AMDAでは2011年からアジアへの有機農業技術移転を目的としたAMDAフードプログラムに取り組んでいる。
このフードプログラムの実践圃場の一つであるインドネシアスラウェシ島マリノ村に、2015年5月から9月まで約4か月に渡り、農業技術者であるAMDAスタッフ1名を派遣し、技術指導にあたった。
活動全体を振り返った報告を以下に紹介する。
プログラム実施の背景
2013年にインドネシアスラウェシ島マリノ村から有機農業の研修生2名をAMDA野土路農場(岡山県真庭郡新庄村)に招へいした。研修を終えた2名を中心に、2013年冬にAMDA有機農業の実践圃場をマリノ村に開所。その後フォローアップ研修として日本から技術者が3回、現地を訪問した。いずれも1週間から10日という短い期間の指導であり、限られた時間の中での指導が困難であることから、2015年5月から9月までの期間で、農業技術者であるAMDAスタッフ1名を現地に派遣し、技術指導にあたった。
技術指導の成果
(1)生育調査方法(パソコンを使った農業データ管理の方法を指導)
分析の結果、肥料の種類の違いによる収量の差はほとんどなく、収穫量に1番大きな影響を与えた要因は出穂期の水不足であることが分かった。パソコンの導入と操作方法の指導によりAMDAの現地職員がワード、エクセル、パワーポイントを使用して基本的なデータの収集と分析ができるようになった。
(2)収量調査(現行の目測ではなく、秤を導入して数値による収量調査を行う)
調査の結果マリノバトゥラピシ地区の米の収量はヘクタール辺り3~3.5トンであることが分かった。また、出穂前後期に灌漑水をコントロールし水田を水で満たすことでヘクタールあたりの収量を5トン程度まで収穫量を増やすことができる可能性が示唆された。さらに以前より慣習的にマリノで行われていた稲束を数える方法も行ったが、昨年の95束(精米した米に換算すると1束は1,5?)に対し今年は125束とおよそ45?、昨年に比べ30%の増収であったことがわかった。AMDAの現地職員に収量調査の方法を指導したことにより今後は現地の農家が直接収量調査と分析ができるようになった。
米を一粒ずつ数える地道な作業から米の収穫量や制限要因まで多くのことがわかることを伝えた。 以前はこの束を数えて、「今年の収穫は10バッセ」と数えるのが慣行であった。
(3)土壌調査(2014年に計測したデータと2015年のデータの比較分析)
土壌分析を行った結果、土壌中のミネラル集積量の改善が見られた。土壌成分の経時変化をデータ化したことによって有機栽培水田の土壌の肥沃度が向上したことが科学的に結論付けられた。
Feb 26 2014 | Nov 25 2015 | Aug 20 2015 | ||
pH | 6.2 | 5.8 | 6.01 | → |
C | 1.76% | 2.36% | 2.62% | ↑ |
N | 0.12% | 0.16% | 0.14% | → |
C/N | 14.2 | 14.5 | 19 | ↑ |
P2O5 | 14.2 | 11.5 | 12.6 | → |
Ca | 4.2 | 5.5 | 6.52 | ↑ |
Mg | 2.1 | 3.0 | 4.22 | ↑ |
K | 0.06 | 0.17 | 0.35 | ↑ |
Na | 0.28 | 0.27 | 0.56 | ↑ |
総イオン | 6.65 | 9.00 | 11.35 | ↑ |
CEC | 26.9 | 24.9 | 27.33 | ↑ |
水分 | 23.8 | 36.5 | 43 | ↑ |
【考察】
pHはほぼ横ばい。炭素が増加。窒素量は横ばい。C/N比は理想値20に近づいた。リン酸は横ばい。カルシウム増加。マグネシウムも増加。カリウムも増加。ナトリウムは増加。イオンの総量は増えた。CEC(陽イオン交換容量 保肥力)は増大。塩基飽和度は大幅に増加した。土壌中のミネラル類が増え、C/N比が高くなってきていることから有機物が増えていることがわかる。塩基飽和度が上昇していることから、土壌中にミネラルが蓄積してきていることが伺える。
マリノで有機栽培を始めてから、水田土壌にはミネラルが堆積し土質は改良されてきている。
(4)官能検査(お米の味はどのくらい美味しいか、以前とどう変化したかを評価)
官能検査の結果、市場で売られている普通栽培米と比較してマリノバトゥラピシ地区のAMDA農場の米の味はよりおいしいと結論づけられた。
また、AMDAマカッサルの市場で販売されている有機栽培米と比較しても品質は別段劣るわけではないと判断された。他所の産地のお米と食べ比べをするのは生まれて初めてという農家がほとんどだった。
(5)マーケットリサーチ
リサーチの結果、マカッサルにおける有機栽培米の販売価格は1キロ当たり平均30,000ルピア(日本円でおよそ300円)であること、また様々なパッケージデザインで販売されていることがわかった。リサーチの結果をまとめ地元農家に配布し情報共有したほか、販売されていた有機栽培米を数点購入し農家と共に試食を行った。食べ比べを行ったことで、農家は地元の米と他産地の米を比較し評価することができるようになった。
(6)販売促進活動
販売促進活動として有機栽培米のパンフレットの作成、パッケージの試作、有機栽培米の試食販売会を行った。その結果、有機栽培米のおいしさが評価され最終的に1Kg 30,000ルピアの値段で販売することができた。これは普通栽培の米を地元で販売したときに比べ3倍以上の価格である。また、各方面から注文が入ったため今年有機栽培米として生産した100kgの米を全て完売することができた。販売促進活動を行ったことでマリノの有機栽培米は味がおいしく、高い商品価値があることが確かめられた。
今後の課題
高い商品価値が確かめられたマリノの有機栽培米であるが、今回の販売では生産量の不足のため顧客の注文に全て対応しきれなかった。今後はいかに有機栽培米の生産量を増やし市場への安定供給をはかれるかが課題となる。具体的には米の生産組織を立ち上げ、販売計画をもとにした作付け計画、生産資材の共同購入、マカッサルへの輸送を共同で行う等である。また以下に米の品質向上(コクゾウムシ、胴割れ米やくろずみ米の混入を防ぐ)を図っていくかも今後の課題の1つである。