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予防
一般的な衛生上の方法:コレラ対策に必須の手段である。衛生状況が良好な国では、コレラの危険性は限られるが、それが不十分な国では、その危険性は極めて高い。軽症例や不確実な症例、或いは突発的な流行の後では、この方法では予防は不可能である。水または食品を介しての人間同士の伝染が優位な場合、個人の予防が基本となり、次いで環境が問題となる。主要な手段として衛生化を進めておけば、流行に見舞われた際に、そこだけが被害を免れる。伝染の危険がある個人や集団を保護することも肝要の一つである。
アフリカでの経験から明確となったこととして、発生地域の厳重な封鎖、患者の隔離、死体の火葬または監視下の埋葬、消毒(塩素、フェノール、クレゾール、石灰など)は、流行の発生時に治療や政治的な対策と協調して、衛生上の活動として必要になる。治療に当たる者は自己の予防だけでなく、病原菌を拡散しないよう注意を怠らない(白衣や長靴、マスクの着用、石けん・アルコール・ Javel液を用いた消毒)。パニックに陥った患者、接触者、疑診者が逃亡したり、死体の運搬が放棄されたりしない様、十分配慮する。
ワクチン:有効性の判定が問題となっている。ワクチンによる免疫は不十分で、1回の注射で50%、2回の注射で60%の者が予防されるに過ぎず、その期間も理論的には6ヵ月、実際には3-4ヵ月に留まっている。従って、個人の予防には殆ど寄与せず、集団の予防に対しても、菌の保有期間を短くしたり、菌の拡散を妨げることはないため、効果には限界がある。かつて、流行時のコレラ患者が50%減少する、とした結果は無視されるほどの例外で、アフリカでの防圧対策に関わった医師たちの見解は、一般的なワクチン接種は1つの流行の兆しを止める力となる、というものである。つまり流行中は定期的にワクチン接種を続けなければならないわけで、しかもこの方法では遠くに疾病が伝播するのを抑えることは出来ない。ワクチン1ml中には死滅した菌が1-10億含有しており、局所と全身への反応は稀(微熱、倦怠、頭痛)で、危険はない。ワクチンは皮下注または筋注で投与するため、 Ped-O-Jet(ピストル型連続注射器)の使用が可能で、大人数に接種するときに大変重宝する。皮内注射は耐忍性がより高く、ワクチン量を節約出来る利点がある。経口ワクチンは Pasteur研究所で開発中で、2錠を7日おいて2回服用する。免疫持続期間がずっと長く、より効果があると考えられる。
予防内服:感染の危険がある個人を確実に防御するために、最も効果的で実際的、かつ費用が一番かからない方法として、アフリカでは強く推進された。
sulfamede系に感受性のあるコレラ菌に対しては、体系的な予防法が出来ている。sulfadoxine (Fanasil, 500mg 錠)を単回で、小児には1/2錠から2錠、大人には3−4錠投与する。 sulfamide系への耐性はますます増えているが、この場合はtetracycline系を1-1.5gを、2-3回に分け、3-4日間投与する。これは集団投与には実用的でない。Fanasilの単回投与は疑診例や接触者(家族、運搬者、周囲の者、治療者、看護者、死体処理者)の予防に用いられる。感染の危険性が高率に持続する場合には、半分の薬用量を15日間内服することがあるが、服用者はそのうち確実に免疫を獲得する。
衛生学的方法、ワクチン、予防内服の組合せは効果が高く、実施されることがある。これは迅速かつ全体的に行なわれねばならず、物資の補給とやり方が問題となる。それぞれの国のコレラの浸淫または流行状況により、そのやり方は様々である。
国際的な予防:強制を伴う国際的な計画は、20世紀には考えられない。昔はコレラの世界的流行が実際に続けば、それだけで不安が増して、大規模な監視体制を強制するに十分であった。コレラ浸淫地への旅行者に対して、コレラの予防接種を強制するのは、病原菌の伝播を妨げることが出来ない以上、疫学的には意味のないことである。しかしながらWHO(世界保健機関)の勧告により、多くの国で感染地域を往来する全旅行者に対して、コレラの予防接種が実施されている。流行が見られない地域に到着した旅行者に、予防内服を強いることは難しい。不法入国者(ヒッピー、放浪者、密売人)を見付け出したり、人間が密集して衛生状況が劣悪な地域(スラム街、キャンプ場、巡礼宿)の監視を行い、最初の症例を隔離して、接触した者を治療することは衛生管理上、完全に行なわれなければならない。それがコレラを休眠状態、ないしは拡大を限局させた状態に抑え込む、唯一の好機なのである。
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