結核の疫学


 結核はMycobacterium tuberculosisM.africanumと呼ばれるヒトへの抗酸菌感染による、全身性疾患である。稀にウシ結核菌M.bovisによる結核も見られるが、ごく僅かである。
この病気は伝染性のある肺結核が疫学上最も重要だが、皮膚から骨、中枢神経系まで全身の如何なる部位にも病巣を作る消耗性疾患であることに注意。特に細胞性免疫が低下したエイズ患者に合併して、早期に死に至ることが近年問題となっている。

 結核は全世界に見られる。日本の結核予防会の発表によれば、全世界の結核罹患者数は17億人で、毎年8百万人が新規感染し、3百万人が死亡していると推定される。日本では1997年の新規感染者数は約43,000人で、1960年以来始めて増加に転じた、と同会は警告している。
結核疫学のもう1つの問題点は、世界的に薬剤耐性結核菌が増えていること。これは不完全な結核治療が一因となっている。WHOの世界結核計画(GTP)では、DOTS (Directly Observed Therapy, Short-course)という保健医療従事者による結核の直接監視下治療を推進している。各国の疫学状況については、GTBのホームページを参照されたい。

 結核は感染者あるいは感染哺乳動物(ウシ、ブタなど)から排泄される飛沫によって伝染するのが一般的。稀に非加熱の感染牛乳や乳製品を経口摂取して集団感染することもある。潜伏期は概ね4-12週間だが、HIV感染者ではこれより短いことが多い。感染力は適切な結核治療を開始してから2週間ほどで消失するが、薬剤耐性菌の場合はその限りでない。初感染者の90-95%は無症候で、気管肺門部リンパ節などに石灰化病変をつくるのみであるが、健常者の約5%、エイズ患者では半数が肺結核や粟粒結核を発病する。無治療の場合、予後は18ヵ月程度で大半が死に至る。


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