予防は長期間有効な予防接種による。予防接種は麻疹の根絶に向けた最大の手段でもある。
麻疹ワクチン:何種類かのワクチンが実用化されている。
弱毒生ワクチンはEdmonston B 株をもとに1958年に開発された。このワクチンはEdmonston
という患者から分離された麻疹ウイルスから調製され、細胞培養を何回か繰り返して弱毒化した。有効なワクチンだが、副作用(発熱、発疹)を生じた。
不活化ワクチンは、Edmonston 株のワクチンなどを、ホルマリンまたはTween
Ether ヘマグルチニンで不活化したものである。このワクチンは副作用を殆ど示さないが、熱帯地方では効果が不十分なことと、1ヵ月おきに3回皮下注射をし、さらに追加投与も必要なため、同地では使用されない。
弱毒強化生ワクチンは最もよく利用されるワクチンである。Schwarz
株 (Rouvax*)はEdmonston B 株を、鶏卵胚のファイブロブラストで繰り返し細胞培養して作ったものである。この新しいワクチンの利点は、熱帯地域で唯一実用に耐える点である。皮内注射を1回すればよく、注射針を必要としない。副作用は許容範囲内で、注射により時おり生じる副反応も常に軽微(熱発は4-15%、発赤は3-27%)である。唯一の禁忌は、他のウイルス生ワクチンとの併用である。本型の有効性は顕著で、ワクチンを厳格な条件下で使用した場合、抗体出現と予防効果はほぼ100%の症例に見られる。以前このワクチンは、母体由来の抗体の影響を考慮して、1才以降の者に有効と考えられていた。この不都合を解消し、麻疹の症状が最も重篤な乳児を予防うるために、死菌ワクチンを生後6−9ヵ月と18ヵ月の2回、接種することが勧められた。近年の研究では、4−5ヵ月目で接種しても抗体出現が十分得られることが、取り分けAIK-C
株(96%)とEdmonston Zagreb株(94%)で明らかとなった。予防効果は10日ほどで出現し、少なくとも10年間、恐らく一生持続する。一番の問題点は価格が高いことで、麻疹が深刻な国々では、外部からの援助なしに購入することは難しい。ワクチンは保管に細心の注意を払わないと、容易に変質する。新型の安定度の高いワクチンは、+4℃で数か月間、20℃の遮光下で数週間、保存出来る。
予防接種の方法:熱帯地方では、麻疹ワクチンは拡大予防接種計画(EPI)の中で適用されている。弱毒生ワクチンが利用され、この際、黄熱、破傷風、BCGワクチンも同時接種が可能である(コレラワクチンとは併用出来ない)。
地域から麻疹を撲滅するためには、感受性のある者の90%に予防接種をしなければならないが、浸淫度が低い地域で罹患率を下げるには、最低60−70%の接種でよい。ワクチンの接種率を上げるためには、予防接種を無料で強制的にしないと、なかなか上昇しない。特に感受性が生じる生後6ヵ月以降の小児には、定期的な予防接種が不可欠である。都市部では予防接種運動は半年おきのペースで進める。農村部では実施上の都合があっても、年に2−3回は施行する。
予防接種の結果と問題点:何よりもまず、麻疹はヒトにだけ感染し、感染力のある期間も短いこと、また有効なワクチンが利用できることから、容易に撲滅される筈だった。しかし、実際に得られた結果は、期待外れに終わっている。感受性のある集団全体への接種が失敗していること、乳幼児へのワクチン接種がうまくいかないことにより、一時的な発病率の低下にすら至っていない。接種運動を中止すれば、再び麻疹が発生する。予防接種運動が途絶しないようにするには、多額の国家予算を投入することが必要であり、海外からの援助(ODA)
がこれを実質的に負担軽減している。
有効性のある麻疹ワクチンも、高価で入手出来るか不確実な代物である。熱帯諸国で生存率を明確に上昇させるためには、麻疹を経済先進国のと同じくらい、良性の疾患とするしかない。
このページはAMDA学術委員会により作成されました。