳の男の子がもう目の前にいます。
通訳は昨日から同行しているAMSAの医学生が務めてくれ、どうして今日は心臓検診を受けに来たのか簡単な問診をしてくれます。使い慣れないアメリカ製の心臓超音波の機械を、なんとか使いながら、心の中で冷や汗をかきながら、1人目の検診を終えるころに、気がつきました。なんと、テレビカメラとアナウンサーらしき女性がこちらを凝視していました。そうなんです!日本から小児科医師が無料心臓検診にやって来たと言うことで、テレビの取材が入っていたのです。
私の冷や汗具合は一気にアップしてしまいました。周りの人はそんな私にはお構いなく、次々と患者を呼び入れて、心臓検診が順番に進むように段取ってくれていますが、たどたどしい英語での説明を、AMSAの学生が通訳してくれているので、それほどスピーディーに進みません。さらに、数人の検診が終わったところで、アナウンサーのインタビューを撮影することになりました。
もちろんできるモンゴル語、「サンバイノー」だけなので、AMSAの学生の通訳で英語で答えますが・・・「どうしてこういう検診をしようと思ったのか?」とか「今後、これからのモンゴルの医療はどうなったら良いと思うか?」と、突然言われても、上手く答えられないし、それを英語で上手く表現するのは至難のことでした。AMSAの学生がどんな風にモンゴル語に通訳してしゃべったのか?良く分かりませんが、もうそんな事よりも、早くこの場を終わらせて!と言った具合でした。
さらに心臓検診は続きますが、スクリーニングをして欲しい若年成人や病院スタッフの氏族つまり病院のスタッフ関係が間で何人も割り込んで、入ってくるところが、面白いというかなんというか?上手く、機会を利用したというところでしょうか?
それでも、昼食を挟んで14時過ぎまで、16-18名ほどの方の、心臓超音波検診を行い、時間が来たということで、突然、終了が告げられました。外にはまだ待っている人がいましたが、そんな事は「お構いなし」といった感じでの終了でした。そのあたりは、日本ではあり得ないことだけれども、こちらではそれこそ「お構いなし」で気にする様子もないところが日本人の私からはかなりビックリの感覚でした。
心臓検診が終わって、オユンナ医師が、突然、近くの救急病院の見学に連れて行ってくれました。ここは、小児の1次〜2次救急といった感じで、酸素ボンベから人工呼吸器まで揃っていて、救急対応が出来る状況にありました。実際、酸素投与を受けている1歳くらいの肺炎の子どもがいましたが、季節が良いせいもあるのか?3人部屋を一人で使用しているような状況でした。日本だと、患者さんが少ない時の病床の少ない病院小児科といった感じだと思いました。
8月16日(土)Charity Medical Check up Service最終日
今日の私の役目は、JMFHでの無料健診の小児科医です。他には内科医、眼科医、皮膚科医の診察を予定しているとの事でした。だんだん診察室の外が賑やかになってきて、子どもを抱えた日本人と同じ顔のお母さんが、ドアを開けて、モンゴル語で「×××、△△△、〇〇〇」と話しかけてくれますが、たぶん「まだ診察は始まらないの?」ってことだろうと思うのですが、モンゴル語ではしゃべれず、チョット待って下さいねというポーズで答えることしか出来ません。そうこうしているうちに、外の廊下は、患者さんで一杯になってきたころに、私のとても大事な助っ人、通訳をしてくれるAMSAの医学生さんが到着して、診察が始まりました。
最初は、JMFHにいる職員の子ども2人の健診でした。それから始まって、ただ物珍しい日本人小児科医に診てもらいたいという健診の児に混じって、2歳脳性麻痺児の相談、原因不明の皮膚毛細血管拡張症と低身長のある8歳児、4カ月の口唇裂の児、新生児時期の脳梗塞後でてんかん発作が続く13歳児など、午前中に20名強、昼食を挟んで、午後4時頃までに計32名の診療でした。
昨日から、私の下手な英語を辛抱強く聴いて、モンゴル語で適切に話してくれるAMSAの医学生に本当に感謝です。志の高い彼らが時間を見つけては私に話しかけてくれて、自分のモチベーションが高くなりましたし、彼らにも少しでも、何らかの影響を与えられていたなら嬉しく思いました。
全ての診療が終わる頃、夕立の合間に、今日のプロジェクトに参加した全員で集合写真をとり、無事の成功を皆で喜んだのは言うまでもありません。