診断 [後天性免疫不全症候群]
AIDS発症のマーカーとなる病変として,以下の疾患群を挙げることができる.
A.HIV感染による日和見感染症
原因菌の基本的病原性は低いが,細胞性免疫不全があるので重い病状を呈する.治療には長期間を要し,一時軽快しても再発しやすい.CD4+Tリンパ球は200/mm3以下に減少している.
日和見感染症 | 臨床的特徴と対応 | 治療薬 |
結核 | ・薬剤耐性結核が深刻な問題 ・熱帯では頚部リンパ節、腸管、播種性結核が多い |
・INH、RFP、EB、SM KM、TH、CSなど |
カンジダ症 | ・口腔や食道を主病変とする粘膜性カンジダ症 ・口腔カンジダ症では口腔粘膜に径5〜10mmの有痛性白斑 ・口腔カンジダ症があり、嚥下時に胸骨裏面に痛めばカンジダ食道炎と診断 |
・ケトコナゾール ・フルコナゾール ・アムホテリシンB |
クリプトコッカス症 | ・髄膜炎の他、蜂巣炎、播種性クリプトコッカス症を起す | ・アムホテリシンB ・フルコナゾール |
非定型抗酸菌症 | ・MAC等による菌血症や全身性播種 | ・結核に同じ |
ニューモシスチス・カリニ肺炎 | ・熱帯では先進諸国ほどの合併頻度をみない ・HIV-1抗体陽性で、運動時の呼吸困難、乾性嗽咳があれば疑診 ・胸部X線写真で両側びまん性間質影があり、抗生剤無効なら治療開始 |
・ペンタミジン ・コトリモキサゾール |
トキソプラズマ症 | ・脳圧迫による局所性神経症状や脳炎による意識障害 ・急速な進行で、症状は数日で悪化 ・頭部CTが可能であれば、ring enhancementを伴う複数の病巣を確認 ・SP合剤やST合剤(コトリモキサゾール)を直ちに投与 |
・サルファドキシン+ ピリメタミンまたは トリメトプリム合剤 |
サイトメガロウイルス感染症 | ・サイトメガロウイルス網膜炎は末期に好発し、失明の原因 ・肺炎による呼吸困難、腸炎による下血もしばしば見られる ・副腎炎で副腎の90%以上が破壊されれば、Addison病様の症状を呈す |
・ガンシクロビル |
単純ヘルペスウイルス感染症 | ・同性愛男性の肛門周囲に多くみられる ・粘膜・皮膚に1か月以上にわたって潰瘍を形成 ・稀に気管支炎,肺炎,食道炎を起こす |
・アシクロビル |
真菌感染症 | ・風土病性の日和見感染症 ・米国ではヒストプラズマ症、コクシジオイデス症が有名 ・タイではペニシリン・マニフィライ菌性皮膚炎が知られている |
・アムホテリシンB ・イトラコナゾール |
原虫感染症 | ・皮膚粘膜リーシュマニア症は地中海沿岸に見られる合併症 ・クリプトスポリジウム症(治療薬なし)とイソスポラ症は致死性の下痢を起す |
・ペンタミジン ・コトリモキサゾール |
Kaposi肉腫 | ・ヘルペスウイルス8型が原因とされる ・同性愛の早期男性患者に好発 ・顔面、口腔内ほか全身の皮膚粘膜と内臓に発病 ・皮膚粘膜病変は赤紫色楕円形の境界鮮明な斑や丘疹で圧迫しても退色なし ・初期は無症状で、進行すると局所の痛みや病肢のリンパ浮腫をみる |
・アシクロビル |
非Hodgkinリンパ腫 | ・EBウイルス(Epstein-Barr virus)が腫瘍化の要因 ・B細胞リンパ腫で、未分化大細胞型 ・脳、肝、消化管、骨髄などリンパ節以外の臓器に好発 ・頭部CTでring enhancementを伴う境界不鮮明なびまん性病巣 ・神経・精神症状の進行は緩徐だが、予後不良 ・熱帯地域ではプレドニゾロン以外に治療薬の入手は困難 |
・COP療法 (CTX+VCR+PDN) ・CHOP療法 (COP+ADM) ・BACOP療法 (CHOP+BLM) |
進行性多巣性白質脳症 | ・パポーバウイルス科( Papovaviridae )に属するJCウイルスが原因 ・白質の選択的な破壊が起こり、病巣局所に対応する神経症状が見られる |
・治療薬なし |
エイズ呆症候群 | ・認識障害、記憶障害、自発性や意欲低下が主徴の痴呆 ・歩行障害や失禁も加わり、末期には寝たきりの状態となる |
・抗HIV薬 |
HIV消耗性症候群 | ・持続性または間欠性の発熱や慢性下痢 ・HIV感染以外に原因が特定出来ない、30日以内に10%以上の体重減少 |
・同上 |
抗生剤の略号
INH:イソニアジド、RFP:リファンピシン、EB:エタンブトール、SM:ストレプトマイシン、KM:カナマイシン、TH:エチオナミド、CS:サイクロセリン
抗腫瘍薬の略号
CTX:サイクロフォスファミド、VCR:ビンクリスチン、PDN:プロドニゾロン、ADM:アドレアマイシン、BLM:ブレオマイシン
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