インド視察記-5〜分業体制の慣習化〜(2019/11/4〜19) – AMDA(アムダ)
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特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

インド視察記-5〜分業体制の慣習化〜(2019/11/4〜19)

AMDAグループ代表 菅波 茂


衛生教育を行う
AMDAピースクリニックスタッフバビータ氏

2019年11月13日午前11時。日本-インド友好医療センター(AMDAが行うブッダガヤでの活動を一緒に行っている)の敷地内で、隣に位置するダンプール村の人たちに、日本インド友好医療センターの敷地の隣人であるラジェッシュ氏の主宰するエコラス・デ・ラ・テレ福祉団体と共同で、衛生教育を実施しました。講師はAMDAピースクリニックのスタッフであるバビータ氏です。インドの人は人前で話すことを日本人のように恥ずかしがりません。聴衆がざわめいていようとなかろうと気にすることなく堂々と話します。彼女はAMDAピースクリニック内では非常に謙虚にふるまう人です。その差にびっくりしました。

よく言われていることですが、「国際会議ではいかにインド人の発言過多を抑えて、日本人の発言を促すかがポイントである」と。これをどのように考えるのか。インド人の言葉を用いた積極的表現方法はインドの多様性に富んだ環境においては当然のことと思いました。

ダンプール村の人たちはインドのカースト制度の最下位の不可触選民の中でも更に最も低いマンジと称されている人たちです。本当に貧しい人たちです。大人たちと異なって、子ども達は全く頭髪の手入れをしていません。伸び放題のぐじゃぐじゃです。髪の毛に櫛をあてたことも無いようです。

一方、大人たちは色とりどりのサリーを身にまとっています。あまりにもカラフルなので貧困の中にいる人たちではないと錯覚をしてしまいそうです。衛生教育を村の人たちのためにしてあげているという気持ちは反感を買います。その貧困に対して何をしてあげるのか。その気持ちが接触の第一歩です。今回はお菓子を提供しました。「明日の説教よりも、今日のご飯」が真実の世界です。その上での衛生教育の知識と知恵です。ちなみに、ダンプール村の人たちが住んでいる土地は政府からの無償提供地です。
日本-インド友好医療センターにとって、隣人である彼らが味方になってくれるのか否かは誠に重要なことです。私たちの現地顧問であるヴェーダ氏の助言により、毎年、日本-インド友好医療センターの記念日を設定し、世帯ごとに毛布を1枚プレゼントする計画をしました。毛布1枚が400円(約280ルピー)。約25世帯ですから合計1万円の経費です。私はもっとお金をかけても良いと思ったのですが、地元を知り尽くしているベーダ氏の助言に従うことにしました。「与えすぎるのは良くない」と。更に、「何回かに分けてするほうが喜びかつ感謝される」と。ちなみに、ヴェーダとはサンスクリット語で「智慧」の意味です。


集まったダンプール村の人々


AMDAからお菓子を提供

日本-インド友好医療センターの敷地の広さは約4千m2です。現在、建物は設計段階です。村の人たちにとって、空き地になっている医療センターの土地は垂涎の的であるとのこと。とりあえず、ダンプール村の人たちに野菜を栽培してもらい、更に母親たちにその野菜を料理してもらって、子ども達の栄養指導に活用する計画です。

ただし、医療センター内にある事務所のキッチンやトイレは使用禁止にします。まだ村人の衛生知識にもとづく行動様式が十分でないからです。インドの田舎の学校では教師用のトイレは施錠されており、教師専用の状況があります。トイレの掃除は特定のカーストの仕事であり、その他のカーストの人たちがトイレ掃除に公に関与できない事情もあります。例えば、AMDAピースクリニックの生垣の前に犬の糞があっても、クリニックのスタッフは誰も片付けようとしません。平気なのです。日本人には耐えられません。仕方なく、日本人スタッフがきれいに処理しました。ただし、インド人スタッフが自分の家の中を掃除するのは問題ないとのことでした。カースト制度にもとづく分業システムの慣習化は恐そるべし。日本人が無意識にインド社会のタブーを犯す可能性があります。


日本-インド友好医療センターの敷地


敷地内にある事務所

昨年、飲料水、シャワーそして洗濯のためのポンプを設置したことを村の人たちは非常に喜んでくれています。3ケ月前の8月に訪問した時に、多数の死者が発生している酷暑にもかかわらず、配電盤の故障を電力会社が放置していたために、このポンプが作動していませんでした。私たちの顧問になってくれた、元ビハール州警察長官のボルドワージ氏が電力会社に直接、電話をすることによって、翌日には配電盤を取り換えてくれました。ところが、その配電盤が中古製品のためにすぐに故障。再び取り換えることになりました。漫画のような経過でした。ダンプール村の人たちは理不尽さにじっと耐えることしかできない社会的立場の人たちです。

ところが、ラジェッシュ氏が警告をしてくれました。私たちが警察と非常に親しい間柄を見せると、ダンプ―ル村の人たちが私たちに警戒心と恐れをいだくから気を付けたほうが良いと。日本の警察は市民警察とも称されるほど市民に親しみを持たれています。しかし、インドではその逆とのこと。ボルドワージ氏が特別な存在であると認識しました。ボルドワージ氏は私に本当のことを教えてくれます。ボルドワージ氏にはAMDAインターナショナル顧問と同時に日本-インド友好医療センターの財務顧問になってもらおうと思います。


壊れた配電盤

私は幸せ者と思っています。ボルドワージ氏を筆頭に、ヴェーダ氏やラジェッシュ氏のように嘘偽りのない助言をしてくれる現地の人たちに恵まれているからです。ダンプール村の人たちがいつの日か本音で接してくれる日が来ることを楽しみにしています。何故なら、AMDAを支援してくれている人たちの大切な募金が生きたお金として動き出すからです。

ここはブッダガヤ。お釈迦様が悟りを開かれた地です。「功徳とは他人に喜んでもらうこと」との教えです。現地の人たちが喜んでくれることを現地の常識の範囲内で積み重ね続けたい気持ちです。