HIV感染症の病態生理
HIV-1に感染すると、HIV-1の構造蛋白や調節蛋白に対する抗体産生が誘導される。ケニアの売春婦に対して行われた研究調査で、HIVに感染しない者が稀におり、HIV-1に対して中和作用をもつ抗体を産生する場合もあることが分かった。その他の中和抗体価は個人差が激しく、また抗体価の高くても臨床的に防御作用へはつながらない。
HIV-1は、T細胞のうち、CD4+細胞(ヘルパー/インデューサー)を主要な標的細胞免疫細胞とする。その結果、免疫システムに多様な異常が発生し、HIV-1感染が進行すれば、B細胞が刺激されて高γグロブリン血症が起こり、自己抗体や免疫複合体が出現する。さらに、白血球や血小板の減少が顕著となる。
経時的症候
感染後まもなくウイルス血症が起きて、p24抗原が陽性となる。これは、3〜12週以内に、抗HIV抗体の検出と共に陰性化する。この頃、CD4+Tリンパ球は正常下限の半分以下(500〜600/μl)まで低下していることが多い。
抗HIV抗体の出現時期に一致して、急性症状を呈する例があり、これが最初の自覚症状となる。
1.急性症状
頭痛、発熱、関節痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、咽頭痛といったインフルエンザ様症状があり、発疹を伴うことがある。稀に無菌性髄膜炎が発症し、髄液からHIV-1が分離される。この急性症状は2〜4週間で自然に消失し、無症候期に入る。
2.無症候期
数年から十数年間無症状で経過する。しかし、この間もCD4+Tリンパ球は減少を続けており、その数値は臨床経過を評価する良い指標となる。
3.持続性全身性リンパ節腫脹(Persistent Generalized Lymphadenopathy, PGL)
無症候性キャリアの経過中に、軟性のリンパ節腫脹が見られる場合がある。「鼠径部以外の2か所以上の部位に、直径1cm以上のリンパ節腫脹が3か月以上にわたって持続すること」が診断基準。
4.エイズ関連症候群(AIDS-Related Complex, ARC)
AIDS発症の診断基準は満たしていないものの、AIDSに関連する臨床症状のあるものを包括してつけられた症候群。
体重減少、発熱、下痢、PGLなどの比較的軽微な臨床症状と、白血球減少、リンパ球減少などの検査値異常で判定する。エイズ発症の前段階と云える。
5.エイズ
細胞性免疫不全が悪化して、HIV感染に因る日和見感染、悪性腫瘍、痴呆症状、消耗性症候群が出現すれば、エイズの発症と診断する。
エイズ発症と判定する二次性疾患
日和見感染症 | 悪性腫瘍ほか |
トキソプラズマ症 | Kaposi肉腫# |
イソスポラ症 | 浸潤性子宮頚癌* |
ニューモシスチス・カリニ肺炎 | 非Hodgkinリンパ腫 |
糞線虫症 | 原発性脳リンパ腫 |
ヒストプラスマ症 | 慢性リンパ性間質性肺炎 |
クリプトスポリジウム症 | エイズ痴呆症候群 |
カンジダ症 | HIV消耗性症候群 |
クリプトコッカス症 | |
結核 | |
非定型抗酸菌症 | |
反復性肺炎* | |
単純ヘルペスウイルス感染症 | |
サイトメガロウイルス感染症 | |
進行性多巣性白質脳炎 |
* 1994年より追加されたもの
#ヘルペス8型ウイルスの関連が示唆されている
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