ネパール支部とインド支部訪問記(3)〜第34回アジア大洋州医師会連合インド総会(1)〜 – AMDA(アムダ)
救える命があればどこまでも
特定非営利活動法人アムダ
国連経済社会理事会総合協議資格NGO

ネパール支部とインド支部訪問記(3)〜第34回アジア大洋州医師会連合インド総会(1)〜

AMDAグループ代表 菅波 茂


第34回アジア大洋州医師会連合(CMAAO)
総会で発表する筆者

2019年9月5日-7日、インド連邦共和国で開催された第34回アジア大洋州医師会連合(CMAAO)総会に参加し、7日の午前中に「世界災害医療プラットフォーム構想」を提言しました。骨格は国連機関-各国政府-世界医師会-NGO/NPO-大学-公益団体-企業の7者連携です。具体的に内容を説明します。

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2017年11月、当時の横倉義武世界医師会長(日本医師会長)に世界医師会災害医療ネットワーク構想を提案し賛同を得ました。その後、2018年4月の世界医師会リガ理事会(ラトビア)において、先ずはCMAAO域内におけるネットワークの構築を世界医師会から日本医師会に要請されました。私たちAMDAは59の国と地域で200件以上、難民や災害被災者のための医療支援を行ってきました。その経験をもとにした答えが「世界災害医療プラットフォーム構想」です。2020年からは具体的に実施することができると思います。

さて、21世紀は気候変動による災害が多発する時代となりました。従来の地震などに加えて水による洪水や山崩れなど、が特徴です。更に著明な酷暑や寒冷による人的被害も注目に値します。


第34回アジア大洋州医師会連合(CMAAO)
総会の様子

災害医療と救急医療の違いは決定的です。医療行為を支えるロジスティックの有無です。災害医療とは医療設備のない場所において、多くの被災者に少数の医療スタッフで対処。救急医療とは整った医療設備を利用し、少数の患者に、恵まれた数の医療スタッフで対処します。災害医療は災害後の医療機関の復興を視野に入れますが、救急医療には不必要です。災害医療の神髄は「備えあれば憂いなし」ではなく「憂いなければ備えなし」です。

大規模災害に備えた災害医療の体制づくりを急ぐ必要があります。世界災害医療プラットフォーム構想を提唱したく思います。国連機関-各国政府-世界医師会-NGO/NPO-大学-公益団体-企業の7者連携です。災害医療能力を飛躍的に向上させると確信しています。

次に具体的に7者連携について説明します。

1)国連機関

国連諸機関に期待することは1)情報提供、2)政策提言、3)調整です。

AMDAは国連経済社会理事会総合協議資格認定NPOです。2006年に取得しました。137番目でした。日本のNGO/NPOでは初めての団体です。2019年の現在でも140位と思います。この総合協議資格を使って、世界医師会と共同で、下記の関連する国連諸機関に積極的に災害医療に関する政策提言をすることも考えています。

1)国連人道問題調整事務所(OCHA)
2)世界保健機関(WHO)
3)国連国際防災戦略事務局(UNISDR)
4)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
5)国連教育科学文化機関(UNESCO)

2)各国政府

政府に期待することは1)許可(ビザ発給を含む)、2)安全保障、3)ロジスティック及び人材派遣です。

1999年9月。台湾中部で地震が発生。AMDAが派遣した医療チームは福岡空港から台北空港に到着すると、軍のヘリコプターで山間部の被災地に搬送。直ちに診療活動を行いました。災害医療では医療チームの被災地への搬送が最も大切です。政府だからできたことです。


郊外で海軍と一緒に活動を行ったAMDAチーム

2013年11月。台風30号(フィリピン名:ヨランダ)がフィリピン共和国レイテ島を含むビサヤ諸島を襲いました。レイテ島にある州都タクロバン市では水も食糧も医療品も無い状況が続きました。治安が急激に悪化しました。

