デング熱の疫学


 デングウイルスはフラビウイルスに属し、血清学的に免疫交叉反応を起こさない、4つの血清型に分けられる。最近までデング熱はヒトの間で感染すると考えられていたが、マレーシアではサルの間で森林サイクルが認められた。1981年には、西アフリカの湿潤サバンナ周辺で、黄熱の伝播サイクルにも関与した、デング熱の森林サイクルが発見されている。これは媒介蚊とウイルス保有サルが黄熱のそれと同じであることを意味している。疫学調査で、ヒト間の媒介蚊はネッタイシマカ Aedes aegyptiであった。Ae.albopictusはアメリカやアジアのデング浸淫地域に大量に棲息しており、媒介蚊の可能性がある。しかし、ヒトより動物を吸血する習性があるため、その影響はAe.aegyptiより遥かに小さい。

 疫学的な様式は気象条件によって異なるが、熱帯地方でデング熱は浸淫状態にある。ラテンアメリカ、カリブ、アフリカ、パキスタンから東のアジア南部、豪州北部を含む太平洋諸国が当てはまる。これらの地域では、ウイルスは年中Aedes によって伝播される。現地の成人の大半は免疫され、(現地人に免疫のない新しい型が持ち込まれたのでなければ)臨床症例の多くは小児またはウイルス血清型に未感染の者。西アフリカの熱帯地方では森林サイクルはあるものの、ヒトに流行を起こすものとして重要なのは、インド洋沿岸の都市部や西アフリカの幾つかの大都市にだけ認められる。ヒト-ヒト間の伝染はない。日本を含めて昔、温帯地方でも夏季に流行が突発したことが知られている。

 デングウイルスの血清型には交叉反応がない。取り分け別の血清型による2回目以降の感染(例えば、1型感染の後2型に感染)では出血症状などが著しく、デング出血熱(DHF)またはデングショック症候群(DSS)として臨床上、デング熱(DF)と区別される。5歳未満の患者では体液の血管外漏出により死亡することがある。1997年から98年にかけては、エルニーニョとラニーニャによる地球温暖化現象の影響か、媒介蚊の大量発生が世界中で起こり、デング(出血)熱のパンデミーが発生した。


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