2020年度年次報告 新型コロナウイルス感染症の影響に対する支援:国外(2021/7発行) – AMDA(アムダ)
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特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

2020年度年次報告 新型コロナウイルス感染症の影響に対する支援:国外(2021/7発行)

概 要

2019年12月に発生した新型コロナウイルスの感染は日に日に深刻な状況となり、2020年3月11日にはWHOが「パンデミック」と宣言する事態となった。2020年度も世界各国で感染が拡大、2021年3月末時点で127,907,855件の感染を確認、死者数は2,797,961人(WHO発表)を記録した。



AMDAは、海外への渡航が困難な状況下にあったが、国外にある各支部と適宜連絡を取り、各国の感染状況など情報交換を行った。複数の国では、政府や自治体によるロックダウン(都市封鎖)が実施され、日常生活に大きく支障が出ているとの報告もあった。AMDA各支部はローカルイニシアチブのもと、必要に応じて医療支援やオンラインを生かした活動など、多種多様な支援活動を実施した。



内、右記6か国での活動についてご報告する。

 

インド

状況

2020年1月にインド国内で初の感染者が確認され、それ以降、感染者が増加していた。3月24日からは急遽全面的な外出規制が敷かれ、工場をはじめ、オフィス、公共の交通機関などが操業停止となり、日雇い労働者をはじめ、大勢の人が生活の術を失った。6月に段階的に規制は緩和されたものの、深刻な感染拡大は続いている。

 

1)マスク、手指消毒剤などの提供による感染症対策支援

◇実施場所: 首都デリー、グルガオン

◇実施時期: 2020年3月初旬、6月

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: AMDAインド支部

◇受益者数: 1,150人



◇事業内容:

2020年3月初旬、インドでマスクの着用と手指衛生(手洗い、手指消毒)が推奨され始めたこの時期に、AMDAインド支部は「危険ゾーン」と呼ばれる感染リスクの高い地区で働く労働者にマスク50枚および手指消毒液を配布した。その際、インド支部のミナクシ・ジョシ事務局長から感染予防と手指衛生の他、アユルヴェーダ伝統医学医師の視点から今後予測されるストレスや困難を乗りきるための心の持ち方などについて労働者に説明した。



その後、3月末の全面的な外出規制、そして約2か月後に規制は段階的に緩和されたものの、新型コロナウイルス感染者数は増加傾向だった上、職場復帰などにより人々の外出機会は増えていたため、AMDAインド支部は追加で物資支援を行うことを決定。布製手作りマスク1,100枚、アルコール度80%の消毒液25リットルとハンドソープ15リットルを購入し、新型コロナウイルス感染症予防に関する指導パンフレットを200部用意した。同支部の運営方針の1つである環境と資源保護の観点から、使い捨てマスクの利用は環境に負荷を強いるため、感染者と日々対峙している医療従事者を除いて“使い捨てマスクは必要ない”という考えに基づき布製マスクを選択した。



準備したマスクやパンフレットは人口密集地域である首都デリーとグルガオンで配布した。ガソリンスタンド、警察署などを支援先とした他、清掃員やガードマン、露天商、労働者、公園に集まっている人も対象とした。加えて、身寄りのない高齢者や精神的障がいを持つ高齢者ら500人が入居する老人ホームには、手作りマスクとパンフレットの他、消毒液とハンドソープを寄付した。

 

2)労働者家族支援

◇実施場所: 首都デリー

◇実施時期: 2020年3月25日〜約3カ月

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: AMDAインド支部、同支部事務局長ミナクシ・ジョシ

◇受益者数: 4人



◇事業内容:

3月に急遽全面的な外出規制が敷かれ、大勢の人が生活の術を失った。交通機関も一時停止したため、都市部に住む人たちは徒歩で故郷を目指した。その中には子連れの家族や、女性、妊婦の姿もあった。



