「難民キャンプで生まれる命を守る」 AMDAバングラデシュ助産師の活躍 – AMDA(アムダ)
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国連経済社会理事会総合協議資格NGO

「難民キャンプで生まれる命を守る」 AMDAバングラデシュ助産師の活躍

プロジェクトオフィサー 橋本 千明

ロヒンギャ難民キャンプでチーム唯一の助産師として活躍するAMDAバングラデシュ助産師シャハナさんの活動の様子をご紹介します。

AMDAバングラデシュが主体となり2017年10月から1年間の予定で実施しているロヒンギャ難民支援は、診療活動と医薬品の処方を中心に活動を続けています。また、通常診療に支障のない範囲で助産師が近隣の4~5名の妊婦健診と経過観察を行っています。医療チームは調整員・医師・看護師・医療アシスタントを含む8名程度で成り立っていますが、シャハナさんはチーム唯一の助産師で、活動開始当初から参加しているメンバーです。

現地での活動はAMDAバングラデシュのチームが主導となり進行しています。2018年5月、後半6か月の活動調整のために日本からバングラデシュを訪れました。RRRCと呼ばれる難民救援帰還委員会事務局やコックスバザール県保健局を訪問しAMDAバングラデシュ事務局長とともに経過報告を行うとともに、クトゥパロン難民キャンプでのAMDA診療所の活動状況を確認しました。

診療中、50mほど離れた仮設住居に住む、出産後1時間の母親の様子を見てもらいたいとシャハナさんを訪れた女性がいました。母親は現在暮らす仮設住居で、いわゆるTBAと呼ばれる伝統的産婆の介助を受け出産したとのこと。現在産後1時間。痛みを訴えていたため呼ばれました。1名では人手が足りず女性がのぞましいとのことで、私も一緒に同行させて頂くことになりました。訪れた仮設住居は、家が密接して連なりその家まで行くのに途中、他の人の家の中を10軒ほど通り抜けました。防犯のためか針金などで簡単な鍵のかかっている家もあり、その都度家人を待ち扉を開けて頂きながらすすみました。

案内された住居内は電気がなく、室内は締め切られ真っ暗。昼間にも関わらず、日の当たる明るい外から中に入った私は母親の方の顔も、自分の足も見えませんでした。数分ほどして目が慣れてくると、徐々に母親の顔の輪郭がわかり顔の表情がうっすら見えるようになり、母親の横に毛布にくるまれている何かがあると気がつきました。その中に生まれたばかりの新生児が見えはじめました。母親は痛みを訴えていますが、状態を見ようにも光が全く入らなかったため、急いで明かりを探してくるようシャハナさんが親戚の方に依頼しました。

ロヒンギャ難民の方は、バングラデシュの言語であるベンガル語のチッタゴン方言を話します。首都ダッカなどで話されているベンガル語とは単語や発音もかなり異なるもので、コミュニケーションをとるのには通訳を要します。しかしシャハナさんは、この6か月でロヒンギャの方々の言葉をかなり理解できるようになっていて、直接話しかけながら準備をすすめます。

明かりと手袋が手に入ると、状態を確認することになりました。ロヒンギャ難民である母親の親戚の方が明かりを当てます。シャハナさんが内診をすすめ、その間新生児を抱いていました。シャハナさんはほどなくして「子宮内に胎盤が残っている」といい何度か用手剥離を行い、処置は終了。母親は処置の間は痛みに小さく声をあげていましたが、処置が終わるとほっとした様子で笑顔になりました。赤ちゃんはその間泣いたり泣き止んだりを繰り返していましたが元気。体重は3kg弱と推定。新生児は臍帯がついていて、臍帯は細いひもで縛られていました。
 







難民キャンプで女性がどのような状況で出産しているのだろうか?2017年11月の訪問時は妊産婦に直接関わる機会がなく、その時は話を人伝えに聞くのみでした。

AMDAバングラデシュの拠点である、ガザリアの地で長い助産師経験を持ち、3人の子どもを持つ母親でもあるシャハナさん。このロヒンギャ難民支援に特別な思いがあるそうです。通常の助産師の仕事であれば働く時間に昼夜の制限はありませんが、難民キャンプでの活動は政府からの指示もあり9時から14時ごろまでと決まっています。そのため、限られた時間の中で出来る限りのことをしたいという思いがありました。シャハナさんの自宅はガザリアにあり、コックスバザールへは単身赴任をしています。可愛い子どもたちと離れているのは淋しいけれど、ロヒンギャの子どもたちを見ると、自分の子どもたちのことを思い出すと同時に、ロヒンギャの子どもたちの過酷な状況を見て胸が締め付けられる思いがあるそうです。

今日は、「母親が無事に出産でき本当に良かった。前から様子を見に行っていたから安心しました。出産後、早くここまで来ることができたことが良かったと思う。子どもも元気そう。体重は何kgくらいかしら?感染しないように、あとで抗生剤を準備してまた持ってくるようにしましょう」と目を輝かせて話しました。

母親と子どもは、AMDA診療所でも特に気をつけて診療しており、要援護者としてより行き届いた支援が必要な存在として捉えられています。今回の経験で、母親と赤ちゃんの、どんなに困難な状況でも生きる力、命の強さ、たくましさも同時に目の当たりにしこちらが力をもらった思いでした。