海外から州都タクロバン市に集結した緊急医療チームもタクロバン市郊外で被災者を診療できませんでした。郊外の山間部には反政府の武装勢力がいたからです。AMDAには、フィリピン開発アカデミとの協定により、海軍から護衛として1ケ小隊が派遣されました。この護衛のお陰で郊外の被災者の診療を危険のない夕方まで続けることができました。

アジアでは最近になって海外からの医療支援活動を辞退する災害被災国々が増えてきています。被災国に支部や提携団体のない海外の団体の単独による被災者支援活動が困難になってきています。

3)世界医師会

世界医師会に期待することは1)医師免許の確認、2)ローカルイニシアチブ(現地主導)とネットワーク、3)人材派遣です。

世界の災害医療対応の基本として被災国の医師の下での医療活動が必須となります。被災国における海外からの医療支援に関しては、20世紀のように、人道支援の大義のもとの活動が無条件には認められなくなっています。2006年2月。フィリピン共和国のレイテ島南部で豪雨による山の大規模地すべりが発生。ふもとにある村の1000人以上が生き埋めになりました。AMDAは南レイテ医師会の医師のもとに医療活動を行いました。なお、災害多発国のフィリピンではフィリピン医師会末端の支部の会員がボランティアとして災害医療活動に参加しているのには本当に感動しました。

2015年4月。ネパール連邦民主共和国に大地震が発生しました。ネパール医師会と災害被災者の精神的トラウマを改善するための人材養成プラグラムを行いました。


ネパール医師会と行った人材養成プログラム1


ネパール医師会と行った人材養成プログラム2

4)NGO/NPO

NGO/NPOに期待することは1)ローカルイニシアチブ(現地主導)、2)人材派遣、3)経済的支援です。


2008年四川省地震救援活動で
手術をするAMDA医療チーム

2008年5月。中華人民共和国の四川省で大地震が発生。四川省政府はAMDAの医療チーム派遣受け入れに関して3つの条件を提示しました。1)北京語が話せる、2)中華人民共和国の医師免許の保有、3)外科医か整形外科医。台湾支部に事情説明をしました。台湾支部はNGOである台湾私立病院・診療所協会に相談。直ちに、30数名からなる医療チームが、AMDAの名のもとに、四川大学華西病院に派遣されました。被災地から骨折などの重症患者がどんどん搬送されており、病院の医療スタッフは昼夜を問わず治療を行っていました。AMDA医療チームは大歓迎されました。

NGOと政府が連携したもう一つの事例を紹介しておきます。

1998年、AMDAはタリバン政府公共福祉大臣と、北部同盟外務副大臣を別々の時期に日本に招待しました。目的は「アフガニスタンのすべての子ども達のワクチン接種をするまでは停戦をする」ワクチン停戦のためです。両者ともにAMDAと調印をしました。この時に外務省が両者と接触したことが、2002年1月に日本政府が東京で開催したアフガニスタン復興支援国際会議へとつながりました。


ワクチン停戦締結・タリバン政府


ワクチン停戦締結・北部同盟

5)大学

大学に期待することは1)人材派遣、2)調査と研究、3)人材教育です。


スマトラ沖地震・津波被災者救援活動

2004年12月。インドネシア共和国スマトラ沖大地震と大津波が発生しました。AMDAインドネシア支部を中心に海外のAMDA支部10ケ国から100名以上のメンバーが参加しました。一方、AMDA支部と連携しているスラウェシ島にあるハサヌディン大学は300名以上の医療スタッフを派遣しました。大学の医療スタッフ動員の底力を感じました。

2015年4月。ネパール連邦民主共和国に大地震が発生しました。AMDAはトリブバン大学教育病院と被災地の巡回診療を実施しました。同じく豊富な多くの優秀な人材を持っています。

