マラリアによる合併症は、その殆どが悪性の熱帯熱マラリアに見られる。最初の診断が良性マラリアであっても、熱帯熱マラリアが重複感染していて、後に後者による重篤な症状が現れることがあるので注意。
感染赤血球による障害 | 病態 |
TNF(腫瘍壊死因子)、遊離型酸素の産生⇒発熱発作 | 細胞障害性酸素欠乏症 |
溶血⇒低酸素血症、貧血、Hb溶解産物による腎障害 | 溶血性酸素欠乏症 |
抗赤血球抗体産生*⇒脾機能亢進 | 播種性血管内凝固(DIC) |
微小血管閉塞⇒脳マラリア、多臓器不全、ショック | 循環性酸素欠乏症 |
*抗赤血球抗体産生だけがDIC発生の原因となるわけではない
重症・合併型熱帯熱マラリアの定義
確定:無性増殖型の熱帯熱マラリアが血中に証明され、かつA項目の1つ以上が認められる場合
未確定:B項目に挙げる重症と確定できない他の所見がある場合
A項目 | |
1.脳マラリア | 昏睡度II以上:覚醒反応なし、運動神経反射異常あり |
2.全身痙攣 | 24時間で2回を超える、発作後の睡眠相が15分を超える |
3.重症貧血 | 正球性、Ht<15-20%、Hb<5-6g/dl |
4.腎不全 | 尿量<400mlまたは<12ml/kg/24hr、Cr>265μmol/l |
5.肺水腫 | またはARDS(成人呼吸促迫症候群) |
6.低血糖 | 40mg/dl(=2.2mmol/l)未満 |
7.ショック | 循環器性ショック |
8.出血 | びまん性出血またはDIC(播種性血管内凝固) |
9.Hb尿 | 大量のヘモグロビン尿 |
10.酸性血 | 動脈血pH<7.25、またはHCO3-<1.5mmol/dl |
B項目 | |
1.意識混濁 | 昏睡度Iに至らないもの(Glasgow Coma Scale≧8点) |
2.原虫血症 | 5%を超えるもの |
3.黄疸 | 臨床的黄疸、またはT.Bil.>3mg/dl(=5μmol/dl) |
4.体温異常 | 41℃以上または36度以下 |
(WHO, Severe and complicated malaria. Trans.Roy.Soc.Trop.Hyg.,84.Suppl.2,1990)
A1.脳マラリア(cerebral malaria):頭痛と嗜眠傾向に続いて昏睡に陥る。瞳孔縮小、痙攣・一過性麻痺、腱反射異常、てんかんを呈す。
A2.循環器性ショック:冷マラリア(algid malaria)と呼ばれ、脈拍微弱、浅呼吸、皮膚は蒼白で冷たく、冷汗が認められる。末梢原虫血値は高度。
B4.超高熱(hyperpyrexia):脳マラリアによる発熱中枢の障害により、発病早期から見られる。皮膚は熱く乾燥し、四肢はチアノーゼ状で、失禁も生じる。体温が突如40〜44℃に上昇。冷却の他、ダントロレンがあれば使用。
その他の合併症候
黒水熱(black water fever)
熱帯熱マラリア浸淫地域に数ヶ月から数年滞在し、その間P.falciparumの侵襲を受け、かつキニーネの不規則に投与された者に発症する。突然の腰痛、蒼白、熱発、黄疸、激しい溶血に伴う黒色(またはポートワイン様)のヘモグロビン尿が見られる。血液塗沫標本では、原虫血症は陽性でも僅かしか認められない。
細菌やウイルスの重複感染がしばしば認められるが、基本的にはキニーネによる薬剤性溶血なので、キニーネ投与は禁忌であり、直ちに緊急蘇生、交換輸血、人工血液透析を行なわないと予後不良である。メフロキンの予防内服者でも本症の危険性がある。
四日熱腎炎(quartan malaria)
四日熱マラリア併発する、非特異性基底膜増殖性糸球体腎症によるネフローゼ症候群。4-8歳児に好発し、抗マラリア薬やステロイドに充分反応せず、急速に腎不全に陥る。糸球体の基底膜部に、抗原・抗体の複合体と補体の沈着が認められる。
マラリア性脾腫
脾は、マラリアに感染した赤血球とマラリア抗原に感作された赤血球を取り込んで、マラリアから生体を防御する。そのため、脾摘を受けた者はマラリアが重篤化しやすい。
マラリア性脾腫に対しては、英仏学派間で概念が異なる
過反応性マラリア脾腫は、マラリア浸淫地域で小児が持続的なマラリア侵襲を受け、免疫を獲得している段階、と考えられる。
特発性熱帯性脾腫は、「成人、原因不明、熱帯環境、巨大脾腫」が診断の指針となる。脾腫は無痛性で硬く、外傷性破裂やサルモネラ感染の危険がある。汎血球減少も認められるが、数ヶ月にわたる抗マラリア薬による治療で、症例の3/4はゆっくりと改善する。
熱帯性脾腫症候群(Tropical Splenomegaly Syndorme, TSS)は、「二次性脾機能亢進症の有無を問わず、巨大脾腫を呈し、かつIgMの著明な上昇を認めるもの」をさす。その概念は特発性熱帯性脾腫に近い。
マラリア性脾腫 | 年齢 | 原虫血症 | IgG | IgM | 抗マラリア抗体 | 抗マラリア薬による効果 |
過反応性マラリア脾腫(仏) | <15 | 陽性 | 上昇 | 正常 | 高値 | 急速に反応 |
特発性熱帯性脾腫(仏) | ≧15 | 陰性 | 正常 | 上昇 | 超高値 | 非常に緩徐 |
熱帯性脾腫症候群(英) | 上昇 | 上昇 |
サルモネラ合併症
I型:サルモネラ症にマラリアが初感染したもの
II型:無症候性マラリアにサルモネラが感染して、マラリアが発病したもの
III型:進行性内臓マラリアにサルモネラ症が合併したもの、衰弱のため予後不良
いずれの型でも鼻出血が診断の糸口となることが多い。抗マラリア薬の他に、サルモネラに感受性のある抗生剤を併用する。
下痢性症候群
コレラ型:水様性下痢、悪心・嘔吐などを呈す。重篤な低Na血症に陥る
サルモネラ型:血便・粘血便があり、悪心・嘔吐が強い。高熱を合併
胆汁うっ滞型:黄疸が強く肝障害を認める。上腹部痛と弛張熱が見られる
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