黄熱の症候


 黄熱の典型例は、出血性肝腎症または《黄熱病性チフス》とも呼ばれる。潜伏期は3-6日。
発病は極めて激烈な40℃前後の発熱、悪寒、頭痛、腰背部痛、全身の筋肉痛で、文字通り病気に打ちのめされるようになる。
 
紅潮期:数時間後に患者は不安、譫妄(夜間が多い)が生じることあり。顔面は紅潮し、結膜は充血して、疲労感に満ちた形相となる。口唇と眼瞼は浮腫状で、舌は鮮紅色を呈し、口臭がひどい。これらが《黄熱病性顔貌》を作る。体温は39−40℃に留まり、脈拍の解離を認める。腹部に硬直はない。肝と脾は正常の大きさである。尿は濃く、回数が少なく、アルブミンが混入する。はっきりとした出血が、しばしばこの期に見られる。一定ではないが、第3病日の終わりに一過性に回復するが、24時間以上続くことはない。
 
黄染期:第4-5病日に始まる。再び40℃まで熱発し、脈拍は普通解離する。衰弱と意識混濁で、全身状態は急速に悪化する。消化管障害では、火が付いたような口渇感、嘔吐、激しい腹痛が生じる。黄疸は広範だが程度は様々で、亜黄疸から黄疸程度は皮膚・粘膜部で明かになる。時おり発黄初期には、皮膚の鬱血で黄疸がはっきりしないが、指で押すと皮膚の赤みがない(まだら兆候)ことで、黄疸の存在が判る。黄疸を有する患者は20−50%が死亡するので、予後判定に重要。点状出血性紫斑や斑状出血、粘膜からの出血(歯肉出血、鼻出血)、時には不正子宮出血や血尿、消化管出血(メレナ、吐血、最重症例では《黒色吐物》)といった出血性症候群が明確化する。腎病変により、臨床上利尿は減り、血液生化学検査では肝腎症が明らかとなる。肝機能検査では広範な細胞溶解(GOTとGPT値の上昇)、抱合型高ビリルビン血症、肝細胞障害性の肝不全(低コレステロール血症、プロトロンビン時間延長)を認める。腎障害では大量の蛋白尿、硝子円柱、時おり血尿、しばしば血中尿素の急激な上昇を見る。血算はほぼ正常である。
    
経過:重症の経過を取った場合、第4-11病日に突然ショック症状(出血性またはそれ以外)で突然死することがある。浸淫地域で地元住民の症例致死率は5%未満。肝性昏睡、尿素血症性の昏睡はこれよりずっと後に起こる。第12病日を乗り切った患者は、その後急速に軽快し、長い回復期を経て治癒する。肝や腎に後遺症は遺らず、終生免疫を獲得する。
 
実際に臨床で見る型:黄熱の重篤度は流行により、また同じ流行でも期間により、大きく変動する。亜急性型では、はっきりとした肝や腎の症状を呈さずに、全身症状の悪化が主体で、2-3日中に死亡する。この型は一般に流行の最盛期に見られ、あたかもヒトからヒトへのウイルスの伝播が速められて、毒性が増大したかのように見える。非定形型では、臓器症状が無かったり、異なった形で認められる。その一部は普通のウイルス性肝炎に類似する。腎障害型は尿素血症性昏睡で引き起こされ、重篤な出血症候なしに認められることがある。心血管型は体腔内出血、心筋障害、および恐らく内毒素型のショック状態による虚脱の結果生じる。黄熱ウイルスによる脳炎は稀で、電解質異常による二次性の精神神経障害がしばしば認められる。軽症型は頻繁にあり、一過性の紅斑(発疹)や肝腎の機能障害を時折伴った、感冒様の有熱症状があった時に推定される。本型の予後は良好である。不顕性型は血清学的にだけ感染が認められたもので、最も多い。セネガル東部では16%の子供が臨床症状なくして血清陽性である。従来から云われる出血性肝腎症が黄熱の主要症候とは言い切れず、非定 形型、軽症型、不顕性型は頻繁にあることに注意。


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