6)公益団体

公益団体に期待することは1)人材派遣、2)ロジスティックス、3)経済的支援です。

2008年5月。ミャンマー連邦共和国ヤンゴンやイラワジデルタでサイクロン・ナルギスによる洪水が発生。AMDA医療チームは保健省と協力して避難者医療活動を実施しました。多くの被災者が仏教寺院に避難していました。仏教寺院のソーシャル・セイフティ・ネットワークとしての役割を理解しました。

2018年8月。インド連邦共和国ケララ州における大規模な大洪水による被災者救援活動ではセワバルティと地元のチェンガヌールロータリークラブと連携しました。セワバルティはインドの各地に支部のある巨大なNGOです。そのロジティックスのすばらしさには感動しました。スローガンは「人々のため」です。世界各国のロータリークラブには医師や歯科医師をはじめとして様々な職種の人たちが会員です。ロータリークラブの地域におけるヒューマンネットワークは本当にすばらしいと認識しました。


サイクロン・ナルギスでは寺院などの
避難所を拠点に医療支援活動を行った


インド・ケララ洪水で一緒に活動した
セワ・バラティとAMDA合同医療チーム

将来的には、同じ国連経済社会理事会総合協議資格認定団体として、ロータリーインターナショナルやライオンズインターナショナルと災害支援協定を結びたいと考えています。

7)企業

企業に期待することは1)現地・被災地情報、2)ロジスティック、3)経済支援です。


西日本豪雨災害で瀬戸健診クリニックから
無償貸与いただいた健診車

企業の社会貢献は20世紀にはじまりました。21世紀にはますます企業の良心として問われることになります。企業は雇用している現地の人たちのためのみならず、被災者のための社会貢献としての大きな意義をアピールできます。その活動を必ずメディアを通して被災国の人たちに知ってもらうことが良心のある企業としての広報になる時代です。

企業との連携において、企業に対して次の3点を共有することができます。1)直接に被災した企業に対して医療支援と物資支援の提供。2)災害支援協力企業としてメディアに謝礼広告として掲載。3)7者連携ネットワークへの紹介と参加。

以上の7者連携にもとづいて、第一段階はアジア大洋州における世界災害医療プラットフォームのモデル形成をしたい。理由は世界の富がアジアに東漸しているからです。同時に、相互扶助、パートナーシップに加えてローカルイニシアチブの3つのコンセプトが共有できるからです。

アジア大洋州モデルの形成に成功後の、第2段階は中南米地区です。第3段階は中央アジアから中近東のイスラム地区です。第4段階はアフリカ地区が対象になります。北米と欧州は既に軍を中心とした災害医療対応システムが整備されていると考えます。

なお、7者連携の実効性と確実性は各国における小規模の災害医療対応能力の向上の積み重ねです。即ち、信頼関係の構築と拡充こそが日常的に行われなければいけません。その信頼関係が各国を襲う大規模災害の時に発揮されると信じています。

世界災害医療プラットフォームが、アジア大洋州版において、災害に対応して被災者に対する災害医療を確実に、そして有効に実施することにより次の3点を達成することが期待されます。1)各国の医師や医学生にとって災害医療が常識となります。2)医師会の存在が公益を超えて公共的存在になります。3)世界医師会が、国連機関-各国政府-世界医師会-NGO/NPO-大学-公益団体-企業の7者連携のイニシアチブを発揮することになります。

日本は「災害のスーパーマーケット」と比喩されていますが、災害対応のモデル形成に成功しています。災害に対する最高の対応は災害から逃げ切ることです。方法論としては、早期警報、避難場所指定、避難方法、避難所生活物資備蓄、避難所生活計画などです。現在では、誰でもが持っている携帯電話を活用した早期警戒通知を個人に直接、連絡ができます。なお、日本医師会は災害医療チームとしてJ-MATの設立と運営に豊富な経験を積み重ねています。自衛隊、厚生労働省のDMATと共に日本の災害医療における重要な役割を担っています。

世界災害医療プラットフォームアジア大洋州版の事務局をAMDAに設置して、日本医師会と密接な連携のもとに、アジア大洋州地区における災害医療の実績づくりを推進できれば幸いです。