Sorry ,This page is written in JAPANESE. English version is not available

ホモ接合体鎌状赤血球症(hemoglobinopathy SS, symptomatology, ICD 282.6.)


症候;ホモ鎌状赤血球症は慢性溶血性貧血のような症状を呈し、血液検査上の急変や血管閉塞性変化をしばしば来す。また重症の細菌感染症を合併することも多い。赤血球の鎌状化を阻害する胎児型ヘモグロビンが多いために、生後5-6ヶ月までは無症候である。その後に非常に重篤となり、ホモ型の25-50%は2才になる前に死亡する。成人に達する者は5-10%に過ぎない。これらは良い医療を受けられたとか、胎児型ヘモグロビンがより多かった訳でない。恐らく今後はっきりするであろう特別な遺伝子型の保有者なのだろう。
一般的徴候蒼白、軽度黄疸は慢性溶血のためであり、殆ど常に存在する。乳児はしばしば全身状態があまり良好でなく、微熱があり、身長体重の伸びは遅れを示す。より年長となると、しばしば思春期の遅発が認められる。体は長く細っそりして、四肢は先細りで、頭部が大きく見える。顔面はアジア人様で額が出っ張り、後頭部はでこぼこしている。鼻根部は拡大し、顎の変形(顎形成不全症)が見られる。成人では一般に異常な外形を呈す。

急性貧血:貧血が急性増悪するのは3つの状況が考えられる。第1に脾臓の取り込み分利に因るクリーゼは乳児(6ヶ月-3才)特有のものである。時に感染のエピソードが先行し、突然に急性貧血と重症黄疸を来たし重篤な低血流性ショック、急激に肥大する肝脾腫(同部に大部分の赤血球が取り込まれてしまう)を示す。,B>通常緊急輸血しなければ死亡する。このような乳児は救命されても再発することが多い。第2に慢性溶血が著明に強まるための高度溶血に因るクリーゼで、様々な年齢で見られる。他の急性溶血の原因(マラリア、G6-PD欠損症)を検索しなければならない。第3の再生不良性または赤芽球減少を示すクリーゼは、全年齢で起こり、しばしばウイルス感染(肝炎ウイルス、パポバウイルスB19)の終り頃に起きる。赤血球造血が抑制 されて、再生不良性貧血があり、時に白血球や血小板の減少も見られる。自然寛解するのが普通であるが、しばしば輸血を必要とする。

<血管閉塞性>クリーゼ(または<有痛性クリーゼ>または<鎌状赤血球性クリーゼ>:その型、重篤度、発作の長さと頻度は様々であり、症候学的に判断される。このクリーゼは赤血球の鎌状化によって血流のうっ滞、血管の閉塞が生じて、組織の梗塞が起こる結果である。これを引き起こす原因としては、感染、マラリアの発作、脱水、アシドーシス、寒冷や湿気への曝露(雨季)、飲酒、低酸素症(飛行機での旅行、高地滞在、呼吸器感染、無管理の麻酔、過度の運動負荷)などがある。しかし一部に自然発生と思われるものもある。症状の発現は個人毎に違い、同一人でも年齢により異なる。しばしば骨関節、腹背部、胸部などの痛み症状があり、中等度の発熱を伴う。時にはこの痛みは激烈である。内蔵の梗塞が起こることもある。発熱が強い時は、重複感染を疑う。殆どのクリーゼは数日で自然寛解するが、これを繰り返すと組織や器官の虚血部位を形成してしまう。

脾臓・肝臓・腹部臓器:乳児に重篤な<脾臓への取り込み分利>のクリーゼがある場合、脾臓は中等度に肥大する。急性の脾臓取り込み症候群は数時間のうちに発生し、急性貧血を来して、緊急輸血を必要とする。幼児では滅多に脾臓を触知することはないが、広範囲な梗塞を起こし、感染を合併することがある。青年期や成人では微少血栓を繰り返し、萎縮と繊維化を起こして、時には石灰化にまで至る。脾臓の機能不全は放射性同位元素による検査やJolly小体の確認で証明されるが、この場合は易感染性である。肝肥大は成人で顕著となり、肝は硬く、圧痛がある。中等度の肝細胞壊死と様々な程度の胆汁うっ滞が認められ、組織を観ると血流のうっ滞、肝細胞壊死、時に肝硬変が生じ、血色素症、輸血後肝炎の所見が見られる。着色した結石は稀である。腹部に痛みの生じるクリーゼはその程度と地域分布はまちまちであるが、小児に多く見られる。しばしば嘔吐、発熱、腹部板状、麻痺性イレウスを来すが、開腹手術は無益であるばかりか危険(全身麻酔下での低酸素血症に因るクリーゼ)である。この痛みは脊椎などの臓器での微少血栓に因るもので、その程度は肝脾のそれより少ないが、一般には自然に治まる。臓器に重篤な梗塞が生じたときは、何らかの処置を必要とする。