AMDAインド支部のミナクシ・ジョシ事務局長は、2歳半の子供を連れた労働者家族から助けを求める連絡を受けた。徒歩での帰郷を試み、55キロの地点まで歩いたものの、疲弊と気温の上昇により立ち往生してしまったという。そこで、AMDAインド支部はこの家族が生活できるよう食料や調理用のガスコンロなどを用意し、3月25日から約3か月間、一時的シェルターとして支部の事務所を提供した。一家は定期的に提供された食料と調理器具で自炊し、日々の食事を賄った。加えて、ロックダウンによる外出制限により直接、面会ができなかったため、インド支部は定期的に事務所に電話を入れ、この家族の日々の様子を伺った。



インド政府が州境を超える国内移動の制限を緩和した6月末、一家は礼状を残して去っていった。そして、インド国内では再び人々の大移動が始まった。

 

3)オンラインセミナー

◇実施場所: オンライン

◇実施時期: 2020年11月〜

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: AMDAインド支部

◇受益者数: 91人



◇事業内容:

2020年11月から12月がお祭りシーズンのインドでは、この時期に新型コロナウイルス感染者数が急増。その中で、アユルヴェーダ伝統医学医師でもあるミナクシ・ジョシAMDAインド支部事務局長は、いかにコロナ禍において健やかに過ごすかということをテーマに無料オンラインセミナーを始めた。第1回目は「コロナ禍における感染症予防」、第2回目は「花粉症に悩まされる春を健康に過ごすには」について行われた。セミナーには、日本とインドから計91人が視聴した。



「初めて聞くこともあり、日々の生活に役立ちます。もっと知りたいと思いました。」という視聴者からの声を受けて、今後もこの活動を継続予定である。

 

4)衣類の提供

◇実施場所: グルガオン

◇実施日: 2020年11月14日

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: AMDAインド支部

◇受益者数: 58人



◇事業内容:

インドの三大祭のひとつと言われ、毎年盛大に祝われるディワリ。家族や友人が集まって、道端には屋台が立ち並ぶのが通常だ。しかし、コロナ禍で祝うディワリは祭りとは思えない程、閑散としていた。



AMDAインド支部は、ディワリ祭に大人服と子ども服あわせて計58枚とお菓子を各労働者グループの代表者に配布した。コロナ禍であるため、配布時には会場に入る人を制限し、受け取った服は各代表者から労働者に渡していただけるようお願いした。

 

フィリピン

状況

フィリピンにおいて新型コロナウイルス感染症による陽性者数も死者数も日々増加。3月17日より、フィリピンの都市部を中心に強化されたコミュニティ隔離措置(EnhancedCommunityQuarantine)が取られており、日常生活に必要不可欠な店、医療機関は開いているものの、基本的に全員自宅隔離となり、外出が困難な状況となるなど、日常生活に支障をきたす事態となっている。

 

1)医療機関・組織に対するマスクを含む個人防護具などの支援

◇実施場所: フィリピン国内

◇実施時期: 2020年3月15日〜5月上旬

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:

AMDAフィリピン支部、AMSA(アジア医学生連絡協議会)ビコール大学医学部支部、地元ボランティア

◇受益者: 27の医療機関・組織



◇受益者の声:

「AMDAの個人防護具・物資支援にとても感謝している。コロナ禍において最前線で戦う医療従事者への配慮がとてもありがたい。」



「ありがとうございます。これが落ち着いたら、今度はAMDAを助けたい。」



◇事業内容:

AMDAフィリピン支部は、2020年3月から5月にかけて、同支部と繋がりのある27の医療機関・組織を対象に、新型コロナウイルス感染症の影響により不足していたサージカルマスク、フェイスシールドを含む個人用防護具、エアロゾールボックス*、トイレ用品などを提供した。



今回、提供した個人用防護具の1つに、顔全体を覆うフェイスシールドがある。これは、AMDAフィリピン支部医師の自宅近くに住む近所の人や子どもたちからの協力を得て、400個を手作りしたもので、完成したフェイスシールドは他の物資と共に医療機関などに寄贈した。



*個人用防護具が不足する中、挿管などの際に出るエアロゾール粒子から医療者を守るための透明な箱。

 

2)オンライン無料医療相談

◇実施場所: オンライン

◇実施時期: 2020年3月23日〜4月17日

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:

AMDAフィリピン支部、GlobalHealthPharmacyNetwork、ブロークンシャー大学薬学部、AMSA(アジア医学生連絡協議会)パーペチュアルヘルプ大学ジョネルタ財団医学部支部、医療・非医療ボランティア

