AMDAフードプログラム:インドネシア マリノ農場からの報告   〜試行錯誤〜 – AMDA(アムダ)
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AMDAフードプログラム:インドネシア マリノ農場からの報告   〜試行錯誤〜


先週は毎日のように雨がたくさん降りました。乾いていた田んぼが潤ったのでマリノの農家もアルハンドゥリラー(ありがたやー)とほっと胸をなでおろしています。そして、害虫対策や水管理に奔走した甲斐あってかAMDA田んぼの稲は早いものは穂が色づき始めています。黄金色の収穫まであと少し、ラストスパートです。私の今回の滞在の大きな目的でもある収穫調査も近くなってきたので、先日スタッフと一緒に調査のリハーサルをしました。[pagebreak]


写真は高床式住居の中で1本の穂についた籾つぶの数を数えているところです。
とても地味で想像以上に疲れる作業ですが、一通り数えてみたところ、マリノの稲の1穂あたりの籾数は平均200粒以上あることがわかりました。一方、日本を代表する稲の品種コシヒカリの籾数は70粒くらいが標準とされています。さらに1?あたりの穂の数も数えてみました。コシヒカリでは標準400程度とされていますが、マリノの稲は160ほどしかありませんでした。

稲の根元から枝わかれして出てきた茎を分げつと呼び、分げつに穂がつくのですが、コシヒカリと比べてマリノの稲は分げつは少なく、籾数は多い特徴を持った稲だということがわかってきました。調べたい項目はあと2つあります。ひとつめは登熟歩合といって簡単に言えば全てのもみ粒のうち何パーセントにちゃんと実が詰まっているかです。調べる方法は濃度8%程度の塩水を作りそこに籾を入れて沈んだものは詰まった実、浮いたものは空っぽの籾というふうに分けていくシンプルな方法です。パーセントを算出するためには、やはり沈んだもみ粒の数をひたすら数えます。


最後に1000粒重。読んで字のごとく米1000粒の重さです。コシヒカリを例にとると標準は22g程度で、これもひたすら数えた後に秤で計ります。
赤字の4つは収量構成要素と呼ばれ、このデータを読み解くことで稲の品種の特徴や次の年の米作りをどう変えればより多くの収穫を得ることができるかおおよその見当をつけることが出来ます。AMDAの田んぼは15枚ありますので全ての籾粒を数えるのはとても大変です。稲の研究をしてきた先人達は一生に何億粒の米を数えてそのような知識を得たのかと思うと気が遠くなりそうです。

写真の棚田の白い田んぼは今年試験的に導入してみた新しい品種の栽培区ですが写真で見てもわかるように実がほとんど詰まっていません。
マリノの農家の話によると植え付けの時期が早かったために長雨に見舞われカメムシがついたのだろうとのこと。データを取ってみたところ籾数が21、穂数は1330で籾数は少なく穂の数が多すぎです。穂が出る時期の栄養不足も考えられます。登熟歩合はわずか2.6%、1000粒重も17gでした。登熟歩合や1000粒重の値が低いのは花粉が出来る時期の長雨や病害虫が多かったことが原因だと考えられます。マリノの農家の意見にもデータ的な裏づけが出来ました。来年は長雨に当たらないよう植え付け時期をずらし、肥料を増やして早めに虫取り網でカメムシ対策をすれば収穫が望めるかもしれません。試行錯誤を繰り返して得られる知識と経験がやがてマリノの人たちの知恵になるはずです。収穫調査本番の結果が待たれます。


私の好きな中国の故事で、「神農」という人の話があります。
神農は漢方医学と農業の開祖で野山の草木を1つずつ自分で食べて試しては毒か薬かをまとめて人々に伝え、さらに鋤(スキ)を発明して土を耕し農業をすることを教えたそうです。
医食同源の国らしい故事で、もともと医療と農業が1つのものであったことをうかがわせる話でもあります。神農がまとめた内容は「神農本草経」という漢方医療のテキストとして今も現存しています。古代中国人の地道な試行錯誤の結晶といえそうです。
一方、鋤(スキ)ですが今日本ではほとんど見かけることがありません。近代に入ってからトラクターに取って代わられたためです。でもマリノではまだ現役でちゃんと使われています。名前はガロポと言うそうです。スタッフのジャマルも持っていました。
神農の試行錯誤の結果得られた知恵は現代でも医療と農業の世界に生きています。
今回の収穫調査で得られる経験が神農の残した知恵のようにマリノに根付いてこれからも生き続けてくれればと願っています。

 


AMDAフードプログラム

AMDAでは2011年からアジアへの有機農業技術移転を目的としたAMDAフードプログラムに取り組んでいます。
このレポートは、2013年度に開所したAMDAフードプログラム マリノ農場へ技術指導に訪れているスタッフからのものです。