骨と関節:骨と関節の症状は、幾つかの機序によって生じる。生来の溶血のため赤芽球の骨髄過形成となり、これが鎌状赤血球症小児の独特な顔貌の原因となる。放射線学的には5-10%にブラシ毛様の頭蓋が認められ、他に前頭部と後頭部の板間層の肥厚、出歯の異常(歯と顎が突出している)がある。骨粗鬆症と皮質の菲薄化は短骨では小窩状、長骨では繊維状に認められ、圧迫された脊椎(魚の脊椎様)が見られる。
骨関節部の血管閉塞に因るクリーゼは全年齢で発症する。乳児ではしばしば<四肢末端症候群>を呈する。即ち手や足は対称性に炎症腫脹を来たし、熱感があって、第1指骨、時には中手骨や中足骨に痛みが生じる。発熱はよく見られる。約2週間後にX線写真を撮ると、骨膜下の膜状陰影や晶洞が様々な大きさで認められる。転帰は初めのうちは良好だが、繰り返すと骨破壊や成長障害が起こる。幼児での骨性クリーゼは、特に長骨の骨幹端に発症するが、より稀に骨端部や四肢の小骨にも見られる。常に痛みがあり、発熱も見られるが、触知されるような腫脹は普通ない。X線所見は暫くしてから、長骨の骨幹端に様々の大きさの穴のようになって現れ、それが強い炎症反応を起こした骨膜に覆われていて、丁度骨膜炎のような所見を呈す。小骨や骨端部は乳児で見られるのと同じである。無菌性大腿骨頭壊死(より稀には上腕骨や頚骨にも認められる)はより年長の子供に見られる。片側または両側に有痛性の機能障害が生じ、骨頭は不規則な濃淡像を呈す。その後次第に支持力が失われていく。小児と成人の関節のクリーゼは、1つまたは数カ所の関節の炎症性腫脹(膝、足、肘関節)であり、急性関節リュウマチや急性関節炎に類似する。穿刺すると、膿状、無菌性、血性の液体が得られる。夏期に通風発作に見舞われることもある。脊椎はしばしば椎体が平たく、凹面が対面した形を取る。時に特徴的な<骨の中の骨>の所見が認められる。
骨髄炎は特に2-4才児に見られる。反復し、しばしば病巣が複数あり、ブドウ球菌、肺炎球菌、サルモネラ菌などが原因で、稀に他のグラム陰性菌の場合もある。無菌性壊死との鑑別は、この2つがよく合併しているので難しい。臨床的には両者とも疼痛、発熱、機能障害である。X線上で腐骨化像が後で現れることのみが骨髄炎の確認になる。原因菌は血液や病巣からの細菌培養によって検索しなければならない。化膿性関節炎は稀である。

心臓・肺:心臓の所見は、貧血と繰り返す微少血栓、時には肺高血圧の帰結である収縮不全、収縮期雑音、心肥大、拍動異常、伝導と再分極異常である。
貧血があり、循環血が多く、粘度が高まるために、心不全を呈する危険性がより高まっている。肺の症状は様々で、複雑である。感染(特に肺炎球菌に因る肺炎)、痛みを伴う反復性微少血栓は、線維症を起こし、慢性の肺性心、血球や脂質の塞栓に因る広範な梗塞を起こさせる。障害がどの順序で生じたかを明らかにするのは難しい。呼吸器感染は低酸素血症をもたらし、それが赤血球の鎌状化を促進する。

泌尿器・生殖器:尿の濃縮能が(腎髄質の壊死と繊維化の結果)低下するのがよく見られる。腎の微少血栓に因る二次的な血尿と尿路感染は、しばしば認められる。乳頭壊死、ネフローゼ症候群(腎の静脈血栓)、慢性腎不全は稀である。持続勃起症は重篤な合併症で、治療が困難である。妊娠は稀であるが、流産、早期未熟児産、胎児の無酸素症、母体では重症貧血を伴う鎌状赤血球症クリーゼの合併がある。妊娠7ヶ月以上は細かいチェックが必要である。

神経・眼:精神神経学的な小症状(頭痛、目眩、知覚麻痺)やより大きな症状(片麻痺、失語症、痙攣、髄膜症状)は、脳髄質での微少血栓、微少出血、或いは(特に肺炎球菌に因る)細菌性髄膜炎が原因である。これは乳幼児や成人の主な死亡原因の1つである。眼症状は結膜(毛細血管の拡張)や特に網膜(<太陽の黒点様>黒色性無血管性瘢痕)に生じる。網膜剥離や硝子体出血は、失明に至ることがある。

足の潰瘍:あまり多くないが、熱帯に見られる他の潰瘍との鑑別が難しい。

感染症:鎌状赤血球症患者の主要な死因となる。主として敗血症、骨髄炎、呼吸器感染、尿路感染、骨髄炎などである。最も多い起炎菌は肺炎球菌(髄膜炎を起こす危険度は600倍)、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌、連鎖球菌、サルモネラ菌などである。血中の食殺菌能の低下と、脾機能亢進は重複感染を起こし易くさせる2大原因である。それだけで重篤であるばかりでなく、ウイルスや細菌感染症は、血管閉塞性または赤芽球減少性クリーゼを起こし易くする。従って、肺炎球菌に対するワクチンが推奨される。鎌状赤血球症では発熱があると血管閉塞性クリーゼを誘発し、感染が起こり易くなる。

熱帯医学データベースに戻る

AMDAホームページに戻る


      このページは、アムダ企画のご協力により作成されました。

            お問い合わせはmember@amda.or.jpまでお願いいたします。