◇受益者数: 973人



◇受益者の声:

「私の場合、祖母の健康状態を気にしていましたが、心配が解消されました。登録手続きや医師の予約に1日かかるものの、緊急を要する相談でない限り有用です。的確な処方箋を出すために症状に対するスクリーニングも徹底していました。関わっている医師、スタッフともにとても友好的で精通していました。とても感謝しています。」



「このオンライン無料医療相談はボランティアの医療従事者による素晴らしい活動だと思います。新型コロナウイルス感染症により定期的な受診ができない中、診察が必要な人にとって役立つサービスです。」



◇事業内容:

2020年3月、AMDAフィリピン支部は、交通機関の影響などで医療へのアクセスが制限されている同じ国民の声に耳を傾けるため、協力団体とオンライン無料医療相談を行うことを決定した。手順は、まず相談者自身にウェブサイトで登録してもらい、相談者の基本情報(既往歴、健康状態および懸念すること、もしあれば胸部レントゲン写真、検査結果、処方箋など)を相談チームに共有してもらった後、必要に応じて、ボランティア医師、ソーシャルワーカー、カウンセラー、看護師と相談者を電話でつないで、医療相談にのった。



当時、フィリピンでは、ルソン地域全体で「強化されたコミュニティ隔離措置」が課されていた。日常生活に必要不可欠な店、医療機関は開いているものの、自家用車以外の交通手段がない人は医療機関へのアクセスも限られている上、普段かかっているクリニックも閉鎖している場合もあった。そのため、新型コロナウイルス感染症に直接関係ない、慢性疾患などに対する相談も多く受け、約1か月間の相談件数は973件に上った。なお、4月7日より、フィリピン保健省による24時間対応の電話無料医療相談窓口が設置されたため、AMDAフィリピン支部は4月17日でオンライン無料医療相談を終了した。

 

3)ウェブセミナー

◇実施場所: オンライン

◇実施時期: 2020年5月30日〜6月27日

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:

AMDAフィリピン支部、AMSA(アジア医学生連絡協議会)サンペドロ大学ダバオ校、グローバルヘルス・ファーマシー・ネットワークなどの地元協力団体多数

◇受益者数: 798人



◇受益者の声:

「ジレンマはあるものの、オンライン診療は治療を必要とする人々のニーズに対応できる新たな可能性を持っていることを学んだ。21世紀以降も続くであろうデジタル時代に医療を受けられない人達への補完的役割を果たすことだろう。」



「目に見えない新型コロナウイルスに対して、自宅でも職場でも今までとは違う予防策を理解し実行しなければいけないことが分かった。」



「新型コロナウイルス感染症が流行する中、人々が職場に戻る時期だからこそ、予防できる疾患は予防接種で防ぐことが大切。そうすることで欠勤を減らし、結果的には職場の生産性を保つことができることが分かった。」



◇事業内容:

AMDAフィリピン支部は多数の地元団体と協力して新型コロナウイルスに関するウェブセミナーの開催を決定した。このセミナーはコロナ禍で世界が直面する危機的状況への対応について、各専門分野の枠を超えて考えることを目的とした。毎週土曜日に5回シリーズで行われたウェブセミナーは、前半は演者が各週の議題について話し、後半は、もう1人の専門家が発表内容について質問し、演者と議論する形式をとった。加えて、医療者に限らず一般の方にも参加いただき、各セミナー後アンケートにもご協力いただいた。



ウェブセミナー議題と演者

  • 5/30-『遠隔医療(オンライン診療)について知っておくべきこと』(TelemedicinebyDr.EugeneMacalinga)
  • 6/06-『新たな基準に従って安全な職場にするには』(ReturntoworkplacebyDr.AnnaSofiaFajardo)
  • 6/13-『新型コロナウイルス感染症に罹患した医師の視点から』(PerspectivesofaCOVID-19SurvivorbyDr.CarminaFuentebella)
  • 6/20-『メンタルヘルス』(MentalHealthbyMs.LeahMaeJabilles,RSW)6/27-『ワクチンの最新動向』(VaccinesUpdatebyDr.LemuelDelosReyes)

