理学療法士 西嶋 望
SAさんにカウンセリング
ネパールでの震災後、障がい者支援において目標としてきたこと、それは「障がいがあっても住みよい街づくり」でした。現地のパートナーであるIndependent Living Center Lalitpur(以下ILCL)との活動は、障がい者を対象とした直接的な取り組みだけでなく、ネパールの社会側(地域)に対する取り組みも並行して行ってきました。しかしそれを実際に行うのは、現地に住む障がい当事者が主体となることが今の活動の基本姿勢です。
今年度の活動に新たに加えられた内容の一つに「自立生活プログラム(=Independent Living Program(以下ILP))」というのがあります。これはILCLの事務所内にプログラムを受ける障がい者のための部屋を確保し、1週間程度AMDAで用意した介助スタッフと宿泊していただきながら、障がいに関する講義や実際の生活のためのトレーニングを行うものです。これはAMDAの活動の訪問活動や地方で行う訪問(モバイルキャンプ)とリンクして行っています。訪問先で寝たきりや閉じこもりとなる方の背景には、身体的な障がいやバリアの多い環境もありますが、それ以上に大きく影響しているのは、気持ちが沈んだまま人生を諦めている事が大きく影響します。訪問先ではこのような方々を主な対象と考えILPを勧めています。人生を諦めている方々は誘っても簡単には来られません。何度も電話や再訪問をして説明を繰り返して参加を促しています。ILPではピアカウンセラーも事務所に毎日いるのでピアカウンセリングも並行して行われています。
ILPを受けた参加者からの声を紹介します。本プロジェクトはこうした当事者の声を活かすように継続しております。
・IKさんは「うちではベッドからでたことがなかったが、自分の事を自分でできるようになった。」
・BPさんは「うちにいるときに自分の事は自分で出来なかったが、自信がついた。どうしたら自立生活できるようになるのか勉強になった。」
・KSさんは「4・5年ぶりに家から外に出る機会になった。このILPに参加して、どうやって自立生活ができるかもわかった。そして沢山の友達も出来た。」
・APさんは「はじめてお母さんと家から離れたことはとても心配で悲しかった。でも、自分のケアとか、障がい者でも普通に自立生活できることを学びました。」
など、ほぼ全ての参加された方から喜びの声をいただいております。
更に重度障がい者のDKさん(男性:脳性麻痺)は、両手両足を自由に動かすことができない重度障害者で、あまりしゃべる事もできません。コミュニケーションにはIpadのタブレットを鼻でタッチして文章を作る事が出来る方です。DKさんは6歳の時、実の母親は亡くなっています。父親の再婚で今の母親と妹が二人いますが、トイレの世話をするのは夕方仕事を終えて帰ってきた父親のみで、自宅でずっと寝ていました。ILPの始まった当初は、自分の障がいについても何も知らなかったといいます。ILPは彼にとって非常に刺激的だったそうで感想文を鼻でタブレットを打ち送ってくださいました。
以下に日本語に翻訳した感想文を紹介いたします。
ILPを受けるDKさん(左)
ILPの感想をかきます。ILPは本当にマジカルプログラムだと思いました。ILPで私の人生に新しい事を勉強しました。ILCLで働いている皆さんと会って、とても生きがいもできました。私の自信もつきました。世界で生活している重度障害者も、普通の人達のような自立生活ができることが分かりとても感動しました。重度障害者も地域で生活できるようにするために、政府からのいろいろなサポートがとても必要です。政府からもらうサポートは僕たちの権利ですね。重度障害者が自立生活するために、体に合う車いすなど、介助者サービス、バリアフリーな地域、仕事とか、仕事がない時の生活保護のためには毎月15,000ルピーくらい、これらはとても必要です。いつも家族はサポートできません。だから政府のサポートは必要です。僕のような重度障害者は、今もいろいろ差別があります。軽い障がい者は政府のサポートを受けるチャンスがあって生活しているけど、僕のような重度障害者は、生活するのに必要なだけのサービスはないです。これは、本当に差別じゃないですか?僕の人生も他の人と同じ人生じゃないですか?なので差別ですね。僕は差別のない地域で自立生活したいです。みんなが住みやすい地域をつくるのために、みなさん頑張ってほしいです。
ありがとう。
2月15日、AMDAの障がい者支援プロジェクトは首都カトマンズでILCLと共同開催する”International Conference on Independent Living of Persons with Severe Disabilities in Nepal”を企画しています。重度障害者の自立生活にスポットをあてたカンファレンスで発表やグループディスカッションが予定されております。このカンファレンスでDKさんのコメントも紹介されます。DKさんが述べた「みんなが住みやすい地域をつくる」ために障がい当事者の声を聞きこれからの在り方を考える機会にできればと考えております。これまでネパールでは重度障害者にスポットがあてられることは殆どなかったとILCLのスタッフらは言います。簡単に前進できるものではないかもしれませんが、現地の障がい当事者の声に耳を傾けることから街づくりが始まる事の大切さを伝えていきたいと考えております。