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ビタミンB1欠乏症(vitamin B1 deficiency, avitaminose B1, ICD 261.)


(同義語:脚気またはベリベリ、 beri-beriとはシンハラ語で虚弱を意味する)
疫学(epidemiology)
vitamin B1またはthiamineは水溶性で、糖質の代謝に必要である。生体には微量しか貯蔵されず、1日の必要量は食餌中の糖質量によって、約0.5-1mgである。妊娠や授乳により、この必要量は増加する。thiamineは基本的に脂肪や穀類に含まれ、取り分け胚芽と果皮に多い。機械で精米すると、これが完全に失われる。母乳はvitamin B1 に乏しい(約 0.3μg/ml)が、その割合は母親によって異なる。ビタミンB1欠乏症は基本的に、精米を食する集団に発生する。極東に広く見られ、ベトナム、中国、インド、ミャンマーに多い。その他の地域では、特にアフリカやアメリカの熱帯地方には極めて稀である。大洋州ではナウル以外には見られない。ベリベリは小児や母乳を飲んでいる乳児の他に、成人でも認められる疾患である。一部では本症にアルコール性の神経と心症状が関連する。

症候と診断(symptomatology and diagnosis)
成人例:神経型(乾性ベリベリ)はアジアに頻繁で、四肢の感覚・運動性多発性神経炎を発症することが多い。痙攣、痛覚過敏、客観的感覚障害(8の字検査で多い)、両側性麻痺、下肢の対称性脱力性麻痺(steppage)、筋萎縮、骨−腱反射の消失を認める。球後性視神経炎を多発性神経炎に合併することが多い。アルコール性のvitamine B1 欠乏ではGayet-Wernicke脳症(錯乱と眼運動麻痺)とKorsakofff症候群(先行性健忘、虚談、失見当識)も認められる。
心型(湿性ベリベリ)は原発性心筋症の像を呈す。発症は急激で進行性だが、呼吸困難と皮下の浮腫を欠如する。聴診では頻搏で微かに gallop性の雑音を聴取する。鑑別の要点は、心搏は幅があり跳躍するように聴こえ、X線上心陰影は発症時には正常なものの急速に拡大し、心内腔の拡大と心嚢内への体液貯留で三角形を呈す点である。心電図では異常は殆どない。循環体液速度の増加と心機能の増大から、本症を疑う。浮腫型(収縮不全がない)や消化器型(慢性下痢とるい痩)といった稀な型にも注意する。

乳児例:急性心型は、滋養良好に見える生後2-4ヵ月の乳児に急激に発症し、この急変により興奮と不眠を見る。次いで蒼白、嘔吐、息切れ、チアノーゼが認められる。理学所見で頻脈、収縮不全、圧痛性の肝肥大、肺のラ音、浮腫、乏尿を示す急性心不全が明らかとなる。数分から数時間内に突然死することがある。thiamineの静注で劇的な改善を示す。失声型は生後5-7ヵ月の小児に、発熱、咳嗽、呼吸困難を伴って何時の間にか発症する。嗄声が急速に出現し、ついには声を失う。乳児は泣き声を出そうとしている様だが、何も聞こえない。喉頭鏡による観察で、喉頭部の筋麻痺か、局所の浮腫が明らかとなる。偽性髄膜炎型は生後8-10ヵ月に突発することが多い。小児は不機嫌で傾眠状態となる。頚部硬直、眼振、散瞳が認められる。髄液は高張性で、正常範囲内の細胞数と中程度のalbumin量を示す。ここで多くの場合、結核性髄膜炎や脳炎を疑ってしまう。自然経過では突然死が生じ得る。急性心型よりも不定期にでもthiamineを実質内投与すると反応がある。

診断:基本的に臨床上は、食餌に関する問診、症候と検討、vitamin B1に対する反応(残念ながら神経型では著効は少ない)で決める。血中のピルビン酸と乳酸の上昇は特異的でない。特別な研究室では、赤血球中のtranscetolaseと血液と尿中のthiamine値を定量している。

治療と予防(treatment and prevention)
vitamin B1は経口か実質内へ投与する。静注ではthiamine性ショックを起す恐れがあるため、急性心型ベリベリかGayet-Wernicke型脳症以外に適応はない。薬用量は乳児では5mg、成人へは50mgを越えてはならない。これよりも多量に、筋注や経口で投与する例が見受けられるが、1日100-200mg 以上を15-20日間投与する必要があるのか疑問である。治療効果は乾性型より湿性型のほうが良好である。
予防的には精米を食する住民にvitamin B1を供給することが勧められる。
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