インドネシア

状況

2020年、インドネシアでも新型コロナウイルス感染症が拡大し、インドネシア大統領は感染者の早期発見を目的に、一斉検査の実施を指示する事態となった。

 

1)医療機関支援

◇実施場所: 南スラウェシ州マカッサル市

◇実施時期: 2020年3月25日〜7月30日

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成: AMDAインドネシア支部

◇受益者数: 1,824人



◇事業内容:

AMDAインドネシア支部が位置するマカッサル市内でも感染状況は深刻なため、同支部は医療支援として同市内の病院に医師らを派遣。派遣者は他のボランティアらと防護服を着用の上、来院者を対象に問診やレントゲン、血液検査、PCR検査などのスクリーニングを実施した。その他、同支部が所有する救急車(2008年岡山大学より寄贈)による患者搬送、14日間の新型コロナウイルス陽性者のモニタリング、更に新型コロナウイルスや手洗いに関する指導などを行った。



7月30日までに検査や治療を行った患者は1,824人、そのうち85人の陽性を確認することができた。また、必要データを南スラウェシ州に共有するなど、自治体と連携し、新型コロナウイルスへの対応を行った。

 

アフガニスタン

状況

新型コロナウイルス感染拡大にともない、3月から半年間、大学を含むすべての学校、ホテル、商店などが営業を自粛。テレビやラジオでは感染予防を呼びかけるメッセージが発信された。

 

1)日本アフガニスタン友好病院における医療支援活動

◇実施場所: 首都カブール

◇実施時期: 2020年3月〜

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:

AMDAアフガニスタン支部、日本アフガニスタン友好病院

◇受益者数: 1,210人



◇事業内容:

AMDAアフガニスタン支部長モハメド・ナイム・ラヒミ医師が中心となり、2009年に、首都カブールに設立した日本アフガニスタン友好病院では、1日平均100から150人の患者が訪れていたが、この期間は60人から70人に半減していた。このような状況下で、同支部長は「AMDAの理念である相互扶助を実行している。必要としている人がいるなら、助けたい、援助の手を差し伸べたい、という気持ちで活動している。人の命は大切。このような時だからこそ支援するべき。」と考え、支部として同病院を訪れる患者に対する支援活動を実施した。



都市封鎖措置期間、診察代の支払いが困難な患者には150から200アフガニ(約250から300円)する診察代を無料にし、市場で高騰していたマスク、石鹸、手袋を配布した。並行して、病院を訪れる患者に家庭でできる感染予防を口頭で伝え、アフガニスタン公衆衛生省が発行する新型コロナウイルス感染症対策の紙を渡すなど、AMDAアフガニスタン支部は正しい情報の発信にも力をいれた。加えて、病院を訪れた新型コロナウイルス感染症疑いの患者は最寄りの政府系医療機関に紹介した。2020年度はのべ1,210人(内183人は政府系医療機関への紹介)を支援した。

 

カンボジア

状況

感染拡大の状況は続くも、9月には生徒数の制限や感染防止対策を講じるなどの条件下で一部の学校の再開を政府が許可。また、政府は市民にマスクの着用や手洗いの習慣化、アルコール消毒、ソーシャルディスタンスを推奨している。

 

1)コロナ禍におけるメンタルヘルスと看護に関するワークショップ

◇実施場所: 首都プノンペン

◇実施日: 2020年11月6日

◇現地での参加者を含めた事業チーム構成:

AMDAカンボジア支部リティ支部長、保健省関係者、国立病院関係者、学術関係者(登壇者)

◇受益者数: 100人



◇事業内容:

2020年11月、AMDAカンボジア支部は国内有数の看護学科を持つチェンラ大学と協力し、コロナ禍におけるメンタルヘルスの維持と看護師の新たな役割について論じるワークショップを開催した。この催しは対面とオンラインの双方向で行われ、それぞれ30人の学生と70人の学生からなる合計100人程度が参加。スピーカーには、保健省関係者、国立病院関係者、学術関係者が登壇して発表を行った。終了後、AMDAカンボジア支部は、大学で学ぶ看護学生には個人防護具を、大学には自動消毒液ディスペンサーなどを寄付した。