抗マラリア薬による化学療法
マラリアの治療には様々な抗マラリア薬を用いるが、最も重要な点は、感受性の強い薬剤を一番有利な投与法で迅速に施行すること。
インドシナ半島では、クロロキンやキニーネを含む多剤抵抗性熱帯熱マラリア株が日常的に認められている。WHOでは、世界を3つの群に分け、Aゾーン(マラリアの危険性は一般に低く、クロロキン感受性がある地域)、Bゾーン(耐性が若干あるか不明確な地域)とCゾーン(耐性が高頻度で多剤が存在する地域)には治療上の勧告を定期的に出している。詳しくはWHO薬剤耐性マラリア情報を見よ。
クロロキン抵抗性三日熱マラリアは、インドネシア、パプアニューギニア、バヌアツ、中国南部、ミャンマー、ペルー、エクアドルから報告されている。特にインドネシア、パプアニューギニアの一部では、三日熱マラリアの20-30%が既に耐性という。
WHOによる薬剤耐性の指標
クロロキン25mg/kg、3日間投与した際の熱帯熱マラリア原虫血症の経過
S(感受性あり):赤内発育型が治療1日目から7日目以内に消失し、再燃のないもの
RI耐性:赤内発育型がSと同様に消失するが、再燃するもの
RII耐性:赤内発育型が検出限界程度まで減少するが、再び増加するもの
RIII耐性:赤内発育型が著明な減少を示さないもの
抗マラリア薬
殺繁殖体薬 | 代表的な薬剤 | ||
アミノ-4-キノレイン系 | I群 | 合成型 | クロロキン、アモジアキン |
キニーネ | I群 | 天然型 | キニーネ、キニジン(光学異性体) |
キンガオス | I群 | 天然型 | チンハオス、アルテメーサー |
アミノアルコール系 | I群 | 合成型 | メフロキン、ハロファントリン |
抗葉酸系 | II群 | 合成型 | DDS(ジアミノ・ジフェニール・スルフォン)、スルフォドキシン |
抗フォリン酸系 | II群 | 合成型 | ピリメタミン、トリメトプリム、プログアニール |
主な抗マラリア薬は、ガメトサイトに作用するアミノ-8-キノレイン系殺母胞子薬(プリマキン)を除いて、シゾントに作用する殺繁殖体薬である。
殺繁殖体薬は即効性で薬剤耐性が出現しにくいI群と、遅効性で耐性が早期に獲得されやすいII群に分けられる。
なお現地住民への、さらに地域的な治療薬の選択は、地元保健医療当局の推奨処方に従うこと。
一般名 | 主な商標名 | 1日用量 | 副作用 | 備考 |
クロロキン アモジアキン |
Nivaquine Flavoquine |
内服10mg/kg 筋注5mg/kg、分2 |
長期間の服用 で網膜障害 |
リン酸クロロキンは商標名Aralen(1g中に600mg塩基) 内服初回は1日量、以後3-5日間 |
キニーネ キニジン |
Quinimax | 内服・静注10-25mg/kg (キニーネ・キニジンとも) |
低血糖 QT間隔延長 |
全身状態改善中に意識レベルが突然低下⇒直ちにブドウ糖静注 ジゴキシン血中濃度上昇、抗ビタミンK凝固薬の効力増強 急速吸収・排泄のため6時間最大使用量0.5gまで、黒水熱には禁忌 |
キンガオス | Artemether | 筋注初日80mg、以後半量 | ヨモギ科のArtemisia annuaから抽出 即効性だが殺滅不能なので、原虫血症低下後は他剤へ置換すべき | |
メフロキン | Lariam | 内服25mg/kg、分3 | 目眩・痙攣 悪心・嘔吐 稀に徐脈 |
有効血中濃度は服用4-8時間後、半減期が7-30日 服用後は運転や精密機械操作を慎む 妊婦と15歳未満の小児には原則禁忌⇒緊急非難として使用可 |
ハロファントリン | Halfan | 内服25mg/kg、分3 | 下痢、掻痒 一過性GOT↑ |
急速吸収、半減期1-2日 メフロキンとの交差耐性があり併用不可、妊婦には禁忌 |
スルフォドキシン・ ピリメタミン |
Fansidar | 内服成人3錠、小児1/2-2錠 筋注成人2瓶、小児1/2-1瓶 |
大球性貧血 | 効力が長く持続するので、巡回診療時などに単回投与が可能 Stevens-Jonson症候群、Lyell症候群を稀に合併(特に予防内服で) |
DDS(4-4-ジアミノ・ジ フェニール・スルフォン) |
Dapsone Disulone |
内服または筋注で 初回5mg/kg、以後減量 |
G6PD欠損症 で溶血性貧血 |
非常に安価で、治癩薬として入手しやすい 投与法に拘らずほぼ完全に吸収される、G6PD欠損症で溶血性貧血 |
プログアニル | Paludrine | 内服5-10mk/kg、分3 | 赤血球内外の繁殖体両方に作用、血中濃度は服用後3時間で最高 | |
テトラサイクリン系 | Terramycin Vibramycin |
Tetracycline 1g Doxycycline 200-400mg |
歯牙黄染* | キニーネと併用すると相乗効果大 *幼児の生命危機時に不適応の根拠とならない |
プリマキン | Primaquine | 15mg、14日間 | G6PD欠損症 で溶血性貧血 |
生殖母体と肝内休眠型に作用、後者には2ヵ月後にもう1クール使用 三日熱・卵形マラリアの赤血球外発育型にも作用、妊婦には禁忌 |
抗マラリア薬処方の詳細については、CDC Travel Informationも参照のこと。
輸血の適応
赤血球の破壊が急速に進み、Hb値が5-6g/dl程度まで低下するまで、なるべく輸血は控えるべき。但し、末梢血血小板値<5万/μlでDICを併発し、ヘパリン療法が効奏しない場合は、新鮮血輸血の適応が生じる。
マラリアによるDICの判定目安 | |
出血症状 | Turniquet試験陽性、皮下出血 |
血栓症状 | 呼吸困難、局所神経症状 |
臓器障害 | 意識低下、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、腹痛、下血 |
血液透析の適応
感染赤血球とその副産物である免疫複合体や自己抗体を除去し、血清電解質を正常化させる目的で血液透析を行なうことがある。人工透析のほうが感染赤血球も除去できるので、腹膜透析より効果が高い。現場で透析器が利用できず、また急性腎不全による無尿、高窒素血症、低Na血症、高K血症(心電図T波高で臨床判定)、低Ca血症、高P血症、代謝性アシドーシスなどの水・電解質,酸塩基平衡障害併発した場合には、生理的食塩水1-2Lを用いて、早めに腹膜透析を施行する。
黒水熱では溶血が急激なため、血液透析の他に交換輸血も必要なことが多い。
このページはAMDA学術委員会により作成されました。