研修会に参加する林理事長(左)
AMDAが2015年に南海トラフ災害対応を念頭に、自治体、医療機関、企業、NPOなどとの連携を図り災害に備えるために立ち上げた「AMDA南海トラフ災害対応プラットフォーム」運営委員会委員長の林 秀樹医師(医療法人芳越会 理事長)にお話しを伺いました。
岩尾
この度、長年にわたり、徳島県、特に西部の救急医療の発展・向上に加え、地域医療提供体制の整備に貢献したとして、「令和2年度救急医療功労者厚生労働大臣表彰」を受賞されました。おめでとうございます。南海トラフ災害による甚大な被害が懸念される徳島において、貴法人が運営するホウエツ病院にヘリポートをご自身で整備し、訓練を企画するなど災害に備えた取り組みにも力を入れていらっしゃいますね。
林理事長
DMATとして訓練に参加した林理事長(左)
私が公益社団法人全日本病院協会の救急・防災委員になってから数年後の2010年、同委員会が毎年行っている救急災害訓練(徳島道でのバスと乗用車が絡む大規模事故を想定)をホウエツ病院で実施したことが、災害への取り組みを行うようになった最初のきっかけです。訓練の際には、徳島県、徳島県医師会、県内医療機関、消防、警察をはじめ、広域医療搬送も想定し、和歌山県の病院にもご協力いただき実施することができました。当医療法人の職員も訓練に参加したことで、防災・大規模災害に対する意識向上に繋がりました。
その訓練から1年後、東日本大震災が発生し、私もJMAT(日本医師会災害医療チーム)医療救護班として、災害発生から1か月後に宮城県石巻市に入り津波被害の甚大さを目の当たりにしました。これが2つ目の転機でした。ご存じのとおり、徳島は南海トラフ災害が発生した際には、深刻な被害を受ける可能性があります。被災地支援をきっかけに、地域連携による受援体制の整備など、現実に沿った新たな準備を進めていく決意をしました。人や物が集中する徳島県東部は沿岸部にあり、津波による壊滅的被害が予測されるため、徳島県西部地域の果たす役割は大変重要になってきます。毎年院内・院外での様々な訓練の実施や参加に、継続的に取り組んできました。2012年には徳島DMAT指定病院として指定されました。現在は災害時に備え、地域防災を担う多機関との「顔の見える関係」構築にも力を入れています。
徳島県美馬市には自治体病院や公的病院が無く、小規模の医療法人ですが、ホウエツ病院が2次医療機関として地域医療に取り組んでいます。高度な治療を必要とする患者さんが3次医療機関での治療を終え、自宅に戻ると自分で健康管理をしなければなりません。3次医療機関から直接、自宅に帰るのが難しい場合、患者さんはホウエツ病院のような、地域の2次医療機関に転院して、体調を整えてから自宅や施設に戻ります。高齢者が多いので、リハビリや栄養状態に気を付けています。加えて、地域のかかりつけ医や介護施設などとも連携し、入院治療が必要な期間、そこからの患者さんを一時的に受け入れます。このように、県内の様々な医療機関と連携しながら2次医療機関としての役割を果たしています。
岩尾
なぜ、ヘリポートをご自身で設置しようと決断されたのですか? ヘリポートの重要性もお聞かせください。
林理事長
知人からの紹介もあり、2002年にヘリポートを設置しましたが、その3年後には救急室の直前である今の位置にヘリポートを移転しました。ヘリでの短時間輸送により、重症度・緊急度の高い患者さんの救命率が上がります。徳島県の防災ヘリはすでに運用されていましたので、地域の患者さんの救命率向上と災害時の備えとして、ヘリポートを設置しました。未だヘリが救急医療搬送に使用される事が理解されず、造設は勿論、航空局認可まで全て自前で行いました。
徳島県でヘリポートを持つ初の医療機関となったホウエツ病院は、その3か月後、剣山登山中に滑落された患者さんを受入れる事から始まりました。ドクターヘリも運用される今では、年間80件程度対応しています。また、災害時には空路での傷病者受け入れ・搬送の中継地点、及び外部からの支援受け入れ拠点となることも想定されます。
岩尾
AMDAとの出会いについてお知えてください。
林理事長
ホウエツ病院の常勤医師であったさくら診療所の理事長、吉田修先生から、AMDAの緊急支援活動などのお話を伺いました。
2013年8月にAMDA菅波茂代表がホウエツ病院を訪問され、南海トラフ災害に備えた取り組みを始めるにあたって協力してほしい、と依頼があったことが、AMDAと関わることになったきっかけです。それから、徳島県、県内自治体、阿波銀行、徳島県医師会など地元とAMDAとの連携に関わってきました。これからもAMDA南海トラフ災害対応プラットフォーム運営委員会委員長として、地域連携をはじめとした活動に尽力していきます。
岩尾
現在は、どのような想いで活動されていますか?
林理事長
日本は地方の7割近くが過疎になる可能性があり、このままでは田舎がなくなってしまいます。地域に医療機関がなくなると人口減少に拍車がかかります。皆が安心して地域に住み続けられるよう、地域の医療機関と共に私たちのような2次医療機関も存続しなければなりません。災害時に備え、地域の医療機関、行政、消防など他機関連携も大切です。これらがあってこそ、災害時の対応や外部支援の受け入れもスムーズに行えます。ひいては、復興期に地域が早期に立ち直ることにも繋がります。人財確保というハードルはありますが、これからも地域と一緒に皆が暮らしやすく、安心して住める環境に貢献していきたいと思っています。
災害支援に興味のある医療者の方、ぜひホウエツ病院で一緒に働きませんか?