個人の予防と浸淫地域の集団予防とに分けて実施する。ここでは個人の予防を中心に、旅行者と居住者に分けて考える。
予防内服
抗マラリア薬の予防内服には幾つかの処方があり、それぞれに長短がある。また個人の体質、浸淫地域の滞在期間によっても処方の優劣がある。
代表的な処方は以下の通り。
予防薬 | 成人用量 | 備考 |
クロロキン | 100mg/日 | ・浸淫地域滞在中と離任後1ヵ月間連用 ・小児用シロップは溶剤で5mg/ml 1歳まで25mg/1日おき 1-12歳30-75mg/日 ・連用が10年を超えると網膜障害の危険性 ・腎障害のある者には連用不可 |
プログアニール | 200mg/日 | ・上記クロロキンと併用されることが多い |
メフロキン | 250mg/週 | ・小児と妊婦には原則禁忌 |
ドキシサイクリン | 100mg/日 | ・細菌、リケッチア感染の間接予防にもなる ・連服は最大4ヵ月まで |
*ファンシダールの予防内服薬としての使用は,Stevens-Johson症候群などの致死性サルファ剤過敏症が2-3,000処方に1回程度発生するため、WHOはファンシダールを予防内服薬として推奨していない
WHO熱帯病部門は、国ごとの予防内服処方を公表しており、原則的にこれに準拠させる。地域的な熱帯熱マラリアの流行時などは、現地の保健医療当局の処方に従う。
また、小児と妊婦のマラリア予防に関しては、滞在地域に応じてCDC Travel Informationを参照。
日本からマラリア浸淫地への旅行者用インターネット情報として、海外渡航者のための医療情報サービスが参考になる。
防蚊対策
マラリア浸淫地では、何よりもハマダラカに吸血されないように努めることが重要。ハマダラカの吸血時間は種によって異なるが、一般に明け方と夕暮れ時が最も活発。
そこで、この時間帯の外出を控えるか、長袖の衣類を着用して忌避剤を使用する。蚊帳を正しく用いて就寝する習慣を身につけ、蚊取り線香で忌避する工夫も大切である。
近年、DDTやマラチオンの残留噴霧に代わって、蚊帳にペルメスリンやデルタメスリンを浸漬させた蚊帳が防蚊対策として注目されている。地域のハマダラカ個体数を減少させるほどの衛生効果は期待出来ないが、プライマリーヘルスケア活動の一部に取り入れられる。
なお各種殺虫剤に抵抗性を獲得した蚊が世界中で増加しており、世界的に地域レベルのマラリア防圧はますます困難になっている。
マラリアワクチン
スポロゾイト、メロゾイト、シゾント、或いはガメトサイトを標的にしたマラリアワクチンが各国で研究させれているが、いずれも有効性はin vitroに止まっている。近年最も期待されたパトレーヨ(コロンビア)らの開発したワクチンのタイでの臨床試験では、「有効性なし」との結論が出された。しかし、ワクチン予防はマラリア撲滅を可能にする唯一の手段であり、ワクチン開発への期待はいささかも減じるものではない。
なお、マラリア浸淫地への旅行者用日本語インターネット情報として、海外渡航者のための医療情報サービスが大変参考になる。
マラリアの地域的な制圧と抑圧については、「マラリア制圧に関する世界宣言」(1992年10月27日、アムステルダム)を参照。
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