結核の検査と診断


 結核は世界中に見られる伝染病であり、死亡率の高い疾病である。そのため、病院を受診する者以外に、集団検診や巡回診療を行なって、積極的に感染者を探し出す必要がある。

ツベルクリン反応
 結核のスクリーニング検査として、ツベルクリン反応(英語ではMantouxテスト、またはPPDと呼ばれることが多い)、胸部レントゲン、それにZiehl-Neelsen染色による喀痰検査が一般的。ツ反は結核治療や予防内服の是非を判定する際によく利用される。熱帯地方では、感染性結核患者と濃厚な接触がある者ばかりでなく、HIV感染者、薬物中毒患者、矯正施設収容者(囚人など)にも日常的に検査したい。胸部X線と喀痰検査(検鏡・培養)は、特に結核が浸淫している地域で有用となる。
 ツ反の一般的な手技は、PPD液0.1ml(5TU)を前腕部内側の皮内に、6-10mmのマメを作るように注入する。判定は48-72時間後に行なうが、短径や発赤も計測する日本の判定法を海外で用いるべきでない。硬結の長径のみをmm単位で記録する。実際、黒い皮膚では発赤が判定できない。熱帯でのツ反陽性の判定は、被検者の健康状態に大きく影響される。判定の解釈に当たっては、特にBCGの接種歴やHIV感染の影響を充分考慮に入れること。なお、ツ反陽性は結核の確定診断ではないことに注意。結核患者の10-25%はツ反陰性である。

5mm以上で陽性判定 10mm以上で陽性判定 15mm以上で陽性判定 アネルギーを起す基礎疾患
感染性結核患者と濃厚接触 4歳未満の被検者 全ての被検者 粟粒性結核
胸部X線で過去の結核疑い 収容施設の長期滞在者 HIV感染症
HIV陽性者 ホームレスや難民 麻疹百日咳
薬物乱用者(HIV感染未定) 薬物乱用者(HIV陰性) サルコイドーシス
ホジキン病
生ワクチン、ステロイド投与
回旋糸状虫症

 アネルギーはCD4+Tリンパ球値が200/μL未満で発生しやすい。高熱やアネルギーを起す基礎疾患を有する者では、さらに慎重な判断が必要。また、結核感染後長期間が経過した者には、PPDに対する遅延型反応が減弱しており、ツ反が陰性となる場合がある。引き続き検査を行なうと、今度は陽性となり、新しい感染と誤って解釈されることがある。BCG接種の記録がなければ、解釈はさらに難しくなる。出来れば、ツ反の初回陰性者は1-2週間後に再検査を受けるのが望ましい。

結核の診断
 熱帯地方での結核の診断は様々な制約があり、難しいことが多い。基本的には病歴、現症、ツ反、胸部X線、細菌学的検査(塗沫検鏡と小川培地やLowenstein培地を用いた喀痰、胃液、尿、髄液などの培養)を総合して臨床診断されるべき。熱帯でも結核の確定診断は、あくまでもM.tuberculosisの証明である。血痰のある症例では、肺癌や肺吸虫症を喀痰の細胞診や虫卵検査で必ず否定すること。
薬剤耐性菌の情報は特に重要なので、現地の保健医療当局へ連絡したい。熱帯の現場で実施する諸検査の要点は以下の通り。

病歴・既往歴 -結核の既往や曝露歴
-HIV感染や薬物中毒などの危険因子
主訴・症候 -発熱(微熱が多い)、寝汗、体重減少、易疲労感
-肺結核では持続性の咳、胸痛、血痰が重要
胸部X線 -正面像だけでは肺尖部や後背部の病変を見落とす
-4歳児までは肺門部が大きく、誤診される事あり
-HIV感染者では非典型像がしばしば
喀痰検査 -最終結果は最低3回検査して決定
-痰が出せない者や小児では、胃液採取を考慮
-喀痰誘出介助時に感染するスタッフが多いので注意
培養検査 -判定に6-8週間かかり、全例に適応困難
-陽性例ではINH耐性を検査(INH溶液を寒天上に滴下)
-薬剤耐性株は保健当局に検体送付すべき



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