マラリア制圧に関する世界宣言
マラリアに関する閣僚会議が、1992年10月27日にアムステルダムで開催された。
全ての政府、健康開発従事者、世界中の地域社会が、マラリアへの緊急の対応を求められていることが表明された。
ここにその宣言を示す。
I
本会議では、マラリアが健康を脅かし、個人、地域、国家の経済的発展を妨げる主要な要因と認識された。世界人口の半数近くが本疾患の危険に曝され、毎年1億の臨床例と百万を越える死亡者を出す原因となっている。
II
マラリア症例と死者の8割以上はアフリカで生じる一方、これは世界の全ての地域で問題となっている。本疾患は若年者と老人を冒す。取り分け小児は危険に曝されており、熱帯アフリカの小児ではマラリアが主要な死因の1つになっており、5才未満の小児の20人に1人は、これで命を落としている。本疾患は同時に小児や妊婦の貧血の原因となり、他の疾病への脆弱化を高めている。本疾患は貧者や虐げられた者を最も重篤に冒し、生殖力を弱体化させ、慢性的な疾病状況の原因となっている。
III
社会的、政治的、経済的な変化が、いずれもマラリアの問題を悪化させている。特に大規模で無秩序な人口移動や、生態系の破壊がその原因となる。
免疫をもたない者が、経済開発の先頭をきってマラリアの浸淫地帯に入れば、その疾患に冒され、身体の不能に陥って、不合理な代償を払わされるのである。
IV
開発による建設と環境変化により、マラリア伝播に好都合な環境が創り出され、かつてマラリアの無かった地域に圧倒的な流行をもたらすことになり、その結果多くの死者や地域の深刻な貧困化を招く。
V
薬剤耐性の拡大により、マラリア治療はますます複雑となり、しばしばクロロキンより高価で毒性の強い新たな薬剤が必要となる。これらの特性から、個人および地域の活動に人々が蚊に吸血されないよう予防する活動が優先されている。実際に抗マラリア剤の予防内服は効力が低下している。
VI
これらの問題にも拘らず、現在利用可能な器材を用いれば、この状況は制圧可能であり、またそうされねばならない。我々が教訓として得た成功への鍵は、正しい戦略を適切な所で、適切な機会に適応し、またそれらを持続可能な状況で適応することである。最も経済力のある国々ではその目標として、マラリアによる死亡を無くし、罹患率を低下させ、地域および国家の力を急速に向上、強化させながら、本疾病による社会的、経済的損失を少なくすることである。再後進国ではこの挑戦は取り分け重要であり、持続的な支援のために国際的な連帯が求められよう。
VII
我々は上記を鑑みて:
*地域および国家の能力強化に重点を置く必要を認識し、それをその国の状況に適応させて、地球規模のマラリア制圧戦略を支援する。
*この戦略のうち4つの技術的要素を支援する。
−早期の診断および迅速な治療を提供すること
−媒介蚊の制圧を含む、選択的で持続可能な予防手段を計画、推進すること
−流行を早期に察知し、制圧ないしは予防すること
−地域の基礎的な能力を強化し、その国のマラリアの状況を、特に生態学的、社会的、経済的な観点から本疾患を決定付けるものから定期的に評価することを可能とする研究を適応させること
*この問題に最も近いことがらを、最も適切で利用可能な資源から利用されるよう、権能の所在を計画の運営機構を中央から分散させることを支援する。
*国家レベルの専門家からなる中核グループに決定権が、国家戦略を決定、実施し、その戦略に協調する健康教育の訓練と監督を行なう、効率的なシステムを推進することを認める。これらのシステムでは特に、実働的な研究や日常的な監視と評価から生じる新しい知識が、継続的に最善の状態で利用されることを確認する必要がある。
*マラリアの問題が継続的に変容するであろうことを認識し、マラリア制圧の戦略もまた、変容しなければならなことを認識しなければならない。マラリア制圧のためのより優れた器材を開発する基礎研究と、マラリアが隆盛する幅広い様々な状況下で、現存する資財を最大限利用することを可能とする応用研究を含めた、継続的な研究と開発の必要性を支持する。社会部門の中には、科学をより以上に広範な支援をする必要性があること、そして全ての人類にとって、それがなされるべき仕事であることを確信することを、我々は確認する。
VIII
我々は我々自身と自らの国家がマラリア制圧に関与し、さらに:
*現存する資財をより使用する可能性をために、現時点での努力と知識をまとめ、現在の活動を拡大するために求められる、付随する如何なる資財も導入するために、未知のニーズを確定する。
*マラリア制圧を健康開発への不可欠な要素として計画し、健康開発を国家開発への不可欠な要素として協調させる。開発計画がマラリアや他の熱帯病を拡散させる潜在性は、それを抑制しようとする健康や社会部門の活動をはるかに上回るものであることを、我々は認知している。関係する地域の社会的、経済的発展に積極的に貢献する計画であれば、それらに健康の方策が盛り込まれねばならない。
*地域社会を我々の活動のパートナーとして取り込み、教育、水資源、衛生、農業、開発分野も同様に巻き込んでいく。
*マラリア制圧をプライマリーヘルスケアの流れで推進し、健康および社会の基盤を強化し、マラリアに冒されている全ての住民が早期診断と適切な治療を受けられるための一機会と捉える。
IX
我々はマラリア制圧の基本的活動は被害国が第一の責任をとるものと認める一方、行動を起こす余裕が最もない国や地域で、この問題がしばしば最悪である、という事実にも注目している。また外部からの支援には時間的に限界があることが不可避であり、合理的な期間内に自己信頼を確立する方向が避けられないことを認識している。国連の諸機関や組織、二国間の事業組織、非政府機関を含む、国際的な開発に関わる者に対して、マラリア制圧への支援を増やし、その世界戦略を協調させ、ワクチンを含むマラリア制圧の新しい手段につながる研究の支援を増大させることを我々は呼び掛ける。これが社会的正義と公平さに基づき、本会議における斯様な支援が、取り分け社会的、経済的発展と世界の貧困の減少に寄与することを求めるものである。
X
世界保健機関が国際的な健康事業の任命と調整の権威者として、組織的な機能を実現し、この世界戦略を国家的に推進のための支援を主導する立場をとることを我々は求める。
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