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鉄欠乏症(iron deficiency, carence en fer)


鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia, anemie par carence en fer, ICD 280.)
疫学(epidemiology)
 人体内の鉄は、女性で2.5g、男性で4gと量的には少ない。鉄にはヘム結合型と非結合型がある。鉄の代謝は、鉄のみの閉鎖系内で行われる。消失量は多くないが、もし補充が行われなければ、欠乏の危険を伴っている。鉄の需要は妊婦と小児で高まっている。鉄の吸収はビタミンC(アスコルビン酸)や動物組織(肉)によって高まる。吸収を阻害するのは、特に茶の中に多いタンニン酸やカルシウム複合体である。
鉄の摂取不良が多いのは、生後18ヶ月またはそれ以上の間、殆ど母乳のみで育てられた乳児である。実際、母乳には1L当たり0.2-0.3mgの鉄しか含まれていないのに対して、乳児は1日におよそ7mgを必要としている。未熟児であったり、母親に貧血があると、胎児期の充分な鉄貯蔵が妨げられ、生後に鉄欠乏性貧血を起こしやすい。より年長の子供や大人では、真の意味で鉄の摂取不良は稀であるが、熱帯での主たる栄養源である植物(穀類)中の鉄は、動物性の栄養源(肉、魚)よりも10倍も吸収のされ方が悪い。鉄の吸収不良は時に胃腸炎、重症の蛔虫・鈎虫症、(一時的な低Cl血症を引き起こす)様々な感染症に合併する。またクワシオルコルの際に他要素の欠乏(アミノ酸、葉酸)と併発したり、土を食べる子供(粘土は鉄や鉛のキュレーターである)にも見られる。生理的必要量の増大による相対的鉄欠乏は妊婦に見られる。妊婦は胎児に300-500mgの鉄を供給している。しかしながら最も重要な鉄欠乏の原因は出血の遷延、即ち性器や消化管からの出血である。鈎虫症は鉄欠乏性貧血の原因の重要な部分を占めている。それに反し、尿路系のビルハルツ住血吸虫症に因る血尿は、稀にしか貧血の原因にならない。

症状と診断(symptomatology and diagnosis)
臨床症状は主に皮膚の蒼白と、他のいずれの貧血にも見られるような機能的な異常である。爪には線条が入って柔らかくなり、スプーンのような形になる(匙状爪)。舌は赤くなって、乳頭が消失する。口角びらんもよく見られる。しかし鉄欠乏による嚥下困難症状は例外的にしか見られない。また同時に無気力、傾眠傾向、注意力低下、時に行動異常、特に異食症 (pica) と呼ばれる土を食べる衝動が抑えられない状態などが現れる。これらの症状は鉄を投与すると消失する。
血液生化学検査では小球性低色素性貧血である。血液塗抹で充分に判らなければ、ヘモグロビン重量とヘマトクリット値により、ヘモグロビン当たりの血球体積の割合と、平均赤血球容積の低下が認められるものである。白血球と血小板は正常である。網状赤血球は低値で、血性鉄は極端に低下し、鉄結合能は非常に増加している。
このような血液学的検査結果が鉄欠乏性貧血の診断を補助し、後は原因の探求が残る。出血部位の確定、鈎虫症やpicaの有無である。小球性だが鉄欠乏性でない貧血というのは、炎症による貧血(ジデロフィリンの低下)、サラセミア、ヘモグロビンC症、ビタミンB6欠乏症(血清鉄は高値)などである。

治療と予防(treatment and prevention)
治療は原因治療と対症治療の二本立てで行う。もし可能ならば、欠乏の原因を抑止することで、鈎虫症や出血性疾患を治療する。鉄欠乏を補正するには、1日1gの鉄をprotoxalate, fumarate (fumafer)といった鉄を含む塩で、1-2ヶ月間経口投与する。デキストラン鉄の筋注はあまり行われない。治療の正当性と効果の判定には、投与後7日目に網状赤血球が貯蔵していることを確認するのがよい。輸血は非常に重症の場合以外に行わない。
予防には妊婦に1日0.1-0.5g、乳児には6.1g/日、未熟児にはそれ以上の鉄を与える。乳児には早めに様々な食物を与えることは重要で、非常に良い予防効果をもたらす。例えば生後5-6ヶ月からは野菜、特に緑黄野菜をスープに混ぜる。生後8ヶ月には卵を与え始め、10-12ヶ月には魚や挽き肉を与えるようにする。しかしこれらが母親から受け入れられるためには、しばしば困難が生じる。鉄を運搬するのに適当な食品が何か、という問題がまだ解決しておらず、鉄補強食品はまだ実験段階を出ない。

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